「らんまん」な人生──牧野富太郎の世界

別冊太陽|2023.4.3
バナー画像=ヒメナズナの標本(東京都立大学所蔵)。1908年に牧野が東京で採集したもの。ヒメナズナという和名は牧野が命名した。

 NHK連続テレビ小説で、牧野富太郎をモデルとしたドラマ「らんまん」がスタートした。
 牧野富太郎といえば、小学校を自主退学したのち、植物への情熱だけを頼りに、独学を続け、後に「植物分類学の父」と呼ばれるまでになった人物として知られる。

 その研究生活は、まさに波乱万丈。度重なる資金難にもめげず、日本全国に赴いては植物採集に明け暮れ、果ては台湾や満州にも渡り植物を採取。その植物への愛情は、94年の歳月を通じて、一貫して変わることはなかった。

 3月に刊行された別冊太陽「牧野富太郎」特集では、その波乱に満ちた生涯を、多くの資料、写真、植物画などで紹介する、ビジュアル版「牧野富太郎」の決定版。
ドラマの副読本として、また、人生をかけて一大事を成し遂げた人物伝として、ぜひ多くの読者に読んでほしい一冊となっている。

左/別冊太陽「牧野富太郎」目次
右/彩色された牧野の植物画。牧野は精緻な植物画も多く残している。

 その植物への鬼気迫る情熱が伝わってくるのが、牧野78歳の代表作『牧野日本植物図鑑』への赤字訂正。晩年まで訂正と追加を書き込み続けたと言われる牧野だが、植物学に間違いがあってはならず、なおかつ最新の学説を盛り込みたいという思いから、毎回大量の赤字が書き込まれ、修正を担当する印刷所は困り果てたという。

「印刷所泣かせ」と言われた牧野の校正赤字。赤字を渡された編集者と印刷所の苦労はいかばかりだっただろうか…。

 植物採集の際には、いつも正装で趣き、蝶ネクタイとハットを身に付けるなど、オシャレな側面も牧野の魅力。毎年の年賀状もユニークなキャラクターや文章が添えられ、お茶目な一面も、牧野が万人に愛され、物心ともに多くの援助者が現れた理由だろう。

 NHKのドラマはまだ始まったばかり。今後、植物の新発見や、東大への就職と挫折、妻との出会い、資金難や植物図鑑の刊行など、ハラハラドキドキする生涯が展開されるはずだ。ドラマとともに、別冊太陽でも牧野博士の生涯を楽しんでもらいたい。

オシャレな蝶ネクタイ姿の牧野博士や、植物採集グッズなどの写真も多数掲載。

【目次】
◎巻頭エッセイ
幼き魂を抱いたもの 朝井まかて

◎牧野富太郎の庭
高知県立牧野植物園
練馬区立牧野記念庭園

◎総天然色マキノ植物画博覧会

◎わたしは草木の精である──植物博士の人生図鑑 解説=田中純子
少年期 天然の教場に学ぶ
青年期 大志を抱いて上京
壮年期 波乱万丈の研究生活
晩年期 わたしは草木の精である

◎博士の意思を継いで百余年 牧野植物同好会
◎東京都立大学 牧野標本館 わたしのハァバリウム
◎牧野が認めた江戸の植物画家 関根雲停
◎富太郎写真館
◎標本作りの苦労(牧野鶴代)

◎インタビュー
「草を褥に木の根を枕……」 牧野一浡
◎エッセイ
科学的精神に支えられ 大場秀章
粋人伝説「蝶タイ姿の生涯草木少年」 坂崎重盛
牧野をめぐる旅から 竹内一

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