有馬龍子記念京都バレエ団「トリプルビル」より『アルカード』(振付:アティリオ・ラビス)中心は藤川雅子、鷲尾佳凜 撮影:瀬戸秀美

関西の夏を彩ったバレエ公演 ~京都バレエ/西野麻衣子公演/佐々木美智子バレエ/地主薫バレエ

カルチャー|2023.9.29
文=菘あつこ(舞踊評論家、フリージャーナリスト)

 7月から8月にかけて、関西でも連日バレエ公演が続く夏となった。海外で活躍するダンサー達が出演するガラも多々行われたが、今回は特に地元関西に根ざした意欲的な公演をピックアップしてご紹介したい。とはいえ、それもまた、世界のバレエ、関西から世界に羽ばたくダンサー達の活躍と切り離せないものだった。

京都バレエ団「トリプルビル」 パリ・オペラ座との絆が随所に光る

 まずは、長年、パリ・オペラ座バレエ団から振付家や指導者、ダンサーを招聘し続けている有馬龍子記念京都バレエ団の「トリプルビル」(7月23日、ロームシアター京都メインホール)。今年の1月25日に逝去した元エトワールのアティリオ・ラビス振付の『アルカード』を、2018年の大晦日に引退した元エトワール、カール・パケットが指導。パケットとラビスは強い信頼関係があったようで、“フランスのエレガンス”という言葉がぴったりな、慎ましさの中に眩いきらめき──そんな世界が舞台上に繰り広げられた。

有馬龍子記念京都バレエ団「トリプルビル」より『アルカード』(振付:アティリオ・ラビス) 北野優香、吉岡遊歩 撮影:瀬戸秀美

 中心は、高い技術を基に気品と穏やかさを感じさせた2人、藤川雅子と鷲尾佳凜。パ・ド・トロワの中の北野優香も香り立つような魅力で惹きつけた。北野は堀内充振付の『ロゼット』の中心でも活躍。エリック・カミーヨの指導で上演されたのは『卒業舞踏会』(原振付:ダヴィット・リシーン)。ロマン派時代のウィーンの良家の子女達の品を崩さない上で、さまざまな役柄が登場。そこでクスッとさせる演技が光ったのが三つ編み女生徒の平古場菜穂。優等生の若い女生徒・梅本ゆらの伸び伸びとした踊りも好感が持てたし、鼓手の妹尾充人の清潔感を感じさせる踊りも目を引いた。

有馬龍子記念京都バレエ団「トリプルビル」より『Le Bal des Cadets「卒業舞踏会」』(原振付:ダヴィット・リシーン) 撮影:瀬戸秀美
有馬龍子記念京都バレエ団「トリプルビル」より『Le Bal des Cadets「卒業舞踏会」』のリハーサルで河野真里杏を指導するエリック・カミーヨとカール・パケット
「SWAN SONG 新たな羽ばたき」より『Le Cygne(瀕死の白鳥)』(振付:ルカス・リマ)を踊る西野麻衣子 撮影:文元克香(テス大阪)

ノルウェーの国民的スター 西野麻衣子「SWAN SONG 新たな羽ばたき」

 ノルウェー国立バレエ団に22年間所属し、長年プリンシパルを務めた大阪出身の西野麻衣子が友人達と踊った舞台「SWAN SONG 新たな羽ばたき」(7月28日、東大阪市文化創造館 Dream House大ホール)にも注目。彼女のことは世界中に配給された映画「Maiko ふたたびの白鳥」で記憶に残っておられる方も多いだろう。彼女のノルウェーでの引退公演はコロナ禍で無観客配信に、この故郷での舞台も延期を繰り返しての実現だ。そんななか、この舞台をともに創りあげようとしていた幼い頃からの恩師・橋本幸代が昨年秋にガンで急逝。西野はこの舞台で二つの“死”を踊った。一つは『Le Cygne(瀕死の白鳥)』。ノルウェーの同僚、ルカス・リマの振付。白いワンピース姿で福井麻衣のハープに乗り、やわらかでありながら、どんな運命の中でも前を向く、そんな強さを感じさせた。もう一つの“死”は、ラストの、ジョナサン・オロフソンをパートナーに踊った山本康介振付『椿姫』。とてもドラマティックで時に大胆、スター女優の風格を感じさせ、長年ヨーロッパで主役を張ってきたプリマなのだということを実感させた。

「SWAN SONG 新たな羽ばたき」より『MASK』(振付:ダグラス・リー) 西野麻衣子、ジョナサン・オロフソン 撮影:文元克香(テス大阪)
「SWAN SONG 新たな羽ばたき」より『椿姫』(振付:山本康介) 西野麻衣子、ジョナサン・オロフソン 撮影:文元克香(テス大阪)
「SWAN SONG 新たな羽ばたき」のカーテンコール 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

ジャクソン金賞受賞者も出演! 佐々木美智子バレエ団、地主薫バレエ団

 他にもご紹介したい公演は多々、佐々木美智子バレエ団『ドン・キホーテ』(7月30日、東大阪市文化創造館 Dream House大ホール)は、篠原聖一振付で、キトリを佐々木夢奈、バジルを、この6月にジャクソン国際バレエコンクールで金メダルを受賞したばかりの佐々木嶺、そしてメルセデスを、ローザンヌ国際バレエコンクールを経て英国ロイヤル・バレエ団で活躍し始めた佐々木須弥奈と伸び盛りの3兄弟が。

佐々木美智子バレエ団『ドン・キホーテ』 キトリ:佐々木夢奈、バジル:佐々木嶺 撮影:岡村昌夫(テス大阪)

 また、地主薫バレエ団『コッペリア』(8月15日、フェスティバルホール)には、佐々木嶺とともにジャクソン金賞を受賞した徳彩也子(とくさやこ)も出演。主役スワニルダ&フランツは悪戯っけも愛らしい奥村唯と新国立劇場バレエ団プリンシパルの奥村康祐。地主薫の振付のオリジナリティーも楽しんだ。

地主薫バレエ団『コッペリア』 スワニルダ:奥村唯、フランツ:奥村康祐 撮影:尾鼻葵(OfficeObana)

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