特別企画 第1回
黒木華(俳優)
いつまでも刺激的な場であってほしい

カルチャー|2024.9.30
文=新川貴詩
PR:株式会社東急文化村

いろいろなパターンの演劇が見られる場

 シアターコクーンに初めて足を運んだのは、大阪から東京に来てからです。最初は所属事務所の社長に連れられて見に行きましたが、それ以来、自分一人でも足を運ぶようになりました。

シアターコクーンプロデュースの舞台初参加となった『あゝ荒野』(2011年)
原作:寺山修司、脚本:夕暮マリー、演出:蜷川幸雄
©︎谷古宇正彦

 シアターコクーンの印象は、常に面白い作品を上演している劇場。何を見てもハズレがない感じがあって、何度も出かけました。若い演出家や劇作家を起用した新しい企画もあれば、歌舞伎をはじめ伝統的な公演もあって、しかも古典を新しい方法で見せるなど、いろいろなパターンの演劇が見られる劇場というイメージです。ですから、一人の演劇ファンとしてとても馴染みがあります。

印象に残る『るつぼ』『プレイタイム』での経験

海外演出家との初めての作品となった『るつぼ』(2016年)
©︎細野晋司

 そして俳優としても、シアターコクーンの舞台には何度も立ちました。もっとも思い出深いのは、『るつぼ』(2016年)です。演出はイギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身のジョナサン・マンビィさんで、私にとって、初めてご一緒した海外の演出家です。ですから、とてもよく覚えています。
 日本の演出家と比べ、マンビィさんは作っていく過程もまるで違いました。まずは座学から始まって、作品を掘り下げてから稽古に入るんです。そういう進め方は、日本ではあまりありません。

コロナ禍で無観客ライブ配信にチャレンジした『プレイタイム』(2020年)
©︎細野晋司

 それから、『プレイタイム』(2020年)もとても印象に残っています。ちょうど新型コロナのときで、無観客でライブ配信をするという試みでした。映像では伝わらないものがあるから、舞台は生で見るものだと私は思っています。劇場で感じるものが、映像では感じられませんからね。でも、この『プレイタイム』は、途切れることなくその場で起きていることをライブ配信していたので、舞台のいいところと映像のいいところ、その両方が盛り込まれていて、いい企画でした。

プレイタイム(2020年)
©︎細野晋司

客席にしっかりと演技を届けられる劇場

 このように、シアターコクーンでは俳優としてさまざまな経験ができました。
 また、シアターコクーンは観客としても見やすいし、出演する側としてもやりやすい劇場です。音の反響がいいんですよ。客席の奥まで役者の声がしっかり届く。大きすぎず、小さすぎず、絶妙な距離感の劇場なんです。
 シアターコクーン以外にも、Bunkamuraにはよく出かけました。一番上のル・シネマで映画を見たり、カフェの「ドゥ マゴ パリ」でお茶したり。オーチャードホールでは、やはりマンビィさんの演出で『ウェンディ&ピーターパン』(2021年)にも出演しました。

オーチャードホールで公演した『ウェンディ&ピーターパン』(2021年)
©︎細野晋司

新しい役柄に挑戦できた『ふくすけ』

 それから、シアターコクーンがプロデュースを手がけた『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』では、前々からご一緒したかった松尾スズキさんの作品に初めて出られてうれしかったです。大人計画の俳優たちはみなさん魅力的ですし、作品の内容も、話が面白いだけじゃなく、少し毒っ気があったり、そういうところが好きです。

盲目の女性という初めての役柄に挑戦した『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』(2024年)
©︎細野晋司

 今回、私が演じたサカエは目の見えない女性。目の見えない人を演じるのは初めてで、難しく、所作がわからなかったので、松尾さんに薦めていただいた盲目の方に密着したドキュメンタリーを見ました。そうやって、参考資料を見たり、アドバイスをいただきながら所作を身につけていきました。やったことのない役を演じるのは楽しいものです。
 シアターコクーンには、早く再開してほしいです。そして、またあの舞台に立ちたいです。まだご一緒したことのない演出家とも組みたいですし、海外の演出家の作品にもまた出たいです。刺激的なシアターコクーンが戻ってくるのを心待ちにしています。

くろき・はる

1990年生まれ、大阪府出身。2010年に野田地図番外公演『表に出ろいっ!』のヒロインオーディションに合格し、本格的にデビュー。主な出演作に映画『キリエのうた』『ほつれる』『せかいのおきく』『ヴィレッジ』『イチケイのカラス』(2023)、ドラマ『光る君へ』(2024・NHK)、『下剋上球児』(2023・TBS)、『僕の姉ちゃん』(2022・TX)などがある。シアターコクーンプロデュース公演では、舞台『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』(2024)『ウェンディ&ピーターパン』(2021)『プレイタイム』(2020)『ハムレット』(2019)『るつぼ』(2016)『あゝ、荒野』(2011)に出演。

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