第六回:アイデアを育てる14日間 / 26の問い Vol.2
Pickup 04:『こんな感じ』が表現できるか(Q8)
あなたが育てているアイデアは、突飛なものではないはずだ。多くの人が思いついたことがあるかもしれないが、きっと、あなただけが実現できる。
そこには、いわゆる「差別化」が必要だが、ニッチなところへ行ってはいけない。ど真ん中を縦に登って、うんと格好いいものにすればいいのだ。格好いいという表現がわかりにくければ、「いい感じ」と思ってもらえるようなことだ。
そのためには、あなたのアイデアについて、「こんな感じ」をより精度高く伝えなければいけない。
たとえば、あなたが雑貨屋をやりたいと考えたとしよう。そのままでは、おそらく「今さら雑貨屋かい」で終わる。聞いている人の頭の中には、いわゆる街の雑貨屋が浮かんでいることだろう。
しかし、「無印良品とフランフランを足して二で割ったような感じの」と伝えたらどうだろう。規模感も含め、ちょっといい感じがわかってもらえるのではないだろうか。さらに、より無印的な色合いが強いのか、フランフラン寄りなのかといった方向を示してあげるとわかりやすい。
「カフェをやりたいの」も、「インドの王宮のようなカフェなのよ」でずいぶん変わってくる。イメージを伝える写真やイラストなどがあればベターだ。無印良品もフランフランもインドの王宮も、今この世にすでにある。そうした今あるもので「近似値」を伝えると理解が深まる。
僕は、メタファー(隠喩)+レファレンス(参考)で「メタファレンス」と言っているが、今ないものを別の何かをとたえに用いて表現できる能力はとても大事だ。あなたのアイデアについて、メタファレンスを活用して「こんな感じ」を伝えよう。
そのためには、あなた自身のなかに、「こんな感じ」の材料をたくさん持たねばならない。自分のアイデアと一見、関係がないと思われるようなところに、「こんな感じ」があるかもしれない。そういう意味でも、ときにアイデアから離れ、違う角度から眺めている作業が必要なのだ。
Pickup 05:そのアイデアの中に新しい言葉はつくれるか(Q11)
アイデアの価値は、表現する言葉次第で大きく変わる。言葉は、僕たちが想像している以上に大きな力を持っている。
以前は、犬と言えば血統書つきの品種か雑種だった。雑種の犬も可愛いものだが、価値という面ではひどく低い扱いを受けていた。ところが、誰かが雑種を「ミックス」と新しい言葉で呼んだとたんに、印象がガラリと変わった。
同様に、あたかも手垢がついているようなアイデアでも、新しい言葉で表現できると価値が生まれる。あなたのアイデアに新しい名前をつけてみよう。
「抜け感」「KY」などといった造語も、これまで多くの人が抱いていたけれどうまく言い表せなかった状況を的確に捉え、共有することに寄与している。こうした言葉に敏感であることは、アイデアを育てていく上で有利に働くが、かといって奇抜な言葉をつくりだす必要はない。
既存の言葉を細かく分解していくのも一つの方法だ。
僕が仕事で関わっている旅行業界では、数年前から「旅前」「旅中」「旅後」という言葉を使うようになった。これまで「旅」と表現していたのを分解したのだ。ただそれだけのことなのに、旅を計画しているときのわくわく感をどう演出するか、帰ってきたお客さんにどうやって「また行きたい」と思ってもらうかといった、考えるべきテーマがより明らかになっていく。
あなたのアイデアについて、新しい言葉を創造するチャレンジは、大きな学びとなる。「もっといい言葉はないか」と考えてみよう。なかなか浮かばないようなら、細かくしてみよう。
Pickup 06:未来の仲間はつくれそうか(Q23)
大事なアイデアを語るときは、ヒリヒリするような緊張感と恐怖を覚悟しよう。あなたのアイデアを、「この人こそ」と思える相手に本気で話そう。そして、「一緒にやってくれませんか」「力を貸してくれませんか」と勇気を持って口にしよう。この気持ちはまっすぐに伝えないといけない。
断られるかもしれないが、それを怖がっているうちは、安全地帯から出られない。自分の身を安全地帯に置いて話している限り、誰も本気で「共感」や「協力」はしてくれない。
もし、100%本気で臨んだのに望ましい反応が得られなかったときには、「僕になにが足りませんでしたか」「私のどこが悪かったでしょうか」と食い下がろう。なぜなら、あなたは本気なのだ。妥協しないで猛アプローチしよう。
結局のところ、仲間づくりは恋愛と同じだ。振られて傷つかないように予防線を張っていたら何も始まらない。あなたが誰よりも真剣に誠意を尽くした先に、未来の仲間は待っている。
アイデアを旅に出す
本連載【『アイデアの育て方』-Classroom】では、全6回に渡ってアイデアについての「真実」と「努力の方法」をお伝えしてきた。すべてを伝えきれてはいないものの「ふーん、アイデアってそんなものか。なんとかなりそうだな」とアイデアとの距離感を縮めてくださっていたら、これ以上嬉しいことはない。
アイデアは楽しい。どんな立場にある人が、どんなアイデアを育ててもいいのだ。自分が育てたアイデアを実行してみるとき、大きな幸福感、自己肯定感に包まれる。子どもから高齢者シニアまで年齢問わず、どんな人でも、どんな状況に置かれていても、アイデアを育てる権利はみんな同等に有している。
小さなノートとペンと、あなたの頭があればいい。考えて考えて、自分の人生ひいては世界を変える、アイデアの終わらない旅に出かけよう。
著者は閃くアイデアを求めるよりも、大切なのは平凡なアイデアをじっくりと時間をかけて育てていくことだと説く。 年齢、経験、才能は関係ない。小さなノートとペンと、あなたの頭があればいい。 これからのあなたの生き方を変える一冊。
小沼敏郎 Toshiro Konuma
マルチクリエイター / ビジネスプロデューサー / 実業家 / 作家
<著書>
『アイデアの育て方』東急エージェンシー、2022年
『おにぎりはどこからきた?』東急エージェンシー、2019年
『モクモクはどこからきた?』オンライン絵本(&紙芝居化)一般社団法人 全国木材組合連合会
<掲載>
『For Inspiration -インスピレーションの正体』別冊太陽
『おにぎりのルーツから世界のつながりについて問いなおす絵本』好書好日
『理想のゴールまで、経営者は事業にどう関わるべきかミクシィ流・新規事業の成功法則』ダイヤモンド・オンライン
『企業にとってSDGsは、競争優位性に寄与するキーワード』講談社SDGs
<主な経歴>
Konuma & Co., Ltd. CEO
HIS Co., Ltd. Executive Producer, 戦略顧問
POLA R&M 特別顧問
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ Business Developer
SAKURA法律事務所 Management Director
EY Japan Well-being Initiative Adviser , Creative Director
株式会社電通 新規事業創出 Mentor
三井不動産株式会社 新規事業提案制度Mag!c Advisor
ソニーミュージックグループ アクセラレーションプログラム「ENTX」 Mentor
WIRED / WIRED REAL WORLD Marketing Advisor
株式会社スコラ・コンサルト Partner
<主な実績>
AWS (Amazon Web Service) Summit 2019 のオープニングアクト 総合演出・シナリオライト
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2019‐2022)
株式会社エイチ・アイ・エスのコーポレイトロゴデザイン(2022‐)
株式会社エイチ・アイ・エス のパーパス(HIS Group Purpose)「心躍る(ココロオドル)を解き放つ」考案
株式会社エイチ・アイ・エスのバリュー(HIS Group Value)「冒険と挑戦」「スピードとアジリティ」「バランスと倫理観」コピーライティング
H.I.S.Mobile株式会社コーポレイトロゴデザイン
株式会社明光ネットワークジャパン パーパス・タグライン「やればできるの記憶をつくる。」考案
株式会社明光ネットワークジャパン ビジョン「“Bright Light for the Future” 人の可能性をひらく企業グループとなり輝く未来を実現する」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン バリュー「隣に立つ」「繋ぐ」「自分にYES」コピーライティング
株式会社明光ネットワークジャパン CM制作(yesシリーズ / Executive Creative Director)
個別指導の明光義塾オリジナルソング「yes」作詞
ハウス食品 カモンハウス こども新聞記者プロジェクト 監修
TOKYO MIDTOWN HIBIYA BASEQ主催 QSchool「オリジナリティからはじめる新規事業」講師(2018‐)
Tech Open Air* 2018(TOA)World Tour TOKYO Blockchain 2.0 登壇
POLA R&M me-fullnessプロジェクト ロゴデザイン、ネーミング開発
株式会社オリエンタルランド 未来創造プロジェクト ゲスト講師
Tokyu Agency 2U Academy 「アイデアの育て方 / 仕事の育て方 / 自分の育て方」ゲスト講師