堀内誠一のポケット 第14回 

アート|2022.4.1
林綾野 写真=小暮徹

伝説のアートディレクターであり、絵本作家でもあった堀内誠一さん。その痕跡を求め、彼が身近に置いた品々や大切にしていたものをそっと取り出し見つめます。家族しか知らないエピソードや想い出を、路子夫人、長女の花子さん、次女の紅子さんにお話いただきました。堀内さんのどんな素顔が見えてくるでしょうか?

第14回 梶山俊夫さんの徳利とぐい呑み

談=堀内花子


1975年の夏の旅はちょっと特別でした。目的地は初めての東欧、まだ共産圏だったチェコスロヴァキアのブラチスラヴァ。父が渡辺茂男氏に代わってBIB(ブラチスラヴァ絵本原画展)の審査員を引き受けたからです。ご一緒したのは絵本画家の梶山俊夫さんと夫人の寿美子さんでした。『くじらのだいすけ』や『ごろはちだいみょうじん』でその絵はお馴染みでしたが、母と私たち姉妹は初対面でした。父と梶山さんは、師匠瀬田貞二さんのお宅に瀬川康男さんと集うお仲間でした。小柄でどんぐりまなこの梶山さんはキョロキョロといつも何かを見つけている風で、お話に出てくるイタチみたいだと思いました。8月の末にパリに夫妻が到着し、1週間ほどミュンヘン、ウィーンなどを父の立てたスケジュールで一緒にまわったのち、ブラチスラヴァに行きました。山の上の古城のようなホテルで1週間を過ごしましたが、梶山夫妻は途中で先に帰国されたので、お別れの日の朝食が寂しかったのを覚えています。
この徳利とぐい呑みはパリに到着した梶山さんが父に贈って下さったものです。家では普段ワインとウィスキーだった父ですが瀬田邸ではもっぱら日本酒をたのしんでいたはず。父の手帳には「酒(ビン入り)、おせんべ」とあります。中にお酒が入っていたのでしょうか。

梶山がパリの堀内家にお土産として持参した徳利とぐい呑み。梶山自身の絵が全面に絵付けされている。堀内家ではほとんど使うことはなかったが、見れば梶山夫妻との楽しい旅の記憶がふっと蘇るという思い出の品として大切にされてきた。

梶山が絵を描いた金のりんご賞受賞作『かぜのおまつり』(「こどものとも」1972年10月10日配本)とぐい呑み。ぐい呑みに赤ワインを入れるとこの通り。「百人童子が地獄絵みたい」と堀内は綴った。

「梶山夫妻と一緒にチェコに行ってきました」1975年9月18日付の瀬川康男さんへの手紙の冒頭に堀内さんは綴っています。この時の旅は、花子さんたち家族にとっても印象深いものだったようですが、梶山夫妻が同行することは、どうやら直前に決まったようです。堀内さんの手帳には、8月25日に梶山さん夫妻がパリに到着したこと、そして26日には、梶山夫妻が来宅し、旅に同行することを決定したとあります。
堀内さんも、梶山さんも、ブラチスラヴァで開催される絵本原画のコンクール「ブラチスラヴァ世界絵本原画展」、通称BIB(Biennale of Illustrations in Bratislava)の会場に行くことになっており、その前にミュンヘン、ザルツブルグ、ウィーンを一緒に旅して周ろうということになったのです。BIBは1967年に始まった、隔年開催される絵本原画のコンクールで、第1回のグランプリは、瀬川康男『ふしぎなたけのこ』が受賞しています。梶山俊夫さんは1973年に『かぜのおまつり』で金のりんご賞を受賞。1975年のコンクールに際し、ブラチスラヴァへの招待を受けていたのです。花子さんが回想されているように、この年、堀内さんは渡辺茂男さんに替わって審査員を務めることになり、各国の審査員たちと数日にわたって審査を行いました。
時折、陶芸作品も手がけられていた梶山さんがパリを訪ねた際、堀内さんにプレゼントしたという大きな徳利とぐい呑み。この夏の旅から戻った堀内さんは、9月18日、瀬田さんへの手紙にこう記しています。「梶山君からの彼の絵付けのグイ呑み茶わんをもらいましたが絵付けは素晴らしいですね、彼のどの絵本よりも更に好きになりました。ただ赤ブドー酒を入れると百人童子が地獄絵みたいになります。」なるほど赤ワインの中で梶山さんの絵はいつになく幻想的に揺らめいています。二人の交友は堀内さんが亡くなるまで続きます。そして堀内さんが他界してからも路子夫人や花子さんとのやり取りは続きました。堀内さんは自身が絵本作家でありながらも、友人たちの絵も客観的に見つめ、積極的に評価していました。梶山さんとの絆も、お互いの仕事に敬意を持ちながら、時には家族を交えて付き合うという堀内さんならではの友情のあり方だったのではないでしょうか。
(文=林綾野)

次回配信日は、4月28日です。

・堀内誠一さんの展覧会のお知らせです。
「堀内誠一 絵の世界」

2022年7月25日(月)まで
ベルナール・ビュフェ美術館 (静岡・長泉)
https://www.clematis-no-oka.co.jp/buffet-museum/exhibitions/1873/

休館日 水曜日・木曜日(ただし2022年5月4・5日は開館)
開館時間 10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)

<巡回展会期情報>

2022年7月30日(土)~9月25日(日)
県立神奈川近代文学館 (神奈川・横浜)
その後も巡回する予定です。

堀内誠一絵本原画展

『てんのくぎをうちにいったはりっこ』他

教文館ナルニア国店内ナルニアホール(東京・銀座)
https://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/info/6b611384/
2022年4月24日(日)まで
会期中無休 10:00~19:00

堀内誠一 (1932―1987)
1932年12月20日、東京に生まれる。デザイナー、アートディレクター、絵本作家。『anan』や『BRUTUS』、『POPEYE』など雑誌のロゴマーク、『anan』においては創刊時のコンセプト作りやアートディレクションを手がけ、ヴィジュアル系雑誌の黄金時代を築いた。1958年に初の絵本「くろうまブランキー」 を出版。「たろうのおでかけ」「ぐるんぱのようちえん」「こすずめのぼうけん」など、今に読み継がれる絵本を数多く残す。1987年8月17日逝去。享年54歳。

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