地図と楽しむ 中井精也の鉄道絶景

別冊太陽|2023.3.7
中井 精也 写真・文| 株式会社 地理情報開発 編

 都市の網目を縫うように、壮大な自然の中にぽつんと、花びらの中を颯爽と――。中井精也が捉える鉄道車両には、魂が宿っている。風をきって健気に走る様子が、臨場感たっぷりのネイチャーフォトのように見えてしまうのはそのせいだ。実際に廃線の危機にあるローカル線も多く、二度と同じ瞬間は来ないのだという、「一期一会」の予感が哀切を誘う。

 中井精也が鉄道写真家として「覚醒」したのは、高校2年生の時。鉄研の部長となって研究テーマを三陸鉄道に定め、撮影に赴いた。

 昭和59年4月1日、三陸鉄道開業日の盛駅で、泣きながら旗を振る地元の人たちを夢中で撮影した。恥ずかしながら、鉄道は趣味のものではなく、人を運ぶものであることを、そこで初めて認識した。それ以来僕は、車両だけでなく、鉄道と人を撮るようになった。                 
(コラム「夢と希望の三陸鉄道」より)

 その後、平成26年4月5日に、東日本大震災後に復旧した三陸鉄道南リアス線の復旧記念列車を、平成31年3月23日に、JR山田線を含めて開業となった記念列車を撮る。同じ鉄道で3度の始まりがあり、そのすべてのモメントに立ち会った。

 鉄道写真に、風景や人と鉄道を組み合わせた「ゆる鉄」という新ジャンルを築いた中井精也だが、決定的瞬間を捉えるまでの準備に緩さは微塵もない。アイデアを画にするために技術を精励し、自然条件を予覚して、愚直にその時を待つ。努力の累積なくして偶然性は開かれないのだ。しかし我々読者は写真を味わうだけでいい。巻末の地図をチェックして撮影地へ出かけてみるのも一興。

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定価:2860円(10%税込)

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