名画でわかるヨーロッパの24時間 -3-

アート|2026.2.5

フォロワー23万人を超える人気アカウント「昔の芸術をつぶやくよ」のヤスダコーシキが、待望の新著を刊行! 著者史上「文字数は過去最大、お値段は過去最安」となった今回の本の中から、とびきりのテーマを限定公開する。

悲劇の女王、レディ・ジェーン・グレイの 絵画で知る処刑の現実

ポール・ドラローシュ 『レディ・ジェーン・グレイの処刑』1833年 ナショナル・ギャラリー(イギリス、ロンドン)

 ここ最近で急激に日本国内の知名度を上げたこの絵は『レディ・ジェーン・グレイの処刑』です。わずか9日間、英国の女王に在位しただけで政争により16歳で処刑された彼女はまさに悲劇の人。しかしここでは、彼女でなくその処刑方法に注目していきたいと思います。
 彼女の前にある鉄の輪がついた木製の台は斬首台。右側に巨大な剣を持った処刑人が見えますよね。彼女はこの台にか細い首を載せ処刑人に斬首されました。絵画は16世紀の様子を描いていますが、この時代の貴族の処刑は斬首が定番だったのです。一瞬で苦痛が終わる斬首は貴族の死にざまに相応しいということでしょう。
 一方庶民はというと、絞首刑が一般的でした。吊るされた後に糞尿を垂れ流すこの刑はやはり貴族に向かず、庶民に相応しいという考え方なのかもしれません。死にざまでさえも貴族と庶民に格差があったのですね。
 貴族の処刑のメインストリームであり続けた斬首なのですが、この方法にはやや問題がありました。人間の首の骨はなかなかに丈夫であり、そのつなぎ目に上手く刃をめり込ませないと一発で首を切断するのはむずかしかったのです。たとえば英国ソールズベリー女伯マーガレット・ポール(1473~1541)ですが、彼女は10回以上も刃を首に叩き込まれました。彼女が処刑の際に暴れたため、処刑人が動揺したからだと思われますが、死に至るまで相当苦しまなければならなかったのではないでしょうか。
 また同じく英国の初代モンマス公爵ジェイムズ・スコット(1649~1685)も何度斧を振り落とされても首が切断されず、最終的にナイフで首を落とされたそうです。絶命するまで地獄の苦しみだったでしょう、これは処刑人のジャック・ケッチの腕前がとんでもなくポンコツだったことが原因とされています。

死刑者の苦痛を減らした「ギロチン」

 このように悲劇を繰り返した斬首刑は、「ギロチン」という発明品を迎えることで一気に進歩しました。きっかけはフランス革命。粛清により飛躍的に増加した“処刑需要”は、社会に素早く、しかも人道的に処刑を行う必要性を認識させたのです。
 そこで内科医ジョゼフ・ギヨタンは、人道的な処刑道具の導入を提唱。外科医アントワーヌ・ルイが設計していた、あの斜め形の刃を備えた処刑装置を普及させるきっかけを作りました。面白いのはギヨタンが死刑反対者であったという事実。彼はあくまで人道的な立場でやむなくギロチンの導入を唱えていたのですが、設計者でないにもかかわわらず、「ギヨタン」という名前が「ギロチン」として普及しました。ギヨタンも草葉の陰で面食らっていることでしょう。斜め形の刃をきちんとメンテしていれば失敗することがないギロチンは、以後世界中に普及していきます。
 なお、ギロチンにかけられたマリー・アントワネットは処刑の寸前、処刑人の足を踏んだ時にこう言ったそうです。「ごめんなさい。わざとしたのではないのよ」。有名な話ですがこれは事実である模様。死を前にこれが言える彼女は本物の高貴さがあったと思います。

平凡社新書「カラー版 名画でわかるヨーロッパの24時間」
ヤスダコーシキ著、田中久美子監修
定価:1,320円(10%税込)

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