2月にみられる展覧会:WHAT MUSEUMでよくばりアートの一日を

アート|2024.2.16
坂本裕子(アートライター)

現在開催中の展覧会から、注目の展覧会をピックアップ。今回は、寺田倉庫が運営するWHAT MUSEUMを紹介。

アート作品を預かる寺田倉庫が、作家やコレクターから委託される作品を中心に公開することを目的に東京・天王洲にオープンした「WHAT MUSEUM」。「WareHouse of Art Terrada」の名を冠し、倉庫という環境を活かした展示空間では、絵画、立体作品はもとより、建築、写真、映像、文学、インスタレーションなど、多彩な芸術文化の企画展示がなされている。2020年の開館以来、21世紀の新しいアートスポットとして注目される複合アート施設で2月中にみられる展覧会を紹介する。

TAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展 WHAT MUSEUM 2F

日常にアートを。作品を通して考える、自分、他者、そして世界

コレクター竹内真氏(ヴィルヘルム・サスナル 「Untitled」 2022年の前で)

IT分野で活躍する竹内真は、5年ほど前から現代アートと家具のコレクションをはじめたそうだ。そのTAKEUCHI COLLECTIONは、イヴ・クライン、ゲルハルト・リヒターら現代を代表する巨匠の作品から、加藤泉、大山エンリコイサムなど、いま注目される新進の作家まで。さらにル・コルビュジエやピエール・ジャンヌレなどがデザインした家具と多岐にわたる。それらは、美術史の体系に沿った指針などではなく、自身の眼でみて気になったり、惹かれたりした作品に基準が置かれている。椅子などの家具は、実際に使用しているという。
WHAT MUSEUMでは、彼のコレクションのきっかけとなったパブロ・ピカソの作品から、近年魅力を感じるようになったという抽象画の作品を中心に現代アート33点、家具33点のコレクションが紹介される。竹内が日ごろから家具とともに楽しんでいるように、生活空間を感じさせる工夫が凝らされた空間では、実際にその椅子に座って鑑賞できるスペースも。また、ジャンヌレの椅子は21脚(!)が、その特徴を多角的にみられる大胆なインスタレーションになっていて、迫力満点。
「自分と同じ世界を生きて、かつ似たようなものを見て、聞いているのにも関わらず、その彼らの心のレンズを通した結果、このような作品が生まれるのだろう」と、作家の人生の中で作り上げられた「心のレンズ」を想像する竹内。その想像も自身の経験のなかから生まれたものでしかないことを自覚しつつ、だからこそ、個々の多様性があり、対話の可能性が見いだせるという彼のコレクションは、未だ成長過程。それでも高質で刺激的な作品たちの数々は、見ごたえ十分であるとともに、同質は無理でも、日常にアート作品を加える楽しさと意義を教えてくれる。

ピエール・ジャンヌレ 「フローティングバックチェア」 展示風景から
展示風景から
左手前:神楽岡久美「Extended Finger No,02」2022
右手前:アルベルト・ジャコメッティ 「スタジオの椅子(表面)」1961–62年 とシャルロットぺリアン 「レ・ザルク用パイン・スツール/丸テーブル」
展示風景から
部屋のインテリアのように展示された作品たちは愛おしくなる
展示風景から
左:イヴ・クラインとゲルハルト・リヒターの絵画作品はピエール・ジャンヌレの家具とともに
展示風景から
左:色鮮やかな大型の抽象画作品たち
右:クールでストイックな抽象作品たち
展示風景から
近年注目の日本のアーティストたち

展覧会概要

TAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展

会場:WHAT MUSEUM 2F
会期:2023年9月30日(土)~2024年2月25日(日)
時間:11:00–18:00(入館は17:00まで)
休館日:月曜
料金:一般1,500円/大学生・専門学校生800円、高校生以下は無料
   ※「感覚する構造」展の観覧料含む
公式サイト:https://what.warehouseofart.org/exhibitions/takeuchi-collection/

「感覚する構造 ―力の流れをデザインする建築構造の世界―」 WHAT MUSEUM 1F

古代から未来へ。建築構造から感覚する力学の体験

A 建築家と構造家の協働 展示風景から

昨年は関東大震災から1世紀。そして新たな2024年も能登半島地震の天災からはじまった。
人が生き、憩い、活動する空間としての建築は、こうした地震や台風、洪水などの自然の力と、地球という重力との対抗と共存を重ねてきたといえる。この建築における「力の流れ」に注目し、その骨格となる「構造デザイン」にアプローチする展覧会が開催中だ。
著名な建築家の作品はその名とともに鑑賞の対象にもなっているが、こうした名建築の誕生には、力学や数学、自然科学に素材への深い理解のもと、その時々に可能な限りの技術を駆使して建築の構造を創造する「構造家」の存在が欠かせない。彼ら構造家は、そうした要素に真摯に向き合い、計算と実験、経験を積み上げて、やがてその力の流れが身体化して、感覚的にとらえられるようになるという。
本展では、「A 建築家と構造家の協働」「B 宇宙空間へ」「C 素材と構造」「D 力の流れと建築」の4つのテーマ構成で、古代から現代まで40点以上の構造模型を紹介する。磯崎新や伊東豊雄、SANAA(妹島和世+西沢立衛)ら建築家と構造家・佐々木睦朗の協働の成果としての建築模型から、佐藤淳らとJAXAが開発中の月面構造物、近年のSDG‘sの視点からも注目される竹を素材とした建築作品まで、さまざまな構造模型から、その創造性に触れる。実際に触って試すことができる模型もあり、まさに体感を通してその感覚に迫れるのが嬉しい。
自然と科学がいかに密接に関わり合い、そしていかに美しい造形へとつながっていくか、その感性と哲学に楽しく触れられる空間になっている。今年の春からは後期展「感覚する構造 ―法隆寺から宇宙までー」も予定されているので、ぜひ一見を。

A 建築家と構造家の協働 展示風景から
B 宇宙空間へ 展示風景から
B 宇宙空間へ 展示風景から
C 素材と構造 展示風景から
C 素材と構造 展示風景から
D 力の流れと建築 展示風景から

展覧会概要

「感覚する構造 ―力の流れをデザインする建築構造の世界―

会場:WHAT MUSEUM 1F
会期:2023年9月30日(土)~2024年2月25日(日)
時間:11:00–18:00(入館は17:00まで)
休館日:月曜
料金:一般1,500円/大学生・専門学校生800円、高校生以下は無料
   ※TAKEUCHI COLLECTION「心のレンズ」展の観覧料含む
公式サイト:https://what.warehouseofart.org/exhibitions/sense-of-structure_first-term/

「TERRADA ART AWARD 2023 ファイナリスト展」 寺田倉庫 G3–6F

これからのアートシーンを担うであろうアーティストをチェック!

受賞者たち(左から金光男、冨安由真、原田裕規、村上慧、やんツー)

寺田倉庫では、新進アーティストの発掘と支援も積極的に行っている。そのひとつが、「TERRADA ART AWARD」だ。世界を舞台に活躍するアーティストの輩出を念頭に、審査員を招聘し、ポートフォリオによる一次審査から展示プランによる最終審査を経て、ファイナリストが選定される。2023年には、国内外から1025組の応募があり、5名のファイナリストが決定した。その受賞作品が寺田倉庫にて発表された。
村上慧は、発泡スチロールで舞台のセットのような空間を造り、虚実が曖昧になる体験を提供する。リアルとバーチャルの認識の不安定さは、小さなモニターに映る映像とともに日常の認識を揺さぶるだろう。
金光男の作品は、在日韓国人の自身のアイデンティティと向き合うきっかけとなったカヌーをモティーフに、絵画作品とのインスタレーション。赤いカヌーは蠟でできており、会期中に少しずつ熱で溶けていく。その蠟の痕跡と赤という色、そして周囲の絵画に、不安と希望が混然となる。
やんツーの作品は、人の手を一切感じさせない一幕の芝居。プログラミングされた機械たちが、同様に生成された言葉を発しながら、絵を描き、作品を運搬する。そこには消費財として倉庫に保管されるだけの「美術品」という現代の消費社会でのあり方が、コミカルに痛烈に示される。
原田裕規は、ハワイの日系移民へのフィールドワークから、時空を超えて断続的にでも伝承されている要素を見いだし、クロスする土地の歴史、物語を映像と字幕でメッセージする。異なる歴史、言語、文化を超えた人間性へのアプローチの可能性が提示される。
冨安由真は、「視覚」と「知覚」への問いかけを閉ざされた部屋に込める。壁の絵画を鑑賞する者は、次の瞬間、暗闇にもうひとつの空間を認識する。何の変哲もない事務所のような無人の空間は、どこか不穏なものを感じさせ、鑑賞すること、作品を味わうことを改めて考えさせる。
歴史、民族、現代、社会、認識、それぞれのアプローチで日常の“あたりまえ”に揺さぶりをかける作品たちに、未来を読みとってみては?

村上慧 《革命をもくろむものたち》 展示風景から
村上慧 《革命をもくろむものたち》 展示風景から
金光男 《Good bye My Love》(中央)と《SUN》シリーズなどの絵画 展示風景から
金光男 《Good bye My Love》(中央)と《SUN》シリーズなどの絵画 展示風景から
やんツー 《Great Emptiness》 展示風景から 上演時間(各30分)平日:17:00~/土日:15:00~、17:00~
やんツー 《Great Emptiness》 展示風景から 上演時間(各30分)平日:17:00~/土日:15:00~、17:00~
原田裕規 《シャドーイング(3つの自画像)》 展示風景から
冨安由真 《The Shift》 展示風景から

展覧会概要

TERRADA ART AWARD 2023 ファイナリスト展

会場:寺田倉庫 G3–6F
会期:2024年1月10日(水)~1月28日(日)
   ※展覧会は終了しています
公式サイト: www.terradaartaward.com

「建築倉庫」 

文化の保管、展示、継承について想いをはせる

建築倉庫 展示エリアから

建築模型は、建築家や設計者のコンセプトや思考、そのプロセスが詰まった貴重な資料であり、彼らの作品のひとつである。美術館で開催される展覧会でも展示され、平面図と併せてわたしたちの理解を深めてくれているはずだ。
こうした模型には、「スタディ模型」「プレゼンテーション模型」「構造模型」など、その目的や過程によりさまざまな段階ものがあるそうだ。なかには、実際には建築に至らなかった“アンビルド”の建築模型もあり、それらは建築の歴史と文化を後世に残していく役割も担っている。
しかし、国内では保管スペースの不足のため、多くが破棄されたり、海外の美術館に寄贈されたりして、日本の文化財としては失われてきた歴史がある。寺田倉庫ではこうした現状を憂い、建築模型を保管する「建築倉庫」を設立し、広く受け入れを始めた。同時に、その価値をより多くの人が享受できるように、見学の来館者にもひらいている。現在600点以上の模型が環境の整った倉庫内に保管されており、その一部をテーマ特集とともに公開しているのだ。
「保管=展示」をコンセプトにした空間は、バックヤードの見学としても、さまざまな建築のしくみやその魅力を知る機会としても、ステキな試みだ。同時に、文化財を保管し、未来へつないでいくことの意義と、現代のわれわれが担うべき役割、そしてそこにかかるさまざまな負担についても考える機会となるだろう。
建築家をめざす学生はもちろん、親子で楽しんでみてはいかがだろうか。

保管状況の説明パネル
建築倉庫 企画展示スペース 展示風景から
建築倉庫 展示エリアから
建築倉庫展示エリアから
建築倉庫 展示エリアから

概要

WHAT MUSEUM 建築倉庫

時間:11:00-18:00(入館は17:00まで)
    ※1時間ごとに入場(要オンライン予約)
料金:一般、大学生・専門学生700円、中学生500円、
小学生以下無料
公式サイト:https://what.warehouseofart.org

なお、もっと! という方には現在開催中の「ゴッホ・アライブ 東京展」も。
世界99都市を巡回して900万人以上を動員した没入型展覧会が東京で開催中。
真っ暗な倉庫展示内には、大きな壁と床にゴッホの作品や言葉が音楽とともに投影される。ゴッホ作品の映像が3000以上。最大41台のプロジェクターが映し出す高精細画像は、筆の勢いや隠れていた色までも感じられる拡大も含めてこれまで気づけなかった魅力にも出逢えるかも。
彼の芸術、生涯、時代背景を映像で追う体感型の空間は、順序も気にせず自由に散策でき、撮影もOKだ。

館内展示風景から 代表作《黄色い部屋》が立体に!
館内展示風景から
館内展示風景から
出口にはひまわりの大群も

展覧会概要

ゴッホ・アライブ 東京展

会場:寺田倉庫 G1ビル
会期:2024年1月6日(土)~3月31日(日)
時間:10:00-18:00(入館は閉館の60分前まで)
   ※土日・祝日に限り9:00~スタート
料金:一般3,000円、高大生2,000円、中小生1,500円
公式サイト: https://goghalive.com

1日過ごして疲れたら、アートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」で一休み。
ここでも開催中の展覧会とのコラボメニューやアーティストたちの作品が展示・販売されている。
お気に入りに出会えたら、自分だけの作品を購入できるかも。

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