堀内誠一のポケット 第8回

アート|2021.11.15
文=林綾野 写真=小暮徹

伝説のアートディレクターであり、絵本作家でもあった堀内誠一さん。その痕跡を求め、彼が身近に置いた品々や大切にしていたものをそっと取り出し見つめます。家族しか知らないエピソードや想い出を、路子夫人、長女の花子さん、次女の紅子さんにお話いただきました。堀内さんのどんな素顔が見えてくるでしょうか?

第8回 パペットと人形劇

談=堀内紅子
 この木彫り頭のパペットは、子どもの手には重たくて、遊んだ記憶はありませんが、ずっと空き瓶にかぶせて、家の本棚に置いてあって馴染みのあるものでした。お姫さまの顔はすっかり黒ずんでしまいましたが、昔はきれいな白木で、凹凸のない幼い顔がマリー・ホール・エッツの描く女の子に似てると思っていました。
 1974年5月、わたしは母や姉より一足先に父とパリへ行きました。そして引越し作業を終えた母が合流するまでの2週間を父と2人で過ごしました。ホームシック気味の9つの娘の気を紛らわせようと、父はいろいろサービスしてくれたのですが、真っ先に連れて行かれたのは、リュクサンブール公園の人形劇小屋です。子どもは前、大人は後ろに席が分かれていて、自分より遥かに年下のパリっ子に混じって見たギニョールのドタバタ劇は、言葉のわからないわたしにはチンプンカンプンで、ひどく居心地が悪かった覚えがあります。

堀内家に残るパペット2体。右:道化師風の人形は、赤い頬に鼻が高くぎょろっと鋭い目。茶色くごつごつとした顔が印象的だ。左:お姫様の人形は金髪に青い目。今着ているドレスは紅子さんのお手製。2体のパペットを操るのは堀内の孫にあたる鈴木新一さん。

右:月刊『ひかりのくに』1973年12月号(336号)。左上:同号の表紙・裏表紙の原画。左下:同号の中ページで紹介された絵の原画。2枚の絵のタイトルは「ぶたいうらはおおいそがし」。子どもたち自身によるクリスマスの出し物として人形劇の様子が描かれている。表紙・裏表紙は舞台の正面から、中ページは舞台裏の様子。古いテープのデッキが時代を感じさせる。

1960年代より取材旅行などで度々ヨーロッパを訪れていた堀内さんは、蚤の市などをつぶさに巡り、気に入ったものがあれば購入していました。このお姫様と道化師のパペットもおそらく旅する中で出会ったもので、堀内さんが長年、大切にしていたものです。1973年12月刊行の『ひかりのくに』に堀内さんは「ぶたいうらはおおいそがし」という2点1組の絵を描いています。1点めは表紙になったもので、クリスマスツリーと出し物の人形劇、そしてそれを観る子どもたちが描かれています。もう1点は人形劇の様子を裏側から捉えたもので、紙吹雪を仕掛ける子やハーモニカを吹く子、そして人形を操る子など、まさしく舞台を描いたものです。この絵には、控えているものもあわせると7体の人形が登場しますが、舞台の上のお姫様と道化師は、堀内家蔵のパペットたちにそっくりです。堀内さんは自身が持っていたものをモデルにこの絵を描いたのでしょう。さらに1年前、1972年に刊行された「てがみのえほん」にも、この道化師のパペットが登場します。長女の花子さんによれば、物心ついた頃、すなわち1965年頃にはこの2体は家にあったそうです。

父とのちょっとほろ苦い思い出として紅子さんが回想するリュクサンブール公園のギニョールのドタバタ劇。フランスで人形劇がギニョールと呼ばれる理由について、堀内さんは「パリの手紙」で紹介しています。劇の最初に「ギニョール」という人形が出てきて、あれこれと説明をする、いわば狂言回しの役割を果たすこのギニョールは、いたずらっぽい明るいキャラクターで子どもたちの友達のような存在で、その名がそのまま人形劇のことを示すようになったそうです。

少年時代から人形が好きだったという堀内さん。パリやリヨン、シチリアなどの旅先でも人形劇が見られると知ると、すかさずご家族を連れて芝居小屋に行かれたそうです。ドイツで見たものについて、大人向けの芸術っぽい感じでつまらない、人形劇は徹底的に子どもが楽しめるものがいいとも書き残しています。古い人形を懐古的に愛でるだけでなく、人形劇とはなんたるかをしっかりと観察していた様子がうかがわれます。物言わぬパペットたちに堀内さんは何を見つめていたのでしょうか。
(文=林綾野)

次回配信は、12月15日です。

・ここで触れた書籍・雑誌
《堀内誠一 発 パリの手紙》堀内誠一「装苑」1976年1月号– 12月号(文化出版局)
『てがみのえほん』堀内誠一 1972年(福音館書店/月刊絵本「こどものとも」200号記念出版)

・『てがみのえほん』を含む「堀内誠一 絵本の世界 復刊セット 6冊」(福音館書店)が、2021年12月24日に発売になります。

・堀内誠一さんの展覧会が開催されます。

「堀内誠一 絵の世界」大丸ミュージアム〈京都〉(大丸京都店6階)
2022年1月4日(火)―1月24日(月)会期中無休
ご入場は午前10時から午後7時30分(午後8時閉場)
最終日は午後4時30分まで(午後5時閉場)

その後、巡回する予定です。

堀内誠一 (1932―1987)
1932年12月20日、東京に生まれる。デザイナー、アートディレクター、絵本作家。『anan』や『BRUTUS』、『POPEYE』など雑誌のロゴマーク、『anan』においては創刊時のコンセプト作りやアートディレクションを手がけ、ヴィジュアル系雑誌の黄金時代を築いた。1958年に初の絵本「くろうまブランキー」 を出版。「たろうのおでかけ」「ぐるんぱのようちえん」「こすずめのぼうけん」など、今に読み継がれる絵本を数多く残す。1987年8月17日逝去。享年54歳。

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