『大奥』で描かれた怪物、治済。
その真実の姿とは

カルチャー|2021.8.26

江戸城の真の主はあたくしです――『大奥』最大の悪役にして“怪物”と言えば、十一代将軍・家斉の実母・治済(はるさだ)である。松平定信を御三卿の田安家から追い出し、息子を次期将軍にすえ、田沼意次を失脚させ、定信を老中にするも罷免……と、幕府の黒幕的存在として君臨する。母と姉を殺害して藩主の座に就き、家斉のたくさんの子どもたちを毒殺して間引きするなど、良心が欠落した不気味な存在でもある。(P68・竹村誠「 “怪物”治済、その真実の姿」より)

『大奥』中盤のキーパーソンの一人として描かれている徳川治済。『太陽の地図帖 よしながふみ 『大奥』を旅する』では、どのようにして「怪物」治済が生まれたのか。また、史実の治済の人物像に迫っている。

作者のよしながふみは、本書のインタビューで治済についてこう語っている。
――治済はほとんど史料がなかったこともあり、「何の志もない、ただただ恐ろしい人」にしてみました。退屈だからと人を殺しちゃう、そこには理屈はないんです。
私、犯罪の話が好きなんです。『NHKスペシャル 未解決事件』 も震えながら見ちゃう。アメリカの刑務所ドラマ『OZ』もシーズン6まですべて見てしまいました。いろいろな犯罪者が出てくるんですけど、特に興味深いのは「サイコパス」。残虐な殺人事件を平然と起こす人たち。共感性が薄いから平気で嘘がつけるんです。でも、その分、楽しいことも少なくて、物を読んで感動することもないし、心を動かされることもない。でも、サイコパスだから殲滅してしまえ、とも思っていません。犯罪はいけないですが、別に社会の役になんて立たなくても人は生きていていいわけですし。しかもサイコパシー傾向が強いがために英雄になった人物も多いでしょうしね。欠点があるから、偏りがあるから、人って面白いわけで。いろいろな人がいてこそ世の中だ!と思っています。(P102・「よしながふみ特別ロングインタビュー」より)

『大奥』第11巻P60より

史実の治済については、実体はまだまだつかめていないという。
本書に掲載した治済のエピソードを紹介する。

家治の死後、御三家と御三卿(田安家は当主不在)は幼将軍の補佐を任された。これにより治済は幕府の人事について御三家と相談するようになる。意次の処分について御三家と話し、最終的に意次は隠居、蟄居となり、1万石に減封された。その後も、御三家とともに松平定信を老中に推挙するが、大奥の老女や幕閣から反対されている。結局、天明の打ちこわしなどもあり、定信の老中就任は実現した。定信は治済に協力を求め、改革派を幕閣に登用して寛政改革を進めたが、寛政5(1793)年に定信は罷免された。これには治済との関係悪化があったといわれる。伝わる話として、家斉が治済を「大御所」として西之丸に迎えようと提案したところ定信に反対され、家斉は怒り斬りつけようとしたが、御側御用取次の平岡頼長が「将軍が御刀を賜っているので早く頂戴せよ」と定信に言い、その場を取りなしたというエピソードが『続徳川実紀』に記される。『大奥』では治済が大御所になりたいと直に定信に言い、反対した定信が罷免されるシーンがあるが、この話を基にしたと思われる。(P68・竹村誠「 “怪物”治済、その真実の姿」より)

『大奥』第11巻P92より

『大奥』最大の悪役、治済。その真実の姿はどのようなものだったのだろうか。

太陽の地図帖『よしながふみ 『大奥』を旅する』


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