開国を機に始まった、日本の近代化。
床に膝をつく「蹲踞(つくばい)式」から「立働式」へ、
家の北側から明るい空間へ、台所もまた急速に姿を変えていきました。
別冊太陽『日本の台所一〇〇年 キッチンから愛をこめて』特集で、神奈川大学建築学部建築学科准教授の須崎文代先生にご寄稿いただいた文章から、日本の台所の歴史の移り変わりをご紹介します。
「座って調理」が常識だった日本の台所。 「立って調理」をするようになったきっかけは、開国による「衛生問題」だった。
――日本の伝統的な台所は、床の上に直接まな板を置き、座した姿勢で料理を行うスタイルのものだった。こうした身体技法による台所は、学術書等では一般に「蹲踞(つくばい)式」と呼ばれている。近世以前の絵図を見ると、台所の板床の上に直接まな板を置き、座ったままの姿勢で作業をする様子が、中世から近世にかけた広い時代のあいだ続いていたことがうかがえる。
ではなぜ、今まで長年の調理スタイルが大きく変化したのか?
幕末の開国をきっかけに西洋文明とともに、コレラやチフス、ジフテリアといった伝染病が流入し、家庭での衛生対策に目が向けられるようになったことが理由のひとつだといいます。
――台所は食物を扱うため、健康に直結する場所として最も重視され、改善の議論の対象となった。湿気による黴の繁殖や伝染病を媒介するネズミを防ぐ対策としての給排水設備 (上下水道)、防虫のための網戸や蠅帳、衛生的な熱源としてのガスや電気の導入、採光・通風のための窓や 煙突の設置(竈から出る排煙は眼病の原因とされた)が取り組まれた。当時の台所は住まいの北側に配置されることが多く、暗くジメジメとしがちであった。そのため、室内の「明るさ」は清潔な状態を保つために重要とされ、窓を大きく、多くとることが推奨された。そして、床上で料理を行う在来のスタイルは不衛生であり、立ったり座ったりにかかる動作に負担が多いことが指摘され、立った姿勢で作業をする「立働式」 が推奨された。
今は当たり前となった「立って調理」をする台所。
それは先人たちがより衛生的な台所を目指した結果、生まれた形だったのです。
別冊太陽『日本の台所一〇〇年 キッチンから愛をこめて』では、時代とともに移り変わる台所の姿を、当時の新聞や雑誌に掲載された台所など多数の資料と須崎先生の論考でひも解いています。
台所の歴史を知れば、台所から見える景色がもっと面白くなるでしょう。
別冊太陽 スペシャル
日本の台所一〇〇年 キッチンから愛をこめて
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