名画のドレス――衣裳から覗く服飾史

アート|2021.7.26
文=別冊太陽編集部

繊細なレース模様やリボンなど、肖像画の壮麗な衣裳に思わず圧倒されたことはないだろうか。『名画のドレス――拡大でみる60の服飾小事典』(内村理奈著)では、花飾りや扇子といった服飾小物から18世紀~19世紀西洋の歴史を覗いている。

フランソワ・ブーシェ画《ポンパドゥール夫人》(部分)(「エシェル」の項目より)

頭やドレスに花瓶を隠して社交場へ

流行したおしゃれは、髪やドレスを花々で飾ること。生の花がしおれるのを防ぐために、驚きの工夫がされていた。

ジャン=マルク・ナティエ画《マダム・ソフィ・ド・フランス》(フランス国王ルイ15世の娘、「花飾り」の項目より)

――(以下引用)このような生の新鮮な花々を使って衣裳に飾る場合には、当然新鮮であることが重要であり、宮中行事などの最中に花がしおれてしまっては興醒めだから、驚くような工夫が施されていた。生花の花飾りにきちんと水が供給されるように、小さなボトルに水がたくわえられて、衣裳や帽子などの花飾りのところどころに、それらのボトルが巧妙に隠されていたというのである。――

「おしゃれは我慢」というが、ボトルの水が無くなったら足さなければならなかっただろうし、長旅の馬車の中でもなるべく揺れないよう注意が必要だったはずである。
ロココのおしゃれ努力家がヴェルサイユに出廷したときの手記が残っている。

――(以下引用)パリからヴェルサイユまでの旅は骨の折れるものでもありました。(中略)あまり快適ではないですが、私はとても流行っている髪型にしようと思いました。その結果、いくつかの小さなボトル、つまり、平らな形をしていたり、頭の形に合うようにカーブを描いたりしているボトルに、水を一杯に入れて、そこに本物の植物の枝と花とを生けなければならなかったのです。もちろん、簡単に成功はしません。でも成功すれば、とても愛らしく素敵なのです。雪のように真っ白な髪粉がかけられた頭上に、春の季節がもたらしてくれる効果が表現されているのは、本当にうっとりしてしまいますもの――

これぞロココの真髄。このような努力こそが、ヴェルサイユの美を盛り立てていったのだろう。
本書では、ウィンターハルターの《皇妃エリザベート》やマイテンスの《マリー・アントワネット》など、60項目の服飾小物に隠された歴史を五十音順に並べ、拡大図版と全体図で紹介する。見開きに拡大した刺繡やレースなど、写真と見まごうようなリアルさで、宮廷画家たちが超絶技巧の限りを尽くして描いた凄さが伝わってくる。

マテイス・ヴェルヘイデン画《ジェラール・コルネリス・ファン・リーベックの肖像》(部分)(「刺繍」の項目より)

<目次>
アランソン・レース、アルジャンタン・レース/アンガジャント/ヴェール/エシェル /エプロン/織物/傘/髪飾り/カメオ/仮面/ギルランド(花冠)/金糸・銀糸 
靴/靴下/靴下留め(ガーター)/毛皮/子ども服/コルセット/更紗/刺繡 
縞柄/ジュエリー/ショール/ 白物(リネン類)/真珠/扇子/チョーカー 
杖/つけぼくろ/手袋/トルコ趣味/ネグリジェ/バックスタイル/花飾り
花柄/羽根飾り/ピエス・デストマ/日傘(パラソル)/フィシュー 
ブーツ/プーフ(かつら)/プリーツ/フリル/ブロンド・レース/ペチコート、パンタレット/帽子(男物)/帽子(男物&女物)/帽子の箱/ボタン/ボネ/マフ
マリーヌ・レース/水玉柄/ミュール/眼鏡/モード商/リボン/旅行カバン
レティキュール/ローブ・ア・ラ・フランセーズ

内村理奈
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(人文科学)。日本女子大学家政学部被服学科教授。専門は西洋服飾文化史。著書に『モードの身体史――近世フランスの服飾にみる清潔・ふるまい・逸脱の文化』悠書館(2013年)、『マリー・アントワネットの衣裳部屋』平凡社(2019年)などがある。 『名画のドレス――拡大でみる60の服飾小事典』
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