第2回 金工家・長谷川竹次郎たけじろう
誰も予想だにしない、自分だけの世界を求め
金工に挑み続ける、孤高の金工家

アート|2022.11.18
文=新川貴詩 写真=濱田晋
PR:セイコーウオッチ株式会社

 圧倒的なハンドワークで腕時計の中に新しい美を追求してきた<クレドール>。web太陽は、<クレドール>が掲げるブランドコンセプト『Allure of Luxury』をテーマに、日本が世界に誇る“工芸”に注目した。
 日々、素材と向き合い、手を働かせ、究極の“贅”を生み出す日本の匠たちを取材し、彼らにその創作技術や作品のルーツについて話をうかがった。
 第2回は尾張徳川家の御用鍔師(つばし)を務めた家系に生まれ、伝統技法を受け継ぎながらも自身の自由な創作スタイルを突き詰めている長谷川竹次郎氏が創作について語る。

硬い金属を柔らかな発想で
理想の形に仕上げていく

長谷川の仕事場には趣味で買った骨董品などが所狭しと置かれ、ラックには大量のCDが並ぶ。一見、金工家の仕事場とは思えない空間だが、長谷川がそこに居るとしっくりとくるのが不思議だ。

 部屋のあちこちに数々の骨董が無造作に置かれている。ラックにびっしりと並ぶCDは棚をはみ出し、床にも積み上がっている。そんな仕事場で、金工家の長谷川竹次郎は日々作業に取り組む。木台(もくだい)の上で金属を叩き、バーナーの火で加工し、器や装身具、造形作品などを仕上げていく。
 半世紀近く扱ってきた金属の魅力について、長谷川は次のように語る。

「金属は硬くて自由に作業がしづらい。そこをなんとか、金属で自由に形をつくっていくのが面白い。難しければ難しいほど、実現できるのかできないのかわからないレベルの作業をやってみるのが楽しい。他の誰もが試したことのないことを実現するのは楽しいものですよ」

一枚の金属の板を当金(あてがね)と呼ばれる道具で支えながら、金槌で叩きながら成形していく。何の変哲もない一枚の板が、長谷川の手で様々な形に変えられていくのを見ているとそれが金属であることを忘れてしまう。

 これまでにない斬新な技法を確立したときには、「そっと優越感を感じますね」と微笑む。
 作業中は絶え間なくロックをかける。ビートルズやローリング・ストーンズをはじめ、60年代から70年代にかけてのアルバムが中心だ。とりわけ作業がはかどるのはビーチ・ボーイズやシカゴだそうだ。

「うちの近くに中古CD屋があって、よく通ってるんですよ」

自分の頭の中のイメージを
形にするのが何より楽しい

彫金で模様を付けたりする際に使用するタガネという道具。長谷川の自宅には数え切れないほどのタガネが置かれていた。「私はそんなに使いませんが、同じく金工家の妻や息子が使ってます」

 長谷川の作品制作のプロセスは、変化とともにある。まずは、プランを図に描く。そして、図から実際に造形する。ただ、ひと筋縄ではいかない

「図に描いているうちに形が変わっていきます。そして、その図をもとに形をつくるんですが、手を動かすにしたがって、頭の中でまた形が変わる。図のとおりに仕上げても面白いものはできません」

 このように長谷川のことを紹介すると、気ままな金工家と思われるかもしれない。だが、それは一面にすぎない。
 代々、尾張徳川家で御用鍔師(つばし)を務めた家系に生まれた。明治の頃から茶道具の金工を始め、長谷川は三代目一望齋春洸という名も持つ。

「最近は茶道具はあまりつくっていません。好きなものをつくってます。古いものをそのままつくるのも楽しい。でも、ちょっとずつ自分の頭の中で描いた形をつくるほうが、もっと楽しい」

獣をモチーフにして作られた酒器。この複雑なデザインの作品も一枚の金属を変形させて作り出されている。妻で金工家の長谷川まみは「一枚の金属をこんな形に変えられるのは、長谷川竹次郎しかいないでしょう」と語る。

 小さな頃から父や祖父の手仕事を見ながら育った。蜜蝋で鋳型をつくり、金属を流し込んでいろいろな形をつくってよく遊んだ。

「子どもの頃から形をつくりたくてしょうがなかった。絵を描くのも嫌いではないけど、平面よりやっぱり立体が好きでした。絵もいっぱい描いたけど、どうしても絵だと納得がいかなくて」

満点はそうそうない
だからこそ楽しい

 だが、父親から金工の技術について教わることはなかった。その代わり、父親の弟子から丁寧で真摯な指導を受けた。父親には伝統的な技法の継承に関して、何か方針でもあったのだろうか。長谷川は微笑みながらいう。

「方針というより、親父は教えるのが下手だったからだと思いますよ」

 そして、息子と娘を授かると、子どものためにウルトラマンを描いた食器やおままごとセットなどおもちゃをみずからつくって贈り続けた。それらは写真集『父の有り難う』(主婦と生活社刊)として実を結んだ。

「全然つくったことのないものも手がけられるから楽しかったですよ。でも、子どもは喜んでないですけど。私が楽しんでるだけです。最近は孫のためにいろいろつくってます。前と比べると今は時間があるから、もっと手間をかけてますね。そうはいっても、孫も喜んでないですよ」

「作品のモチーフは昔、世界中を旅していた時に見てきたものが多いです」と微笑む長谷川。手前に置かれた人型のオブジェは、金で作られ、中は空洞になっていてコップの代わりに使うこともあるそうだ。

 ものづくりについて長谷川は、繰り返し「楽しい」と語る。だが、当然のことながら、制作の作業は楽しいことばかりとは限らない。

「子どもの頃から、つくっていてうまくいかないと、いらいらしたものでした。いまだに、つくっているものが気に入らなくて、途中で壊したくなることもあります。自分で点をつけて、60点以上なら世に出すことにしています」

 長谷川は、自身が手がけた器をみずから使うことはあまりない。その理由を聞くと、明快な回答が返ってきた。

「だって料理にしても、他人がつくったほうがおいしいし」

繊細な感性と匠の技が生み出す
小宇宙に目を奪われる

<クレドール>の腕時計を手に取り「こんな小さな世界に、これだけ繊細なモチーフを表現できるのはすごいです。私にはとてもできません」と長谷川は技術の高さに目を見張っていた。

 そのような制作姿勢の長谷川の目に<クレドール>はどう映るのか。「アートピース コレクション」の「メカニカルスケルトン彫金モデル」を手に取った長谷川は、すかさずその時計を目に近づけた。

「まずは、桜がきれいだなと目にとまりました。それに桜の周りの彫りの細かさも見事です。このような鋤彫(すきぼり)は、ルーペか何かを使わないとできない細かい作業で、私らには届かないレベルの高さです。それに、これだけ数々の模様を、こんな小さな丸い形に収めるのも素晴らしいと思いますね」

 名門の名工をうならせる、それが<クレドール>の腕時計である。

ダイヤルのデザインは平安時代から桜の名所と言われ、かつては豊臣秀吉も花見に訪れたとされる「吉野山」の桜をイメージ。上半分に描かれた空には春の季語であり、益鳥でもある「つばめ」が飛んでいる。


<クレドール>
アートピース コレクション
メカニカルスケルトン彫金モデル
<クレドール>が長年にわたって追求してきた、美しさの象徴のひとつ、スケルトン仕様の極薄メカニカルムーブメント「キャリバー6899」を採用。現代の名工、照井清氏監修の下、桜模様を繊細かつシャープに表現した工芸モデル。最薄部の厚さわずか0.25mmのパーツに、微妙な力加減で0.15mmの深さの模様を独自技法でシャープに施す。西洋の彫金とは一味違う美しい輝きを放っている。

GBBD961
メカニカル(手巻)
18Kホワイトゴールドケース・クロコダイルストラップ(黒)
4,840,000円(税込)
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