堀内誠一のポケット 第9回

アート|2021.12.15
文=林綾野 写真=小暮徹

伝説のアートディレクターであり、絵本作家でもあった堀内誠一さん。その痕跡を求め、彼が身近に置いた品々や大切にしていたものをそっと取り出し見つめます。家族しか知らないエピソードや想い出を、路子夫人、長女の花子さん、次女の紅子さんにお話いただきました。堀内さんのどんな素顔が見えてくるでしょうか?

第9回 お気に入りのサントン人形

談=堀内紅子
パリの家では特にクリスマスらしいことはしませんでしたが、「サントン人形」は特別でした。クリスマスが近づくと本棚に並べ、しばらくの間かざっていました。
この季節、フランスの教会にはたいてい「クレーシュ」と呼ばれるイエスの誕生シーンを再現したジオラマが登場します。サントンはそれのミニチュア版で、南仏・プロヴァンス地方の民芸品の1つです。パリで父はミニコミ誌「いりふねでふね」の刊行に大きく関わっていましたが、1974年の年末・年始号(1975年1月号)では、サントンをイラストで紹介しています。
マリアとヨゼフ、贈り物を携えた三賢者、羊飼いなどの基本の登場人物に加え、鍛冶屋にパン屋、相合い傘の恋人たちなど、サントン人形たちの顔ぶれは何でもありの楽しさ。中でも父が好きだったのは万歳ポーズの「ル・ラヴィ」(喜ぶ男)で、うちでは「おめでた男」と呼んでいました。
友人たちへの手紙にも「おめでた男」をはじめ、サントンの姿をよく描き込んでいましたし、日本に戻ってからもクリスマスになると家の棚に並べていました。民芸品らしい素朴さといい、愉快な感じといい、父は本当に気に入っていたんだと思います。

まるでミニチュアのおもちゃのような「サントン人形」。左端の両手をあげる青い帽子姿の男が、堀内さんの大のお気に入り「おめでた男」。サントンは南仏を代表する民芸品の1つで、とりわけ工房が多いマルセイユでは11月から翌年初めまで「サントン市」が立つ。

《堀内誠一 発 パリの手紙》「装苑」1976年1月号原画。堀内は「最後にちょっとした買い物についてお知らせします」と題して(右側)、サントンについて絵入りで詳しく紹介している。「大きいのは1メートルもあるが、大きいのは気味が悪くて、4センチ位のが可愛いい。」、堀内家のサントンもちょうどそれくらいのサイズのものになる。左は堀内家で保管されていたサントンについてのパンフレット。

堀内誠一さんが、その構成やイラストを全て手がけたミニコミ誌「いりふねでふね」の第6号(1975年1月号)には、「南仏プロヴァンスのクリスマスを飾る土人形 サントン」と題した記事が1面いっぱいに紹介されています。堀内さんによるサントンの絵の下にマルセイユ出身のアンドレ・ムラン氏が「フランスにおけるクリスマス」という文章を寄せました。この号が発行される少し前、1974年11月24日の堀内さんの手帳には、「いりふねでふでね」の次号打ち合わせのためにベルナール・ベローさんと会ったことが記されています。ベローさんは南仏、マルセイユの出身。来たるクリスマスのためにどんな記事を用意するか相談する中で、「サントン」の話が出たのではないでしょうか。後に堀内さんは、「パリからの旅」でサントンのこと紹介する中で、「マルセイユ生まれのベロー氏のお母さんが一そろい買って来てくれた時は大感激だった」と記しています。1974年のクリスマスにはすでに堀内家にはサントンがあったのではないかと思われます。
堀内さんは、まずは「いりふねでふね」のために50体に近いサントン人形の絵を描いています。その1年後、「パリの手紙」1976年1月号のために改めて約20体の絵を描きました。記事の中でも「サントンは顔や衣装だってとても細かく描いてあって、この地方の民俗がとてもよく解る」と感心しきりです。サントンの小さく可愛らしい姿も気に入っていたようですが1つずつ、綺麗に色が塗られている職人芸にも愛着を感じていた様子がうかがいしれます。サントン人形が堀内家にやってきてから約50年の月日が流れる間、ご家族はこの小さな人形たちを愛でながら大切にしてきました。12月20日は堀内さんのお誕生日。サントンともに過ごす堀内家のクリスマスシーズンは誠一さんとの想い出で彩られているのです。
(文=林綾野)

次回配信日は、12月24日です。

・ここで触れた書籍・雑誌
《いりふねでふね》 1975年1月、第6号(堀内誠一 企画・編集 
ベルナール・ベロー発行)
《堀内誠一 発 パリの手紙》 堀内誠一 「装苑」1976年1月号(文化出版局)

・堀内誠一さんの展覧会が開催されます。
「堀内誠一  絵の世界」
大丸ミュージアム〈京都〉(大丸京都店6階)
2022年1月4日(火)―1月24日 (月)会期中無休

入場は午前10時から午後7時30分(午後8時閉場)
※最終日は午後4時30分まで(午後5時閉場)
詳細はこちら


<巡回会期情報>
「堀内誠一  絵の世界」
2022年1月4日(火)~1月24日(月) 大丸ミュージアム京都 (大丸京都店6階)
2022年3月19日(土)~7月25日(月) ベルナール・ビュフェ美術館 (静岡・長泉)
2022年7月30日(土)~9月25日(日) 県立神奈川近代文学館 (神奈川・横浜)
その後も巡回する予定です。

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