故牧阿佐美演出作、5年ぶり、待望の再演!
新国立劇場バレエ団が、レオン・ミンクス作曲『ラ・バヤデール』全3幕を5年ぶりに再演した。故牧阿佐美が舞踊芸術監督に就任した翌年の2000年、演出・改訂振付を手がけたもので、四半世紀の間に再演を重ねるうちに作品がブラッシュアップされてきたのだろう。全8公演のうち4回を鑑賞したが、現在のバレエ団の総力を示す上質の舞台が展開された。
まず美術・衣装から。アリステア・リヴィングストンが手がけた舞台は、時を超えて古代インドのエキゾティックな情緒を醸し出し、どの場面も統一感があって美しい。次いでおなじみアレクセイ・バクランの指揮。ピットから身を乗り出して跳びはねるような勢い溢れる指揮は、東京フィルハーモニー交響楽団から、これぞロシア・バレエといったダイナミックかつ陰影に富んだ響きを引き出し、舞台に稀に見る熱気をもたらした。
ニキヤ、ソロル、ガムザッティ、3役の豪華競演に興奮!
今回は何と言っても主要3役の競演が豪華で興奮を誘った。寺院の舞姫ニキヤとその恋人の戦士ソロルは、小野絢子&福岡雄大、米沢唯&渡邊峻郁、柴山紗帆&速水渉悟、廣川みくり&井澤駿の4組交替、ラジャー(王侯)の娘で、ニキヤの恋敵ガムザッティが直塚美穂と木村優里の交替で、それぞれ美を競った。
牧版では、第2幕の太鼓の踊りなど原曲をいくつかカットしているが、第3幕は「影の王国」で終わらせず、ジョン・ランチベリーの編曲により終盤にスムーズにつないで物語の一貫性を尊重。ソロルとガムザッティの結婚式にニキヤの亡霊が現れ、神の怒りで神殿が崩壊、ニキヤの引くヴェールにすがったソロルが救われるかと思いきや、坂の途中で力尽きる。この悲劇的な幕切れは、牧版独自の解釈で、注目の見せ場でもある。
小野&福岡組は、可憐なだけではなく、強い信念を貫き通したニキヤ。ニキヤを裏切りながらも真実の愛に目覚めたソロル。二人の愛と葛藤のドラマが怒涛のように迫り、至芸を見た思い。これに並ぶのが米沢&渡邊組。神に仕える神々しさが傑出し、聖霊となってからは、この世のものとは思えない憑依を遂げた米沢。真摯なサポートで、絶妙なパートナーシップを築いた渡邊。ソロルのヴァリエーションでは、一段とテクニックの精度を高め、宙に静止するような跳躍力は驚異的。
柴山&速水組も、新進プリンシパル・カップルとして、今回脚光を浴びたペアだ。柴山ニキヤは、古典的なシルエットに様式美が感じられ、とりわけ「影の王国」で本領が発揮された。ソロル・デビューとなった速水は、覇気のあるテクニックが清々しく、さらに、ニキヤとガムザッティの間で揺れ動く人物像を掘り下げていけばと思う。
廣川は、昨年の「Young NBJ GALA」公演で、抜粋を踊った時から格段の成長の跡を見せ、まだ伸びしろはあるものの、全幕バレエの大役を踊り抜いたのは自信につながったのではなかろうか。ソロル役の井澤が演技、踊りの両面で、堂々とパートナーを支えたのも手助けとなった。
ガムザッティ、黄金の神像の目を見張る競演!
ガムザッティの競演も話題となった。とりわけ第1幕第2場のソロルを巡ってニキヤとガムザッティが対立し、火花を散らすシーンが圧巻。
さらに二人の対決は、第2幕に持ち越される。木村が、気位が高く、「この世は私のもの」といった傲慢なそぶりも優雅な佇まいで見せたのに対し、直塚は、ロシア仕込みの強靭なテクニックで魅力全開。後者には、日本人離れしたスケールがあり、今後もチャンスを生かしてほしい。
黄金の神像は、神聖なオーラをたたえたプリンシパルの奥村康祐をはじめ森本亮介、木下嘉人、石山蓮が胸のすくような妙技で喝采を浴びた。
ハイ・ブラーミン(大僧正:中家正博と中島駿野)とラジャー(王侯:趙載範と中家)は、いずれもドラマのキーパーソンとして存在感を示した。
全般に群舞のレベルアップが著しく、第1幕のジャンぺの踊りや第2幕のパ・ダクションなどに見応え。とりわけ第3幕「影の王国」の32名の影の群舞は、整然とした風情に詩情をたたえ、随所で盛大な拍手が沸いたのが特筆される。
次回6月公演『アラジン』でも総力を結集した舞台が見られることだろう。
(4月28日昼夜、5月4日夜、5日 新国立劇場オペラパレス)
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