アンフォルメルの主要人物とされるアンス・アルトゥング(1904-1989)の個展が、東京・六本木のギャラリー「ペロタン東京」で開催中。
1950年代に制作されたインク作品、晩年となる80年代の作品など、約20点が展示されている。
第二次世界大戦中にフランスで生まれたアンフォルメルは、その激しい表現から「熱い抽象」と評される。その流れの中に位置づけられるものの、アルトゥングはどの芸術運動にも合流せず、独自の表現を追求し続けた。
今回の個展では、アルトゥングの手法の変化を見つつ、一貫したアプローチを感じられるだろう。
瞬間を留める素早さ―1950年代の絵画から
黒のインクで描かれた1950年代の絵画は、アルトゥングの表現の中でも代表的なパターンである。
その大胆な筆跡は日本の書を彷彿とさせるものの、抽象表現としての緊張感にあふれ、単なる衝動の表出ではないことがわかる。
Untitled, 1956
Ink on paper
39 x 28.3 cm | 15 3/8 x 11 1/8 inch
Photographer: Claire Dorn
Courtesy of Perrotin & Hartung-Bergman Foundation.
筆先のかすれやインクのしぶきは、一見すると激しく思えるが、与える印象はどこか静謐さもあり、一つの画面に動と静が存在している。
瞬間的な生の躍動をとらえることと、考え抜かれた構成を再現しようとすることの、一見相反する方向性を同時に表現しようとする意志が見て取れるだろう。
円熟を感じられる晩年の作も展示
試作やデッサンを重ねるスタイルから一転して、1960年代以降のアルトゥングは試作を経ずに制作するようになった。さらに晩年へと向かう1980年代には、巨大なキャンバスを前に、スプレーなどを用いて絵具を吹きつける表現を追求していく。
T1989-U11, 1989
Acrylic on canvas
195 x 130 cm | 76 3/4 x 51 3/16 inch
Photographer: Tanguy Beurdeley
Courtesy of Perrotin & Hartung-Bergman Foundation.
今回展示されている、『T1989-U11』と題される作品は、アルトゥングが没した1989年に制作されたものだ。
こちらもまた、手法の力強さに反して、霧がかった山に佇むような静けさを感じさせるのは偶然ではないだろう。生涯を通じて抽象表現を追求し続けてきた彼の集大成ともいえる作品だ。
アンス・アルトゥング展は2022年7月2日まで開催される。アンフォルメルの主要人物が生涯を通じて展開した抽象表現を鑑賞できる機会をお見逃しなく。
展覧会概要
『アンス・アルトゥング展』
ペロタン東京(六本木)
会 期:2022年5月21日(土)~7月2日(土)
開館時間:12時から18時
休 館 日:日曜日、月曜日、祝日
入 館 料:無料
問 合 せ:03-6721-0687
WEBサイト https://www.perrotin.com/