Beauty of Form ―緩やかな時の流れ―

第4回 陶磁器作家・新里明士
用の美を超える、磁器の美術表現への挑戦

カルチャー|2023.10.23
文=新川貴詩 写真=濱田晋
PR:セイコーウオッチ株式会社

 圧倒的なハンドワークで腕時計の中に新しい美を追求してきた〈クレドール〉。この度、新たにコレクション 〈Kuon〉が発表された。現代的なエレガントウオッチとして、流麗で美しいフォルムが魅力の〈Kuon〉に共鳴する日本の匠を訪ねてインタビュー。
 今回は、岐阜県多治見市を拠点に、独創的な「光器」シリーズを制作し、世界を舞台に活躍する陶磁器作家・新里明士(にいさと・あきお)氏に創作について聞いた。

論理的思考で辿り着いた「光器こうき

 名付けて、「光器」。
 新里明士が手がける作品シリーズのことである。光が透けやすい白磁に数多くの小さな穴を開け、さらに、穴を透明の釉薬で埋めた後、窯で焼き上げる。
 自然光や照明のもとで、この作品は光を放つかのように見えることがある。器によっては、あたかも点描のような顔つきも示す。この手法を思いついた頃について、新里は振り返る。

新里の工房は白を基調とし、無駄なもののない整然とした空間。刷毛などの道具は手作りして使っているものもあるという。

「ロジカルに考えて、この方法に至った感じですね。やきものといえば“用の美”とよく言われます。でも、用の美だけじゃなく、存在自体が“用”をなす作品ができないかと考えていました」
 新里はもともと中国の昔のやきものに関心を寄せていた。だが、ある日、知人にこう言われる。

中国の技法“蛍手”を新里なりの解釈で白磁に取り入れ、美術的な価値を器に見出した「光器」シリーズ。

「昔のままの形で器をつくったら、使いづらいと言われたんです。フォルムが素晴らしいから、そのままつくったのに。そこで、使うための“用”ではない“用”もあるのではないか、と考え始めました」

手を動かしているうちに イメージが固まってくる

 制作のプロセスについて聞いてみた。事前にスケッチやデッサンをすることはほとんどないという。ぼんやりと大きさや形を頭に浮かべ、ろくろの前に座る。ろくろを回すうちに、フォルムが次第に固まっていく。そして、削る作業でディテールが決まってくる。

器の形成、削り、穴開け位置のマーキング、穴開け作業、どの作業も気の抜けない、集中した時間が続く。

「前もってプランを決めることはないですね。ですから、同じものをつくるのが苦手で」
 サイズが大きな作品だと、ろくろを1時間から1時間半ほど回す。続いて削る工程が2~3時間ほど。そして、穴を開ける作業は、驚くことに36時間に及ぶことすらあるそうだ。
「乾燥するとダメなんですよ、磁器は。ですから基本的に、穴開けの作業はぶっ続けです」

穴を開ける位置を決めて、ガイドラインに沿って穴開けを行なっていく。器が乾燥しないうちに穴を開けなければいけないため、一度作業を始めると手を止めることはできない。

 アシスタントやスタッフは雇わず、新里当人が一人で制作を行う。その理由について、冗談めかして朗らかに語る。
「だって、こんな作業を手伝うのは嫌でしょう、誰だって」
 その後は、焼く作業が続く。工房にはガスと電気の窯があり、素焼きと本焼きで使い分ける。素焼きは1回、次に本焼きを3~4回繰り返す。このような工程で、光器は育まれていく。

用の美を超えた、 美術品としてのやきものの可能性

 新里がやきものを初めて手がけたのは高校生の時だ。校内に窯がある高校で、工芸の授業で陶芸に触れ、やきものの面白さに目覚めた。だが、進学にあたっては美大や芸大は選択肢になく、文学部に進む。

「進学校だったので、美大の情報は入ってこなくて」
 大学では陶磁器のサークルにも入った。栃木県の益子に合宿に出かけるなど、熱心に取り組んだ。
「サークルとはいえ、かなり本格的で。やきものの世界に進んだ人もけっこういるんですよ」

 手を動かす一方で、美術館やギャラリーなどを見て回った。そして、オブジェのような現代的な陶磁器の作品に触れるうち、徐々に作家になろうと決意する。
「今の表現もあるんだ、できるんだと気づいたんです。もともと美術への関心もあって、美術のジャンルのひとつとして工芸もあるのかなあと。映像やインスタレーションなど表現形態がいろいろある中で、やきものも美術としてありうると考えるようになりました」
 そして、大学を辞め、多治見市陶磁器意匠研究所の門を叩く。そして、2003年に初個展。今も、多治見のそばに工房を構える。

光を透過し模様が浮かび上がる「光器」シリーズは、デザイン性も高く、発表されてから今なお国内外で注目をされている。

「光器のシリーズを始めて20年が経ちました。前は技術的にできなかったことが、今はできるということが増えてきました。長年続けているうちにスキルが上がったんですね。当時は『できているつもり』でいましたよ。でも、今の目で見ると、全然できていなくて。前例がない作品を制作しているので、仕上がりの基準も自分でつくるしかないんです」

やわらかい曲線のフォルムに 色気を感じる

柔らかく、流れるようなKuonのフォルムに「色気を感じる腕時計ですね」と新里も息を呑んだ。

 このように、新しい手法で磁器作品を手がけてきた新里の目に、〈クレドール〉のKuonはどう映るのか? 
 新里がまず着目したのは、磁器ダイヤルだ。厚めに塗った釉薬によって、とろりとした質感が特徴的な文字盤である。

「精度がすごいですよね。磨いて磨いて、あたたかみと透明感を出しているわけですね。それに、青みがかってない白い色もきれい。ほぼ宝石ですよ、これは」
 ほぼ宝石──そのココロは?
「中国の青磁でいえば、この時計は玉(ぎょく)です。たとえば、1mmの厚さの磁器に釉薬を5mmも塗って、宝石のような質感を出すわけです。磁器はもともとの素材が石。ですから玉を目指すんです」

躍動感のあるケースの側面の稜線に「美しい稜線のラインですね」と新里も感嘆の声を漏らした。

 Kuonの磁器ダイヤルは、針やインデックスも独特である。針はテンパー針と呼ばれる鉄の素材でできており、焼き続けるとブルーになり、さらに作業を続けるとグレーへと変化する。熱するとともに刻一刻と変わっていくため、美しい色合いなった一瞬を見切って取り上げるのは熟練の技が求められる作業だ。インデックスも転写による上絵付を施し焼成することで、色褪せない美しさを実現した。
 また、Kuonは磁器ダイヤルの他にも特徴がある。ひときわ目を惹くのは、ケースからブレスレットに続く流れるようなフォルムだろう。ゆるやかな時の流れをまとうかのような、柔らかな造形に仕上げた。

ケースとブレスレットを一体化させたフルフロースタイルで、装着時も腕にスッとフィットする。

「やわらかい線もいいですね。女性らしいやわらかさとはちょっと違って、シンプルだからこその色気を感じます」
 なお、Kuonとは「久遠(くおん)」という、時が無限に続くことを示す仏教用語に基づく。新里はうなずきつつ、こう語った。
「つまり、時間がずっとつながっていく感じですね。私の制作も、たとえば36時間の作業の後も、そこで終わるわけではありません。すぐに次の作業につながっていきます。“Kuon=久遠”のような制作スタイルが理想ですね」

<クレドール>
Kuon

「コンテンポラリー エレガンス」を追求してきた〈クレドール〉から、時代に即したフォルムが登場。ケースからブレスレットに続く、流れるようなフォルムが美しいデザインとなっている。さりげなく目を惹くシルエットでありつつ、装着性にもすぐれ、デザイン性と機能性の両立を見事に果たしている。

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