「『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展-大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展-」レポート

アート|2024.3.19
文・写真=太陽の地図帖編集部

北海道が生んだ少女マンガ界の巨匠、夢の二人展が開幕!

 2024年3月9日、「『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展-大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展-」が開幕しました。
 会場は作者の大和和紀先生、山岸凉子先生のふるさとである、北海道札幌市の東1丁目劇場。モノクロ83点、カラー45点の原画を展示するほか、北海道や札幌での思い出を振り返る展示コーナーが設けられました。初日のオープニングイベントでは、両先生によるトークイベントが開催され、展示の見どころや当時のエピソードがたっぷりと語られました。
 
 太陽の地図帖では、2016年に『山岸凉子『日出処の天子』古代飛鳥への旅』、2023年に『大和和紀『あさきゆめみし』と源氏物語の世界』を刊行しており、今回の展示には、その誌面の一部をご活用いただきました。
 オープニングイベントとして開催されたトークイベントの内容を交え、現地リポートをお届けします。

オリジナルパネルが設置されたロビー

 ロビーには、二人展の特別パネルが設置され、光源氏や厩戸王子と一緒に写真を撮ることができました。
 また、3月10日からは無料エリアにお二人の作品を読むことができる読書コーナーが設置され、チケットを持たない方も作品に触れることができます。

厩戸王子や光源氏と写真撮影ができるフォトブース

札幌を舞台にしたエッセイマンガを展示した「札幌の二人」

 今回の展示は東1丁目劇場のステージを利用して行われています。展示室に入ると、お二人の年表と、展覧会に向けてのメッセージが。

お二人の年表コーナー。こちらの年表は、「太陽の地図帖」を参考に作られたものです

 最初の展示のテーマは「札幌の二人」。
 札幌にまつわる大和先生、山岸先生のエッセイマンガが展示されています。
 大和先生の作品は「大通公園で子どもしてた頃」。小学生の頃の思い出をつづったもので、現在の姿に整備される前の大通公園での雪遊びやライラックの話など、北海道ならではのエピソードが描かれています。

大和和紀先生の「大通公園で子どもしてた頃」のコーナー

 山岸先生の作品は「手塚先生との思い出」。山岸先生、大和先生がマンガ家としてデビューする前の高校3年生の冬、札幌雪まつりに来られた手塚治虫先生に作品を見てもらったエピソードが描かれています。
 展覧会後に行われた記者会見では、大和先生は「あのマンガを読んで、山岸さんは細かいことまで覚えていて驚きました。私は手塚治虫先生に声をかけるタイミングばかり考えていて、それ以外のことはほとんど覚えていないの」と語ると、山岸先生は「大和さんが頑張って話しかけてくれたおかげで今があるのね」と話し、笑いあっていました。

山岸凉子先生の「手塚先生との思い出」のコーナー

二人の思い出の地とエピソードが詰め込まれた「札幌・北海道の記憶」

 大和先生は20歳まで、山岸先生は13歳から22歳まで、札幌で過ごされました。
 「札幌・北海道の記憶」のコーナーでは、お二人の思い出の地が地図に落とし込まれ、それぞれの場所のエピソードが語られています。
 大和先生のお父様のお店である喫茶店「ポールスター」や、2021年に閉店してしまった「西林」、お二人がマンガの画材を買った「大丸藤井」など、札幌市民には馴染み深いスポットが紹介されています。

大和先生、山岸先生の思い出の地がマップに
それぞれのスポットに、先生方の思い出が綴られています

二人の個性を感じられる「モノクロ原画」展示

 通路を抜けた先には、大きなパネルに描かれた作品解説と人物相関図。 

『あさきゆめみし』の作品解説パネル。人物相関図は「太陽の地図帖」に掲載されたものです
『日出処の天子』の作品解説パネル

 このコーナーには、『あさきゆめみし』『日出処の天子』のモノクロ原画が展示されています。
 原画をじっくりと見てみると、その繊細さに息を呑みます。ホワイトによる修正や細やかな背景や髪の線の一本一本にまで魂が込められ、マンガが「手仕事」であることを改めて感じます。

『あさきゆめみし』のモノクロ原画展示コーナー
「日出処の天子」のモノクロ原画展示コーナー

 『あさきゆめみし』は、源氏物語の「若菜 上」にあたる「其の三十」を1話分まるごと展示。大和先生自身が「絵が安定していた良いとき」という時期の原稿です。

『あさきゆめみし』のモノクロ原画
1話をまるごと原画で読むという贅沢な体験ができます

 『日出処の天子』は、全体から物語のキーとなる場面を山岸先生ご自身のセレクトで展示。
 一つ一つの原画に、山岸先生のコメントが付いています。
 トークイベントでは、大和先生から「このコメントがおもしろいのよ」とのお話も。
 たとえば、毛人が厩戸王子の本心を知ったシーンでは、「今ごろ気づいたンかい、毛人」、大王が弑虐される場面では「最後くらいは大王の顔をちゃんと描き込んでみました」など、山岸先生のツッコミや作画秘話など、ここでしかみられないコメントは、必見です。

『日出処の天子』のモノクロ原画
一枚一枚に、書き下ろしのコメントが付いています

 同じモノクロ原画の展示ですが、お二人の個性が見える展示となっていました。
 

モノクロ原画展示とカラー原画展示の間には、代表作の解説コーナーがあります。

大和先生の代表作コーナー
山岸先生の代表作コーナー

原画の力に圧倒される、「カラー原画」展示

 代表作解説のコーナーを抜けると、いよいよカラー原画の展示。先生方が丁寧に保管されていた美しい原画を間近に見ることができます。
 
 実際に原画と対峙すると、その線の繊細さ、模様と配色の美しさに感動し、また、原画のもつ言葉にできない「力」に圧倒されました。

カラー原画コーナーの中心には、メインビジュアルとなった厩戸王子と光源氏の大きなパネルが設置されています

 そして、原画は意外と小さいということに気づきます。しかし、会場に置かれたパネルのように大きく引き伸ばしてもその美しさは変わらず、むしろディティールがはっきりと浮かび上がり、その繊細な筆遣いに、また感動を覚えます。

『あさきゆめみし』のカラー原画コーナー

 昨今、マンガのデジタル化が進む中で、原画を目にする機会は減っていくのかもしれません。しかし、紙の質感やインクの滲み、筆のタッチ、鉛筆の書き文字、トーンの切り口など、原画だからこそ感じられる手仕事の素晴らしさがあります。

『日出処の天子』のカラー原画のコーナー

 トークイベントでは、お二人からカラー原画についてのお話がありました。

 大和先生は、「山岸先生の絵の背景のピンクベージュの色が美しいので、どうやって色を作っているのか聞いてみたら、その時にある色で作っていると言われて……」と苦笑い。

 山岸先生は、大和先生のカラー原画におけるホワイトの輪郭線の魅力について言及されました。『あさきゆめみし』では、着物などの輪郭線にホワイトが使用されています。印刷された絵でもその線は確認できますが、原画に描かれた一本一本の線を目の当たりにすると、この絵が人の手によって描かれたものであると実感します。

売り切れ続出! オリジナルグッズ&書籍販売コーナー

 グッズ販売コーナーではマスキングテープや御朱印帳など、オリジナルグッズが販売されています。アクリルスタンドや御朱印帳は初日で売り切れが続出。もちろん、『あさきゆめみし』と『日出処の天子』のマンガや関連本も販売されています。

「太陽の地図帖」も販売中。今回の展覧会のために新しくポスターとPOPを制作しました

二人のエピソードが満載の夢のトークイベント

 初日には、オープニングイベントとして、劇場の客席とステージを使ってのトークイベントが行われました。司会はマンガ研究者で「太陽の地図帖」でもおなじみのヤマダトモコさん。スクリーンに映し出された展示室の写真を見ながら、展示の見どころや、お互いのマンガの好きなシーン、高校時代のエピソードなどが数多く語られました。

 大和先生の「山岸さんは昔から男の人ばかり書いていた」という秘話(?)や、山岸先生が当時「大和さんが既にストーリーマンガを描いていたのをみて、これが少女マンガというものなのね」と刺激をうけたというお話など、ファンにはたまらないエピソードばかり。
 お互いの絵の好きなところを語る場面では、山岸先生は「大和さんの描く黒髪が美しい」、大和先生は「山岸さんは爬虫類や龍がお上手」とおっしゃっていました(ただし、後の記者会見で、山岸先生からは「私は(本物の)爬虫類は苦手なんです…」との返しが)。

トークイベントの会場。スクリーンに映し出された会場の写真などを見ながらお話されました

北海道マンガミュージアム構想の想いから生まれた夢のコラボ展

 モンキー・パンチ先生、安彦良和先生、山下和美先生、いくえみ綾先生、荒川弘先生、野田サトル先生などなど、北海道出身の著名なマンガ家は数多く、マンガ家の輩出数は全国で4番目。ある統計では350名を超えるプロのマンガ家がいるそうです。北海道在住のマンガ家も数多くいらっしゃいます。北海道のマンガカルチャーを発信すべく、現在、大和先生、山岸先生らが発起人となり、北海道にマンガミュージアムを設立の要望を行っており、これを受けての実証的な取り組みが札幌市で進められています。この展覧会は、その一環として開催され、ほかでは難しいであろうお二人のコラボレーションが実現しました。

 少女マンガ界のレジェンドである二人が出会い、マンガ家を目指し交流を深めた札幌を舞台に開催された展覧会。ぜひ、この機会に北海道に足を運び、展覧会のあとには、大和先生と山岸先生の思い出の地を歩いてみてはいかがでしょうか。


(*)北海道マンガミュージアム構想
北海道出身のマンガ家・大和和紀氏を代表とし、北海道ゆかりのマンガ家29名(発起人18名、賛同者11名)により提唱された北海道にマンガ文化の拠点となるミュージアムを設立しようとする構想

展覧会ポスター

『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展 -大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展-

会場:東1丁目劇場(札幌市中央区大通東1丁目) 地下鉄大通駅27番出口より徒歩約5分
会期:2024年3月9日(土)〜24日(日)
開館時間:11:00〜19:00(入場は18:30まで)
観覧料:一般1500円、大学生・高校生1000円、中学生以下無料
障害者手帳をお持ちの方と付添人1名は無料
※チケットはローソンチケットまたは会場での販売

公式サイト


太陽の地図帖『大和和紀『あさきゆめみし』と源氏物語の世界』

詳細はこちら

太陽の地図帖『山岸凉子『日出処の天子』古代飛鳥への旅』

詳細はこちら

※重版決定!4月中旬出来予定

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