令和の台所改善運動―キッチン立ち話 

第6回「リノベる。」

カルチャー|2023.12.28
文= 阿古真理 編集=宮崎謙士(みるきくよむ) 取材協力=リノベる。

前回に引き続いて、今回もリノベーション会社でキッチン事情についてお話を伺った。取材先は、東京・表参道に本社を置く、中古マンションの物件探しから施工まで行うワンストップ型リノベーションの最大手、全国に44拠点を持つ「リノベる。」である。京阪神と全国区では、求められるキッチンは異なるのだろうか?

 2010年に同社を創業した山下智弘社長については、2023年2月25日の朝日新聞土曜版beで紹介されている。1974年、奈良県で3人兄弟の長男として生まれた山下さんは、近畿大学のラグビー部を経て実業団の選手としてリコージャパンに就職。しかし実力不足を痛感し、1年で退職する。先輩に誘われ建設現場でアルバイトするうち、現場監督を任され、ゼネコンで働くようになった。ところが初めて関わったマンションの建て替えプロジェクトで、数カ月かけて転居を説得した高齢女性に再会したところ、「あんたに人生、奪われた。思い出の家を返して」と胸ぐらをつかまれ泣かれる。ショックを受けて放浪の旅に出た欧米で、古い住まいに手を加え自分らしい暮らしをする人々に出会い、彼女のような不幸を体験させずに済む、とリノベーション事業を思い立った。
 新築住宅は買ったとたんに資産価値が下がり、築年数で評価される。そんな日本の現状を変え、古い建物を大切に使って資産価値を維持しながら暮らす、持続可能な循環型社会を実現したいとインタビューで語っている。

日本の既存住宅取引戸数の割合は、欧米に比べて圧倒的に低く、その活用がこれからの課題になっている。出典:国土交通省「既存住宅市場の活性化について」説明資料より2020年

 同社の営業先は北海道から沖縄までカバーするが、顧客は不動産価格が最も高い東京都の人が半分以上を占め、大阪府、神奈川県、愛知県が続く。51.4%が30代で、平均年齢は約38歳。夫婦・カップルの2人暮らしが34.8%、子どもがいる家族が32.3%、女性がほとんどを占める単身者が32.9%である。平均世帯年収は867.6万円、平均リノベーション単価は1,183万円、平均リノベーション面積は66.5平方メートル。カップルやファミリーは共働きが多い。
 売り上げの7割を占める個人の依頼で、選ぶ物件のほとんどが中古マンションだ。というのは、戸建て住宅の場合、購入前の修繕履歴が分からなかったり、図面通りに施工されていないことが多く、購入前にリノベーションの改修内容やコストの概算を算出することが難しいからだ。価格が安定した築20年以上の管理修繕状況の良い中古マンションを中心に、配管や配線も交換するフルリノベーションを行うことが多いせいか、「住み替えで売却する際、希望価格で売れることが多いです。むしろ利益が出ることもあります」と同社の設計士、山神達彦さんは言う。それは近年、不動産価格が上がり続けていることも影響していると思われる。

山神達彦さん。2016年「リノベる」に入社。マンションリノベーションの設計施工に従事。設計・施工部内で勉強会グループ「AFDL(After Five Design Lab)」を立ち上げ、メンバーの育成とリノベ研究に取り組む。

 山神さんは、ここ数年でリノベーションが一般化したことを実感している。「肌感覚ですが、7年前に入社した頃は、特殊な要望を伺うケースが多かったのですが、最近は、新築かリノベで迷ったうえでリノベを選んだ、という方も増えました」と話す。
 キッチンのトレンドについては、数年前は木の天板に鉄の脚、といったフレームキッチンが人気を集めたが、最近はモノトーンのシンプルでスタイリッシュなキッチンが人気。特に若い世代は、使い勝手よりデザイン性を重視する傾向が強い。
 前回の「アートアンドクラフト」では、大工が作る造作キッチンを選ぶ顧客が大半を占めたが「リノベる」の顧客は、9割がシステムキッチンを選ぶ。以前はカルテで、今はアプリでイメージをビジュアル化しながらヒアリングを行っているが、例えば「フレームキッチンがいいと言っているけど、このお客様はモノが多いので収納を増やしたほうがよい、と提案することもあります」と山神さん。最近は、パントリーの要望が多い。レイアウトについては、収納量を確保しつつリビングダイニングを広く使える壁付キッチンの人気が高くなってきた。

キッチン、パントリー、ウォークインクローゼットがぐるっと回れる回遊動線のキッチン。料理や洗濯などお互いの作業を邪魔せず自由に行き来でき、仕事と家事で忙しい共働きの夫婦にとっても使いやすい。

 家族の様子が分かる対面キッチンは、1980年代から憧れの対象になり、1990年代以降に一般化した。「昔はゾーニングをして、お子さんが入ってこない壁を作りつつ対面キッチンにしました。壁付キッチンが人気になっているのは、IHコンロで緊急時は自動的に止まるなど性能が上がったので、昔ほど安全性が気にならなくなったからかもしれませんし、キッチンに立つ時間が短くなっているからとも感じます」と山神さん。
 壁付キッチンの場合、元の部屋の壁面積に左右されることもあって、サイズが自由に選べるオーダーキッチンにするケースが多い。「コロナ禍以降、オーダーで壁の端から端まで3メートル以上の天板をつけ、一部をワークスペースにする、といったご要望をいただくことが増えました」と山神さん。ワークスペースについては、カップルのうち夫は書斎スペースを作れば済むのに対し、妻は料理の合間に仕事をするので、キッチンとの位置関係を気にする人が多いという。

キッチンとつながるように、ダイニングテーブルを造作した。

 夫婦で一緒に作業するスペースが欲しいから造作にする、ホームパーティをするのでカウンターに何人も座れるハイスツールを置く、夫婦ともゲーム好きで料理をしないので、作業台がほぼない最低限のキッチンにして部屋を広くする、畑仕事があるので1100ミリ幅の大きなシンクを用意して、泥付きの野菜を洗えるようにするなど同社では多様なオーダーを受ける。
「今まではキッチンの一般解があって、とりあえずそれにしておけばいい、としてきたのが、最近は当てはまらない人が増えてきました。特殊解が最適解になっていくのかなと思います」と山神さん。
 山神さんは最近、50年後のキッチンを考える社内勉強会に参加した。その中で出た結論は二極化。「クリナップのHIROMAみたいなミニキッチンを、各居室のテーブル横に置く。あるいはオールラウンドな調理家電に集約され、壁面収納に家電のキッチンがある。レトルト食品などが進化し、火を使わなくなると配管もいらなくなります。一方で、当社の顧客でマンションの部屋の3分の1がキッチンで、お風呂はシャワーブースだけにリノベーションされた方がいますが、料理が趣味の方は、家全体がキッチンと言えるほど広がるかもしれません」と話す。

ひとり暮らしやシニアライフのニーズにも応えるべくクリナップが開発した木製フレームのコンパクトキッチン「HIROMA」。省スペースで場所やレイアウトを選ばず、自在にダイニング空間が作れる。

 私が生活史研究家として、家庭の食事がどうなっているかを見てきた十数年の間、料理を厭う傾向はどんどん強くなってきた。ミールキット、お惣菜の宅配など、負担を減らせるビジネスがどんどん発達している。多忙過ぎる人が多いのも要因の一つだが、時間があっても料理には割きたくない、という人も多くなっているように感じる。料理が嫌いな要因は多様だが、私はその一つに狭過ぎるなどのキッチンの使いにくさ、作業のシェアしにくさもあるように感じている。令和の台所改善運動の実践者としては、料理しやすいキッチンがもっと増えれば、料理へのモチベーションが高まる人が増えると思うのだが、この問題はなかなか複雑な要因があり、簡単には解決できない。となると、特別に凝るわけでもないが料理は普通にする、という人は今後、いなくなってしまうのだろうか?

施設情報

リノベる。表参道本社ショールーム
東京都港区南青山5-4-35 たつむら青山マンション
電話:0120-684-224
営業時間:11:00〜20:00  ※土曜・日曜・祝日は10:00〜20:00
予約・見学はこちらから
https://www.renoveru.jp/showrooms/omotesando_labo

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