京都国際写真祭KYOTOGRAFHIE
10th Anniversary

ピックアップ|2022.4.27
菘あつこ(フリージャーナリスト)

京都ならではの魅力を活かした
国際写真フェスティバル、10周年

10回の節目となるKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭が開催されている。2013年に始まり、コロナ禍で開催時期を変えながらも続けられてきた。今回のテーマは「ONE」。「一即(すなわち)十」という言葉からだという。

世界的に評価が高い写真家の作品による10のメインプログラムに加え、これからの活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘を目的とした「KG+」と銘打った約50ヵ所での70ほどの展示や、そのなかから選ばれた作家による「KG+SELECT」、パレード等のイベントも行われ、この期間、京都のいたるところでKYOTOGRAPHIEを楽しむことができる。

メインプログラムを中心に観てまわって、つくづく感じたのは、単に写真の展示を観ているだけでは感じられないプラスαの魅力。京都の寺社、日本家屋や蔵、昔ながらの商店街など“ここだからこそ”の“場”を活かした見せ方で、作品の魅力がいっそう高まっているように感じた。

特に印象に残ったものを挙げたい。
 まず、ギイ・ブルダンの「The Absurd and The Sublime」。1950年代からファッション誌ヴォーグなどで活躍し、シャネルをはじめとするブランドの広告なども手掛けた彼の作品は、京都文化博物館別館を舞台に楽しむことができる。明治39年に日本銀行京都支店として建てられた辰野金吾設計の近代建築を代表する煉瓦建築だ。
 ファッション写真でありながら、商品をクローズアップするわけではない。背後のドラマを映画のように感じさせる作品の数々が興味深く、展示コンセプトのひとつである“滑稽と崇高”という言葉に、なるほどと頷いた。貴重なオリジナルプリントも展示されている。

京都文化博物館別館2階から俯瞰したギイ・ブルダン展
© Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022
ギイ・ブルダン 当時の印刷物も展示されている
© The Guy Bourdin Estate 2022/Courtesy of Louise Alexander Gallery

奈良原一高の「ジャパネスク〈禅〉」が展示されているのは、建仁寺山内の両足院。奈良原の写真自体が持つ動的な魅力と静的な魅力に圧倒されたとともに、それを、この両足院の庭を背景に観ることができることがとても幸せに感じられた。展示に使われている白い立体物に貼られている和紙が、白でありながら、一つひとつ違うということも、とても興味深かった。

両足院での奈良原一高「ジャパネスク〈禅〉」の展示風景
© Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022
奈良原一高「ジャパネスク〈禅〉」
©Narahara Ikko Archives

アメリカのヴォーグなどで活躍したアーヴィング・ペンの「Irving Penn:Works 1939-2007.Masterpieces from the MEP collection」は京都市美術館別館で。パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)が所蔵する80点のオリジナルプリントが観られる貴重な機会だ。クリスチャン・ディオール、パブロ・ピカソなど著名人を撮ったポートレートだけでなく、魚屋や掃除婦など一般の働く人々を撮った写真、煙草の吸い殻などゴミと思えるものを撮った写真にも惹きつけられた。

アーヴィング・ペン「Irving Penn:Works 1939-2007.Masterpieces from the MEP collection」展示風景
© Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022
著名人を撮るだけでなく、掃除婦や風船売りなど、さまざまな働く人を撮った写真の活き活きとした表情が興味深い

琵琶湖疏水記念館、蹴上インクラインの桜咲く屋外でのサミュエル・ボレンドルフの「人魚の涙」も印象的だ。世界中の海に細かいプラスチックゴミがあることを可視化した。美しい海と対比させ、網に掛かったマイクロプラスチックなどミクロなゴミの写真は、こうして撮られると美しい模様にも見えるけれど現実は悲しいもの──環境保全へのメッセージが心に響く。

琵琶湖疏水記念館でのサミュエル・ボレンドルフ「人魚の涙」展示風景
来日し、作品について語るサミュエル・ボレンドルフ

ガーナのプリンス・ジャスィの作品は、祇園のASPHODELとKYOTOGRAPHIEのパーマネントスペース「DELTA」もある出町桝形商店街の2ヵ所で展示された。高校生の頃にカメラが買えずiPhoneで写真を撮り始めたというジャスィの写真は、独特の鮮やかな色彩に彩られて、心地よくポップ、前向きなエネルギーに溢れている。学校に行けず親の仕事を手伝う子どもも多いガーナで、その解決も目指すという彼は20代半ば。こういうエネルギーがガーナの状況を良くしていくのでは、と、そんな風に思えてくる。特に面白かったのは、出町桝形商店街の展示。この商店街を象徴する様々なものをガーナに送って、それとともに現地で撮られた写真と、彼の過去作からマーケットに関連する写真とが商店街のアーケードを彩る。「太陽乳業」と赤字で書かれた黄色いプラケースに腰掛けて缶飲料を飲む少年、女性ものと思える花柄の浴衣で七夕夜店をアピールする青年など、思いがけないマッチングのユーモアを楽しんだ。

祇園のASPHODELでのプリンス・ジャスィの展示
© Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022
日本の昔ながらの商店街の趣を残す出町桝方商店街で、上方に展示されたプリンス・ジャスィ。商店街のものをガーナに送り、それを使って撮影された写真の数々を商店街の風景のなかで観る

イサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛の「BORN-ACT-EXIST」は、誉田屋源兵衛 黒蔵 奥座敷で。山口源兵衛が酸化した銀箔を和紙に貼って糸状に裁断し、細かい斑をもう一度折り合わせた誉田屋の帯を見たKYOTOGRAPHIEの共同代表の仲西祐介が「写真も帯にできますか?」と聞いたのが始まりだという。できるという返事で、コラボレーションが始まった。糸のように細く切った写真を絹糸と共に織っていったと聞く。
 そんな山口から泥染めの着物を贈られた田中泯。彼が奄美の海で動く。“動く”とは失礼だろうか。だが、踊るとか、舞うというよりも、もっと自然な「もともと生物は海から生まれた―」と思い出させる根源的な何か。それをムニョスが写真に、また動画にも撮っていった。

スペインを代表する写真家イサベル・ムニョス
イサベル・ムニョス《生ける静けさ》シリーズ〈Japan〉より、2017年
©︎Isabel Muñoz
誉田屋源兵衛奥座敷でのイサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛「BORN-ACT-EXIST」展示風景
© Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022
誉田屋源兵衛黒蔵でのイザベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛「BORN-ACT-EXIST」展示風景、極細に裁断した写真を絹糸と共に織り上げた「写真の織物」
© Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

殿村任香の「SHINING WOMAN PROJECT at KYOTOGRAPHIE 2022」は祇園のSferaで展示され、オープニングイベントに合わせたパレードも行った。髪、子宮、乳房を無くす……そんななか、しっかりとカメラに向かう女性達の表情が力強い。スライドショーでは、彼女たちの“もの”も映し出される。それは悲喜こもごもで、婚約を破棄されたウエディングドレス、友達が作ってくれたウィッグなど。パレードは、それぞれの写真がプリントされたボードを掲げて――。前向きなパワーと、様々な思いからの涙、共感しあえる他者とこうして出会える機会に大きな意義があるように思えた。

祇園のSferaで作品について語る殿村任香
4月9日、オープニング日に行われた「SHINING WOMAN PARADE」
「10/10現代日本女性写真家たちの祝祭」 より。地蔵ゆかり「ZAIDO」@Yukari Chikura

HOSOO GALLERYで行われた「10/10現代日本女性写真家たちの祝祭」も、さまざまなタイプの写真を観ることができて興味深かったし、堀川御池ギャラリーでの「世界報道写真展」の写真にも圧倒された。それらを含めジャーナリスティックな視線に惹き込まれることが多かった。写真は他の芸術以上に、社会の“今”を表現するものだとあらためて感じた。

【開催概要】

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022

会期
2022年4月9日(土)─5月8日(日)
会場
京都文化博物館 別館、京都市美術館 別館、出町桝形商店街、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、ASPHODEL、誉田屋源兵衛 黒蔵・奥座敷、嶋?ギャラリー、琵琶湖疏水記念館・蹴上インクライン、Y gion、両足院(建仁寺山内)、HOSOO GALLERY、堀川御池ギャラリー 
主催
一般社団法人KYOTOGRAPHIE
共催
京都市、京都市教育委員会
後援
京都府、在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
公式HP;www.kyotographie.jp
www.facebook.com/kyotographie
www.instagram.com/kyotographie
twitter.com/kyotographie

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