それいゆ1954年秋号 表紙 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA

「111年目の中原淳一展」そごう美術館(横浜)

アート|2023.12.5
竹内清乃(エディター)

中原淳一の生誕111年を記念する大展覧会

少女たち、そして女性たちが美しく豊かに生きるために、クリエイティブな魅力あふれるイラストやファッション雑誌の編集で時代をリードした中原淳一(1913-83)。
その生誕111年を記念する展覧会が横浜のそごう美術館で開催されている。
原画だけでも250点を超え、当時の雑誌や付録、中原がデザインした洋服や着物、愛蔵品などが一堂に集められた、本格的で充実した展覧会となっている。

会場入口にて。中原淳一が使用した道具類を並べたデスクと、編集長を務めた雑誌『それいゆ』創刊号の編集後記の文章が来館者を出迎える。

夢みる少女のために

戦前に発行されていた雑誌『少女の友』の挿絵画家となり、その才能を開花させた中原。中原の描く大きな瞳の少女の表紙絵も大人気だった。10代の少女たちに向けて、ファッションページの髪型や服装を中原自らスタイル画で提案していた。
「少女のみのもつ本当の美しさ、よさ、それを僕は誰にも負けず見きわめている」(『少女の友』第30巻第5号、1937年)という言葉に込められた自負は、当初から中原の軸であり、少女たちに本物の美を届け続けるという使命感がクリエイションの原動力だった。
中原が描いた「新しい少女」像は、戦中の女性たちを重圧から開放し、10代の年代が持っているおしゃれへの興味と渇望を夢の世界へ導いたアイドル的な存在だった。

「ファッションブック」(『少女の友』第30巻第8号付録) 1937年 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA
中原が開店した雑貨と洋装の店「ヒマワリ」のグッズ類。会場の観覧者からも「超かわいい!」と声が上がっていた。

女性のくらしを新しく、美しくする

日本の終戦からまもなく、中原は念願だった婦人雑誌『それいゆ』を創刊した。雑誌名はフランス語でヒマワリ、太陽の子という意味を込めて命名され、「女性のくらしを新しく、美しくする」というキャッチフレーズが掲げられた。
『それいゆ』(1946〜60)は戦後の混乱期にあって、女性たちが知性を持ち、内面を磨くことが大切であると提唱した画期的な雑誌だった。ファッションだけではなく、インテリアや手芸など衣食住すべてを美しく整えることを、中原自身が筆を執ってメッセージを発信し続けた。
雑誌の表紙や誌面を彩った原画も多数展示されており、流行の先端をゆくパリのファッション誌から抜け出たような、垢抜けて洗練された女性像は今でも新鮮に映る。
また、当時の中原のスタイル画から再現した衣装の実物も展示されており、エレガントで上質な装いは、見ているだけでもすっと背筋が伸びる心地がする。

表紙原画(『それいゆ』第39号 6月号) 1956年 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA
創刊された『それいゆ』の表紙は中原淳一が描いた。© JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA
再現された中原淳一デザインの洋服
制作:株式会社ジュン アシダ
中原淳一 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA

会場の中に中原の言葉がリボンのように吊り下げられていて、ひとつひとつのフレーズから中原の美意識のエッセンスが伝わってくる。
「美しいものには出来るだけふれるようにしましょう。
美しいものにふれることであなたも美しさを増しているのですから」
「ゼイタクな美しさでなく、神経のゆきとどいた美しさ。
理知の眼が自分をよく見ている美しさ。
そんな美しさを生み出していただきたいのです」
これから社会に出る女性たち、家庭を持つ女性たちに、理性と思いやりの心を忘れないようにとエールを送る中原の言葉は、『それいゆ』の読者たちの心に響いていただろう。

中原淳一が自身の言葉で伝えた、美しく生きるための心構えとなるメッセージの数々

平和の時代の少女に贈る

『それいゆ』の後に、月刊少女雑誌『ひまわり』(1947〜52)が刊行され、中原は企画、編集、取材、表紙画、イラストなどすべてを担当し大勢の読者の支持を受けた。
後に絵本作家となった、やなせたかし氏もその一人。
「中原淳一自身がその時代の少女たちの心の中に咲いたひまわりのような存在だったのだ」(「別冊太陽 美しく生きる 中原淳一その美学と仕事」)
と綴っている。
平和な時代となり、少女時代を豊かに過ごすことが女性たちの未来を明るくするという信念を持って、中原は自分の全人生をかけて少女たちに夢を贈り続けた。彼の雑誌に刺激を受けて、コシノジュンコ、高田賢三といった世界的に活躍するデザイナーが輩出されたように、『ひまわり』や『ジュニアそれいゆ』(1954〜60)は、ファッションやアートに携わるクリエイターたちに大きな影響を与えた。

「ひまわり夏休み手帖」(『ひまわり』第4巻第8号付録) 1950年 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA

中原淳一の美学と女性たちの幸福を願うこころは、色褪せることなく、いつまでも勇気づけてくれている。
本展では、雑誌の仕事のほか、カラフルでポップな着物や人形作品など、幅広い発想力を物語るクリエイションの数々に接することができる。
「いつまでも古くならないもの」−それこそがむしろもっとも「新しい」ものだとはいえないでしょうか。
人生はスカートの長さではないのです(〜中原淳一)。
中原の言葉に象徴されるように、人生を魅力的に生きるヒントが、見つけられる絶好の機会といえよう。

きもの「春を待つこころ」とビニールレザーの帯(共に1958年)
着物の袖に施された渦巻きのようなアップリケと、赤のビニールレザーの帯の取り合わせ。斬新で自由なスタイルがポジティブなイメージ。 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA
中原淳一 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA

展覧会概要

「111年目の中原淳一展」
会場:そごう美術館(そごう横浜店 6階)
会期:2023年11月18日(土)〜2024年1月10日(水)
休館日:会期中無休 
時間:午前10時~午後8時
*入館は閉館の30分前まで。*12月31日(日)、1月1日(月・祝)は午後6時閉館。
*そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる場合がございます。
料金:一般1,400円、大学・高校生1,200円、中学生以下無料
問合せ: 045-465-5515
そごう美術館公式サイト:https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/

巡回展も開催予定

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