堀内誠一のポケット 第23回

アート|2022.12.16
林綾野 写真=小暮徹

伝説のアートディレクターであり、絵本作家でもあった堀内誠一さん。その痕跡を求め、彼が身近に置いた品々や大切にしていたものをそっと取り出し見つめます。家族しか知らないエピソードや想い出を、路子夫人、長女の花子さん、次女の紅子さんにお話いただきました。堀内さんのどんな素顔が見えてくるでしょうか?

第23回 クリスマスのカード

談=堀内花子

懐かしい父のアドベントカレンダーです。こんなふうに裏から光をあてることを父は考えていたのかしら。素敵ですね。当時、一枚一枚めくってクリスマスを迎えたことを覚えています。蓋をすればまた使えるので、大事にして、翌年も飾ったと思います。
カード作りは父の十八番だったかもしれません。福田繁雄さんとグレースカードという会社でいろいろ作っていたことがあるんです。ポスターとか大きいのはダメだけれど、こういう小さなおもちゃみたいなのは父は楽しんで上手かったと思います。

「母の友」(福音館書店)1969年12月号付録 アドベントカレンダー。
カレンダーの作り方の説明の中で「テーブルに立てて、裏側から光を照らしますと、とてもきれいです」と堀内自ら書いている。扉を全て開け、裏からロウソクの炎で照らしてみるとクリスマスらしい光がなんともあたたか。その後「母の友」2003年12月号の付録として、このアドベントカレンダーが復刻された。
堀内が手がけたクリスマス用のグレースカードの数々。紙が立体的に起き上がって空間が現れる造形がとてもユニーク。

福音館書店の月刊誌「母の友」1969年12月号の付録のために堀内さんがデザインしたアドベントカレンダーです。アドベントカレンダーは、「クリスマスまであと何日だろう?」と楽しみにその日数を数えるための特別なカレンダーで、1日1枚ずつ、クリスマスまでその日の扉を開いていきます。正式にはクリスマスから遡って4週前の日曜日が最初に開く日になるそうですが、今では12月1日から始まるものも多いようです。堀内さんが作ったこのカードでは始まりは「9」から。左の一番下の扉で、中にはヒツジと羊飼いの男の子、開いた扉の裏にはニワトリを背中に乗せたネコ、そして小さなネズミの姿も描かれています。最後にあたるクリスマスイブの「24」は真ん中の一番下で、馬小屋で生まれたばかりのイエスとマリア、そしてヨセフと馬や牛などが描かれています。夜空には星がきらめき、大きな樅の木が立ち並ぶ静かな森。よく見るとフクロウが2羽飛んでいます。扉の中には、靴下をかけてプレゼントを待つ子どもたちや、ケーキにキャンドルを灯す動物たちなど、細かな描写が楽しい絵がいっぱいです。開いた扉の中は黄色い背景に黒い線で絵が描かれていて後ろから照らすと、黄色い光が本当のロウソクの灯のようにあたたかな色味を放ちます。小さなカードの世界にクリスマスらしい工夫がいくつも込められています。
堀内さんはクリスマスのテーマをたびたび描きました。1958年に出された最初の絵本である『くろうまブランキー』、そして10年後の1968年に出された『くるみわりにんぎょう』も共にクリスマスのお話です。さらに時を遡れば、1952年、伊勢丹の宣伝課時代にもクリスマスのキャンペーンパンフレットの構成とデザインを担当し、自ら絵も描いています。日本では、大正時代よりクリスマスの存在は一般に知られるようになっていたようですが、戦後かなり早い段階から堀内さんはクリスマスの存在を意識し、表現する機会があったと言えるのではないでしょうか。
その他にも堀内家にはたくさんの堀内さんデザインのクリスマスカードが残っています。堀内さんに「ロッコール」や「コマーシャル・フォト」のエディトリアルデザインを任せた編集者玉田顕一郎さんが1969年に創設した会社の主力商品だった「グレースカード」です。グレースカードはいわゆるグリーティングカードのシリーズで、堀内さんと福田繁雄さんがアートディレクターを務め、誕生日カードをはじめとする様々なカードが作られたそうです。クリスマスカードは二つ折りのシンプルなものから、飛び出す絵本風の工夫を凝らしたものまで作られました。堀内さんはサンタクロースや天使、クリスマスツリーやプレゼント、星空と雪景色などクリスマスらしいモチーフを様々なタッチで描いています。
アドベントカードはもちろん、グレースカード時代のグリーティングカードも、切って折りたたんだり、立体的になったりと、ちょっとした仕掛けが遊び心をくすぐります。半世紀以上経った今見てもその絵は瑞々しく私たちを引きつけます。ファンタジーをこよなく愛した堀内さん。絵を見る人たちの微笑む顔を思い浮かべながら、可愛く夢に満ちたクリスマスの世界を描き続けたのではないでしょうか。
(文=林綾野)


次回配信日は、1月20日です。


第1回 若き日のパスポート、第2回 初任給で買った画集、第3回 石元さんからの結婚祝い、第4回 パリ、堀内家の玄関 、第5回 トランプ遊びと安野光雅さんとの友情、第6回 ムッシュー・バルマンの瓶と香り 、第7回 ダッチ・ドールと古い絵本、第8回 パペットと人形劇 、第9回 お気に入りのサントン人形、第10回 瀬田貞二さんとの思い出、第11回 愛用の灰皿、第12回 お気に入りのバター型 、第13回 ルイ・ヴィトンのトランク、第14回 梶山俊夫さんの徳利とぐい呑み、第15回 ミッキーマウスの懐中時計、第16回 少年崇拝、第17回 スズキコージさんのスケッチブック(前編)、第18回 スズキコージさんのスケッチブック(後編)、第19回 コリントゲーム 、第20回 谷川俊太郎さんからの手土産 、第21回 2冊のまめ本、第22回 騎士のマリオネット はこちら

・堀内誠一さんの展覧会のお知らせです。

「堀内誠一 原画展 くるみわり にんぎょう」
2022年10月29日(土)~12月25日(日)
銀座・教文館9階ナルニア国

「堀内誠一 原画展 オズの魔法使い」
2022年12月27日(火)~2023年1月22日(日)
銀座・教文館9階ナルニア国

新装版『オズの魔法使い』刊行記念トークイベント
堀内花子 × 林綾野 × 広松健児(新装版『オズの魔法使い』担当編集者)
2023年1月11日(水)18時~19時30分 ( 受付は17時40分より)
会場:銀座・教文館9階ナルニア国 店内
※ 当日は会場設営のため17時にて閉店いたします。
詳しくは教文館ナルニア国のサイトでご確認ください。https://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/info/

・新刊のお知らせです。

『オズの魔法使い』 偕成社 
L.F.ボーム/原作 岸田衿子/文 堀内誠一/絵 
1969年に世界文化社から刊行されたものが、デザイン、装丁もあらたに復刊。堀内誠一のオリジナル原画を最新の技術で新たに取り込み、その美しさを再現しました。

『ここに住みたい』 中公文庫 中央公論新社
1992年にマガジンハウスから刊行された「堀内誠一のここに住みたい」を増補改訂した文庫が9月21日に発売になりました。

堀内誠一 (1932―1987)
1932年12月20日、東京に生まれる。デザイナー、アートディレクター、絵本作家。『anan』や『BRUTUS』、『POPEYE』など雑誌のロゴマーク、『anan』においては創刊時のコンセプト作りやアートディレクションを手がけ、ヴィジュアル系雑誌の黄金時代を築いた。1958年に初の絵本「くろうまブランキー」 を出版。「たろうのおでかけ」「ぐるんぱのようちえん」「こすずめのぼうけん」など、今に読み継がれる絵本を数多く残す。1987年8月17日逝去。享年54歳。

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