『酒のほそ道』をはじめとして、四半世紀以上にわたり、酒やつまみ、酒場にまつわる森羅万象を漫画に描き続けてきたラズウェル細木。
そのラズウェル細木に公私ともに親炙し、「酒の穴」という飲酒ユニットとしても活動するパリッコとスズキナオの二人が、ラズウェル細木の人生に分け入る──。
本連載もいよいよ最終回。健康的なお酒の飲み方や、これからの『酒ほそ』のことをたっぷりとお届けします。
皆さま、長いお付き合いをありがとうございました!!
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新型コロナウイルスのない世界
パリッコ(以下、パリ):『酒ほそ』には酒をめぐる時代の変化もいろいろと描かれていて、でも『酒ほそ』の世界には新型コロナウイルスはないという設定で進んでいますよね。それはなぜだったんでしょうか?
ラズウェル細木(以下、ラズ):どうしようかなと考えたんですけど、居酒屋でありながら酒が出せないとか、そういう状況を考えると……なんかね。今ってむちゃくちゃ不自由じゃないですか。酒飲みの夢みたいなものを描いているのに、リアルにコロナが出てきてしまうと『酒ほそ』の体をなさないんじゃないかなって。
スズキナオ(以下、ナオ):漫画のなかにだけは、理想の酒場の風景が残っていると。
ラズ:唯一、『美味い話にゃ肴あり』という連載はコロナが存在する設定で描いているんですけど、やっぱりすごく不自由で。客は飲み食いのときはマスクをしてないけど、「酔庵」のマスターとエマさんはずっとマスク。カウンターの上からビニールシートもたらしてあって。それは、絵で見ていてもなんだかうっとうしいんですよね。『美味い話にゃ肴あり』は、最近ちまたで話題になっているようなことを取り上げながら酒を飲むという世界なので、「コロナ? そんなものはありません」じゃ済まないだろうと思って。また、結果的にそれも間違ってもいなかったとは思うんですけどね。ただ、あの不自由さを考えると、『酒ほそ』でやらなくて良かったなと。
パリ:週刊連載で描いているのに、もう2年以上も不自由な状況が続いているというのは辛いですよね。
ラズ:ええ。だからせめて宗達のいる世界だけは、みんなが従来どおり酒を飲んでいて、それを読者の方にも読んでいただきましょう、ということですね。ここへきて、いろんなものがまたちょっと元に戻りつつありますけど、外に飲みに行ったりすると、やっぱりいいなぁと、しみじみ思う。完全に収束したわけではないので、常にモヤモヤとしつつだけど。
パリ:『酒ほそ』の場合だと、単行本のまえがきで、そういう世界の状況に対する思いなどがしっかり語られることが多いですね。
ナオ:それこそ、最新刊のまえがきも、ウクライナの戦争の話から始まります。
ラズ:世界には、爆弾がいつ落っこちてくるか分からない場所もあれば、同じ時間にのんびり赤ちょうちんで酒を飲んでいる人もいる……、いろいろ感じますよね。だからといって酒を飲むのを自粛しましょうってのも変な話だし。それに酒って、歴史上、たぶんどんな状況でも飲まれてきたんじゃないかと思うんですよね。
ナオ:そうですよね。まさにまえがきに書かれているけど、日本が戦争をしていた時も酒を飲んで癒されていた人もいただろう、という。
ラズ:酒を飲んでいるときに空襲警報が鳴ることもあったでしょうからね。『酒ほそ』のまえがきでは、その都度、時代のなかで感じていることを取り上げるようにしています。あれを書き終えると、単行本化の作業が大体終わりなので、ホッとする。でも、何度も言ってるけど、まえがきも含めて書き下ろしをいっぱい書かないと単行本が出ないというのは、本当に毎回しんどくてねぇ〜……。
ナオ:自分が課したルールが自分を苦しめているという(笑)。
ラズ:そうそう。これを51回もやっているのかと思うと「偉いな〜、自分!」って思いますよ。「歳時記 夢之酒」というカラーの口絵も、時間のないなかで描かなくちゃいけないので。
パリ:あれも大変ですよね! 絶対。
ラズ:そう。しんどいんですけど、これがカレンダーにもなるので、そんなにてきとうな絵にするわけにもいかないし。
ナオ:これも第1巻の時点からずっと続けて描いている。
ラズ:だから口絵も、4×51枚はあるわけで。口絵の俳句も新しく考えるんです。極めててきとうなんですけどね。
ナオ:口絵と俳句だけ集めたってかなりのボリュームですよ。
パリ:画集にしてほしいです。ちなみに45巻の口絵では、宗達たちがチェアリングしてるんですよね。
ラズ:はいはい。これはね、おふたりと泡☆盛子さん(京都在住の酒場ライター)が「Meets Regional」(関西エリアを中心に取材するローカルタウン誌)の誌面で、鴨川の河川敷でチェアリングをしていたでしょう。あの3人を見ながら描いたんです。
パリ:構図が一緒で、泡さんも大喜びしてました(笑)。
ラズ:ちなみにこの絵、全体的には、酒井抱一の有名な屏風を模写しているんです。それがまた、むっちゃ大変で! 名のある画家の人はやっぱりすごいんだなと。酒井抱一って大名なんですよね。琳派の画家でありつつ、大名家に生まれていて、それでこんなにすごい絵を描けるんだなと。名画って、模写するとあらためてすごさが分かる。浮世絵なんかもやっぱりすごい。
ナオ:毎回、そういったモチーフとか、この景色を描こうとかっていうアイデアは、どういうタイミングで考えるんですか?
ラズ:担当さんとも「しばらく日本美術のパロディーでいきますか」とか、「また居酒屋シリーズに戻しますか」みたいなことを話します。51巻に描いた京都嵐山の「琴ケ瀬茶屋」は、昔から一度は描きたいと思っていたところだったので、自分で行ったときの写真を見ながら必死で描きました。
ナオ:僕も大好きな場所なので嬉しいです。
ラズ:「たぬきや」「琴ヶ瀬茶屋」「おんたき茶屋」みたいな、ああいう店を「天国酒場」と名づけた人がここにいますけど(パリッコはこうした酒場を「天国酒場」と呼んで訪ね歩いている)、言い得て妙だなと思うなぁ。天国酒場、カラー絵にすると彩りが豊かでね。
ナオ:でも、天国酒場的なスポットもまた、『酒ほそ』には昔から出てきますよね。
ラズ:初期のころにね。だけどそれは、あくまで自分の頭のなかで考えて描いた理想郷なんです。それが実在していることに、後年になってびっくりするという(笑)。
パリ:確かに、『酒ほそ』のテレビ番組(BS朝日で放送されていた「酒のほそ道~今宵も一杯やりますか~」のこと)のロケで「橋本屋」(埼玉県飯能市にある川沿いの名店)に行ったときも、番組のなかで、イメージカットとして使われた過去の『酒ほそ』のワンシーンがあって、それが「橋本屋」にそっくりなんですよね!
ラズ:そうそう! 理想の場所みたいな感じで描いたら、実際にあった。そういう店ってわりと水辺にあるんですよね。ふたりとも好きでしょう? 前から、川面の波紋を見ながら飲むみたいな話をしているじゃないですか。
ナオ:もう水辺ばっかりです。水辺の風景って本当に見飽きないんですよね。しかしやっぱりこうして読むと、我々は本当に影響を受けているというか、ずっと無意識に『酒ほそ』をたどっているって感じですね。
パリ:刷り込まれてる感じがする。
ラズ:理想を追求していくと同じところに行き着くんじゃないですか。
ナオ:なるほど。いい酒やいい酒場を探していると、みんなたどり着く場所があるのかな。
健康的に飲むために
ナオ:30巻の「禁酒」もすごかったな。お酒を止められている男性に酒を飲ませるという(笑)。
パリ:はは! 昔のノリですね、ちょっと。
ラズ:これはモデルがいるんです。
ナオ:えっ、そうなんですか!?
ラズ:ええ。このモデルの人は痛風なんですけどね。
パリ・ナオ:(笑)。
ラズ:痛風の人って、「痛風だけど今日だけいいか」みたいな感じで、プリン体のものをやたら摂取したりしますよね。
パリ:僕、まさに痛風の人ですけど。ほとんど気にしてないですよ。
ラズ:えっ、発症した?
パリ:もう何年も前に! 発症して、最初はほっといたら治ったから、そのままにしといたんですけど、また出たときに病院に行って、それからは薬をもらっています。
ラズ:薬でね、はいはい。
パリ:あと、プリン体ってわりと微々たるもので、飲みすぎのほうがよっぽど良くないって言いますね。あとはもともとの体質と。
ラズ:僕は検査するたびに尿酸値が高いので、発症はしてないけど、なんとなく気をつけたいなと、ずっと思ってる。
パリ:少し前の巻のまえがきで、「健康診断の数値がいろいろ最悪だった」みたいな話を書かれてましたよね。「体重も増えてて〜」みたいな。あれは、常にシュッとしていて健康そうなラズ先生のイメージと、ちょっと違うなって思いました。
ラズ:あれはね、うなぎの連載(『う』)をやっているときですね。うなぎって体に良いって言いますけど、食べすぎるとものすごい体に悪い。
パリ・ナオ:(笑)。
パリ:そんな人、いないですもんね。
ナオ:高カロリーすぎるんですかね。栄養価が高すぎたり。
ラズ:そうそう。うな重にしろ、うな丼にしろ、うなぎとご飯しかないでしょう。あとちょっと漬物ぐらいな感じで。あんなのね、体に悪いですよ。
ナオ:(爆笑)。
パリ:年に数回食べるから美味しいと。
ラズ:1回か2回くらいでちょうどいい。
ナオ:ちなみに、前も聞いたかもしれないですけど、健康的に飲むために普段から心掛けていることはありますか?
ラズ:シメのご飯みたいなものは食べないですね。
パリ:宗達は酒のシメが大好きなようですが。
ラズ:昔は自分もそうだった。やっぱり、年齢とともにいらなくなってくるんですよ。ただ、外で飲んでいるとどうしてもシメの誘惑があるでしょう。最近は家飲みが多いから、そういう意味では助かってる(笑)。炭水化物系は、昼に玄米を食べるとか、その程度ですよ。
ナオ:シメのラーメン、我慢しなくちゃな……。
『酒のほそ道』のこれから
ラズ:そういえば最近読んだふたりの記事にあった、弁当を交互に食べるやつ。あれもおもしろかったな〜。
ナオ:「弁当将棋」ですね。ひとつの弁当にふたりで向き合って、おかずをひとつずつ取っていくという遊び。
ラズ:何がおもしろいって、やってることはくだらないのに、ふたりが向かい合っているポーズだけが、いかにも将棋っぽい(笑)。僕がレシピの連載をさせてもらってる「夕刊フジ」に、久住昌之さんが、いろんな弁当を食べて酒を飲むっていうエッセーを書いているんです。この間バックナンバーを整理していたら、久住さんがきっちり升目に詰められている弁当を買って、ひとりで弁当将棋みたいなことをやっていて。
ナオ:なるほど。どこから食べていくかみたいな。確かに久住さんっぽいかもしれない。
ラズ:自分をふたつに分けて、「じゃあこれからいこうかな」「ああ、そことられちゃったか」みたいに(笑)。あれを思い出して、酒飲みってやっぱり、みんな同じようなことを考えるのかなと。
ナオ:本当に。だから、「これは俺のアイデアだ」みたいなことはないですね。
ラズ:そうなんです。しかもそういう酒のおもしろがりかたについて、「これは俺が最初に考えたんだ」とか言うの、格好悪いでしょ。
パリ:確かに(笑)。
ラズ:かちわり氷に焼酎たらした人だって、今までも多分いたんじゃないかなと思うわけですよ。それを「考えたのは俺だ」なんて、ダサくてしょうがないですよね。というか、大概ね、飲ん兵衛の考えることなんて似たようなものという。だからこそおもしろいのであって。
ナオ:過去の酒飲みたちも「箸置きどうしよう……」って困っていたんじゃないかとか。
ラズ:そうなんですよ。だから、しょせん酒を飲みながら考えることに、大した発明なんてない(笑)。
パリ:そういえば、前にちょっと調べてたら、江戸時代に茶道とか華道みたいな感じで、酒の道で「酒道」というのがあったらしいんです。
ラズ:ほおほお。
パリ:要するに、酒の飲みかたについての作法をまとめたものですよね。どちらに座るとか、注ぎかたはこうでとか……。ただ、それが割と早めに廃れて、資料すらも残っていないらしくて、なんて酒らしくていい話なんだ! と。
ラズ:そう、それですよ。型として残すのもばかばかしいですよ。しかもそれを一生懸命弟子に伝えるなんて、かえってバカというか。「ダメダメ、間違っているじゃないか!」とか、そんな「道」が成り立たないのが、酒のいいところかな。
パリ:酒だけは道が成り立たない。だからこそ「ほそ道」なのかもしれない。
ナオ:『酒のほそ道』。略して「酒道」ですもんね。
ラズ:本当だ!(笑)
ナオ:でも、『酒ほそ』のような酒の飲みかたこそ、酒の道だって気がします。
パリ:そうか! つまり現代の酒道なんですよ! 『酒ほそ』は。
ラズ:はっはっはっは(笑)。酒道の家元なんて、ばかばかしすぎるでしょう。コントみたいで。
ナオ:コント「酒道」、おもしろそう。
パリ:同じこと何回も言ってね。
ナオ:師匠も弟子も、酔っぱらってずっとひとつ目の教えをくり返してる(笑)。
ラズ:(笑)。やっぱり、酔っぱらうという時点で、何かを真面目に追求するものじゃないんですよ。真面目にやっていたことが終わって「ああヤレヤレ」って飲むのが酒なんでね。「道」は成り立たない。
パリ:『酒ほそ』ってこんなにも長く続いていますけど、重要な資料となる情報は多々あれど、じゃあそれを体系だててまとめて、貴重な文化を記録する役割を……みたいな方向には、決してならないですね。
ラズ:いやだって、そんな気持ちがないですから。ただワクワクする思いつきみたいなものに向かってやっていくってだけ。あまり深刻にならずに、気楽に読んでくださいな、というスタンスですよね。
パリ:そのスタンスが変わらないのが実はいちばんすごいんじゃないかなって。人間、年を追うごとに威厳が出て、それこそ行く店のレベルが必然的に上がっていっちゃったりとか、小難しくなっていっちゃったりするものなのに。
ラズ:まぁ、たまに高級店に行くことだってありますけど、ネタにならないんですよね。美味しいものは出てくるんだけど、それを漫画に描いても共感してもらえないでしょう。特に『酒ほそ』の場合、課長にたまにちょっといい店に連れて行ってもらうくらいが、宗達の身の丈に合ってる。作品世界がそれなので、自分の軸が大衆路線なのは変わらないかなぁ。
ナオ:だからこそ、ストロングゼロにも焼酎を足すし(笑)。
パリ:それはもう、大衆路線のさらに先ですよ!(笑)
ラズ:ちゃんぽんっていうか、酒と酒を混ぜる誘惑というかね。
パリ・ナオ:ゆ、誘惑!
ラズ:あれはね……あらがいがたいです。
パリ・ナオ:(爆笑)。
ラズ:なんかね、えへへ感があるんです。こんなことやっちゃった、えへへみたいな。
ナオ:まさに宗達が、えへへっていう顔をしてましたもんね。
ラズ:まず酒飲みは、酒がなくなることがいちばんこわいというか、寂しい。店で酒を頼んで、なかなかやってこないときの心細さというか……「おいおい、取りあえず酒をおくれよ」って。
パリ:あ、そこはよくわかります!
ラズ:それが根本。それを追求していくと、度数は高いほうがいいし、ジョッキは大きいほうがいい。とにかく高い度数のやつに高い度数のやつを入れてさらに高くするみたいな世界になっていく。
パリ・ナオ:(笑)
ラズ:急に真面目になるけど、そう考えると、酒にはやっぱりドラッグ的な要素がつきまとうということを忘れちゃいけない。酒がなくちゃやってられないというのが、アルコール依存の症状。ただ、そこまでいってなくても、酒場で飲んでるときにその軽い症状に近いなって思うことはある。でも逆に言うと、そこを自覚しながら飲むのが大事ってことですよね。酒がドラッグであることを忘れるなかれ。楽しいものなんだけど、こわいものでもあるというのは、絶対忘れちゃならない。……って、自分への戒めも込めてずっと言ってるんですけど。
パリ:(笑)。いやでも、僕やナオさんも、お酒について発信することがある立場として、もってなきゃいけない意識だとあらためて。
ラズ:そうなんです。それは、酒造会社だってそうで、だって、自分たちが売っているものがそういうものであるわけでしょう。「美味しいから、みなさんどんどん飲んでください!」だけでは済まない。という思いは、造っている方々のほうが重々承知しているはずです。とにかくね、そういう「酒」というものをテーマにしながら、二十数年も続けてこられたというのは、ありがたいことです。
ナオ:1994年に連載がスタートしているから、もうすぐ30周年のタイミングが来るんですね。
ラズ:そうですね。
パリ:50巻のときに、「あと5巻くらいで日本でも何位かに入る長期連載のコミックになる」とおっしゃられてましたよね。
ラズ:はいはい。そろそろベスト10ぐらいに入ってくるかという話を編集者さんから聞いたことがある。
パリ:すげ〜!
ナオ:酒漫画としては絶対1位でしょうし!
ラズ:55、56巻くらいからランキングに入るのかな。一年に2冊出るペースだから、あと2、3年って感じですか。
ナオ:あ、じゃあまさにそれが30周年と重なってくるかもしれない。
ラズ:そうですね。あと、連載通算1500回というのもあったりして。
ナオ:今後はお祭りが目白押しなんですね。じゃあもう、ことあるごとに盛大にお祝いしていきたいですね。そして、それを肴に飲むという。
ラズ:ね! コロナが収まって、イベントがいっぱいできればいいんですけどね。それを楽しみにがんばりますよ。
ナオ:いいですね。そうなったら全国ツアーだ!
ラズ:体がもつかな(笑)。だけど、漫画家の先輩方を見ていると、みんな「辛い辛い」と言うわりに、かなりなお年になっても仕事ができている感じがあるので、自分もきっとまだまだがんばれるでしょう。でもなあ……単行本の書き下ろしが、辛いんだよなぁ……。
パリ・ナオ:(笑)。
ラズ:まぁ、そんなにシビアに突き詰める作品ではないので、楽しみながら描いていきたいです。昔、オチをピタッと決めないといけないようなギャグ漫画を描いていた時は、かなりストーリーに費やす時間が多くて、それはそれでまた辛かった。しかも、そういうのをいくら描いても大してウケなかったりしてね。今、『酒ほそ』のてきとうな世界を描いていて、しかもそのほうが読者が多いことを考えるとありがたいですよね。そんなによくできた話を、必死で考えなくてもいいんだって。
パリ:考えなくていい(笑)。
ラズ:気楽にいきましょう、みたいなね。
パリ:いろんなタイプの漫画があるけれど、それが『酒ほそ』の最適解だったということでしょう。
ラズ:ええ。とにかくひたすら、読者の方々ありきですから。だから、まだまだ読みたいっていう要望があれば、がんばってずっと仕事しますよ。
ナオ:おお! 嬉しい。「仕事します宣言」が。
ラズ:そういう声がある限りは、ね。
ナオ:まず僕らが、もっともっと読みたいので。
パリ:そして、読みながら飲みたいので(笑)。
ラズ:この歳になっても飲み仲間がいっぱい増えているし、さらには読者の方々もみんな飲み仲間であると考えると、どんどん仲間の輪は広がっていく。その人たちと楽しく飲むためにも、要望があるうちはずっと描いていこうかなと思います。……どう? なんか結論っぽいですか? これ。
パリ:はい。グッときました!
ナオ:『酒ほそ』の読者のひとりとして、本当に嬉しい言葉です!
(完)
ラズウェル細木
1956年、山形県米沢市生まれ。食とジャズをこよなく愛する漫画家。代表作『酒のほそ道』は四半世紀以上続く超長寿作となっている。その他の著書に『パパのココロ』『美味い話にゃ肴あり』『魚心あれば食べ心』『う』など多数。2012年、『酒のほそ道』などにより第16回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した。米沢市観光大使。
パリッコ
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より、酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『天国酒場』『つつまし酒』『酒場っ子』『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』など多数。
スズキナオ
1979年、東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『関西酒場のろのろ日記』『酒ともやしと横になる私』など、パリッコとの共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』『“よむ"お酒』がある