3月の『マノン』を成功裡に終えた新国立劇場バレエ団では、4月から5月にかけて、グラズノフ作曲、牧阿佐美演出・改訂振付『ライモンダ』全3幕を上演した。全10公演。


プティパ最後の大作で、1898年サンクトペテルブルクで初演。中世を舞台に、十字軍の騎士ジャン・ド・ブリエンヌとその許嫁のライモンダの恋の行方を、サラセンの首領アブデラクマンの介入という波乱を交えて描いた壮大な歴史絵巻バレエ。新国立劇場初演は、牧舞踊芸術監督時代の2004年10月。今回は、初演でライモンダを演じた志賀三佐枝をゲストコーチに迎えての再演である。
オケピットには、アレクセイ・バクラン指揮東京フィルハーモニー交響楽団が入り、絢爛としたグラズノフの音楽を十二分に響き渡らせた(4/26昼と5/2昼は冨田実里)。


故牧阿佐美芸術監督の美意識が随所に光る
牧版は、プティパ版の原振付は大きく変えず、数ヶ所曲をカットし、演出と美術に特徴を打ち出している。まず、プロローグで、ライモンダとジャンが婚約していて、ジャンが許嫁にヴェールを渡して出征するシーンを設け、アブデラクマンもまたライモンダに心を寄せているという三角関係を提示。アブデラクマンを決して悪役とせず、サラセンの端正な騎士として描いたのも特色の一つ。
次いで美術は、ルイザ・スピナテッリに委嘱し、15世紀の絵画からインスピレーションを受けた夢幻的な光景が、いかにもイタリア的で洗練されたセンスをうかがわせる。

舞踊的には、主役のライモンダに、5つの主要なヴァリエーションがあるほか、友人たちのヴァリエーションや第3幕のハンガリー様式の踊りなど、次から次へと踊りの饗宴が繰り広げられるのがぜいたく。まず、ライモンダとジャンに扮した5組の主役ペアに拍手を送りたい。厳格な古典のパを様式美豊かに踊りこなしたのは、現在のバレエ団の成熟度を物語るもので、毎晩異なるペアの美技に接することができたのは望外の喜びである。
なお、アブデラクマンは、中家正博が怪我で降板、渡邊拓朗と上中佑樹がダブルキャストで臨んだ。


ロール・デビューに注目! 主役5組の競演
初日に登場した米沢唯&福岡雄大組は、米沢の音楽を奏でるような流麗な踊りに対して、福岡が騎士らしい風格を備えた物腰で応え、騎士と姫君の理想像を示した。


木村優里&渡邊峻郁組は、非常にロマンティックなカップルで、幻想の世界のアダージオでは、ライモンダが夢見心地な表情でジャンに惹かれていく様子が手に取るように伝わってきて、感興を高めた。
この日も、渡邊拓朗がアブデラクマンに扮し、兄弟競演が実現したが、彼は日毎に演技に自信がついたのか、スケールが大きくなっていったのが頼もしい。


公演5日目に登場した直塚美穂&速水渉悟は、共にロール・デビューだが、最もはつらつとした生気を感じさせたペアだった。何より直塚の盤石のテクニックと堂々とした立ち居振る舞いは、新人とは思えず、今後大きな勢力となることだろう。次回の『白鳥の湖』の主演に期待がかかる。速水は、ライモンダの夢の中で、肖像画から抜け出た瞬間から、騎士の輝きがあり、踊りに安定感も出た。


公演終盤に鑑賞した柴山紗帆&井澤駿組は、ライモンダの優しさとジャンの凛々しさがほどよく調和して、典雅な雰囲気を醸し出す。グラン・パの完成度の高さが特筆される。


ベテランの小野絢子と組んだ新進の李明賢のロール・デビューも注目された。スラリとした手足と上背に恵まれ、テクニックもあるが、騎士の役を演じるには、演技が平板に終わったのが惜しまれる。


一方、小野は、ライモンダという役になりきって、物語を紡いでいく。どのヴァリエーションも可憐ながら、誇り高く、自身で運命を切り開いていくような孤高の姿を見た思い。第3幕のピアノ伴奏によるヴァリエーションは、いずれも甲乙つけ難い見事な出来栄えだったが、小野は別格だった。
この日、アブデラクマンを演じた上中佑樹は、ジャンを圧倒する勢いがあり、ライモンダが引かれても不思議ではない貫禄があった。


次々と繰り出されるダンスシーンも見応え充分
ライモンダの4人の友人は、金城帆香、花形悠月、森本晃介、中島瑞生と東真帆、飯野萌子、長谷川諒太、水井駿介の2組が粒揃い。
ワルツ・ファンタジアのヴァリエーションは、第1の根岸祐衣、榎本志結、第2の山本涼杏、堀之内咲希が好演。第2幕のサラセン人やスペイン人の踊りも特色があり、最後にアブデラクマンが踊るソロが官能的で圧巻。例えば、ヌレエフ版のように、もう1曲サラセン人の曲で踊ったならば、アブデラクマンの存在感は、一層増したことだろう。
第3幕では、チャルダッシュやマズルカの後に、グラン・パ・クラシックが続き、ヴァリエーション(飯野萌子、五月女遥、山本涼杏)や男性によるパ・ド・カトルなど、最後まで見応えがあった。
上昇気流に乗ったバレエ団は、次回6月の『白鳥の湖』においても白熱の舞台を繰り広げてくれそうだ。
(2026年4月25、28、29日、5月2日昼夜 新国立劇場オペラパレス)





「SWAN―白鳥―」初の舞台化決定!!
2026年9月上旬
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