マシュー・ボーンの『くるみ割り人形』
in Cinema 1週間限定上演!

カルチャー|2023.3.3
文・編集部 Photo credit: Johan Persson

奇才マシュー・ボーンの原点ともいえる名作が、スクリーンに!

 マシュー・ボーンといえば1995年に初演された、男性ダンサーが白鳥を踊る新解釈の『白鳥の湖』を思い浮かべる人も多いだろう。当時、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルだった24歳のアダム・クーパーが主役の「ザ・スワン」を踊って日本でも一世を風靡した。この作品でバレエの魅力に開眼した読者も多いのではないだろうか。

 そして、今回上映されるマシュー・ボーンの『くるみ割り人形』の初演は1992年。『白鳥の湖』の3年前に作られた作品と思って鑑賞すると改めてその才能に目を見張る。チャイコフスキー「三大バレエ」と讃えられ、愛されてきた『くるみ割り人形』をチャイコフスキーの音楽へのリスペクトを保ったまま、まったく新しい振付で現代の物語、しかも社会への風刺もきかせたしっかりした恋物語に生まれ変わらせた。この作品が評判となり、『白鳥の湖』の大成功へと繋がっていくのもうなずける。
 ロンドンっ子はもちろん、世界中で長らく愛され、2004年に来日公演も行われた記念碑的作品が、初演から30周年を記念して新たに収録されスクリーンに帰ってきたのは喜ばしいことだ。

孤児院の少女クララのほろ苦い大冒険に心躍る

 物語の主人公はドロス博士の孤児院に暮らす、少女クララ。美術も衣装も灰色に覆われた暗黒のクリスマス・イヴから舞台は始まる。気取った上流階級の寄付者や意地悪そうなドロス夫妻の登場で暗澹たる気分に。やがて、きらめく冬のワンダーランドを経て一転、カラフルなお菓子の国へ――。視覚的にもポップでキュート、1930年代の華麗なハリウッドミュージカルを思わせる振付で楽しませながら、ボーン作品特有の風刺や毒をまぶしたユーモアがほろ苦い気持ちを呼び起こす。ハラハラ、ドキドキしながらクララの気持ちに寄り添っていると、最後は――⁉︎  

 斬新な振付や舞台美術・衣装の華やかさだけでは終わらせない、物語を最も大切にしている姿勢はさすが演劇の国だ。
 ロンドンには世界が誇る歌劇場「ロイヤル・オペラ・ハウス」があり、英国ロイヤル・バレエ団の拠点となっている。一方、コンテンポラリー・ダンスファンには外せない劇場が「サドラーズ・ウェルズ劇場」。こちらは、シルヴィ・ギエムやアクラム・カーンなど世界最先端のコンテンポラリー作品を上演してきたことで有名だ。ボーン作品はこの劇場で初演されることが多いが、本作も同劇場で2022年1月に収録された。ロンドンのカルチャー・シーンの層の厚さに思いを馳せながら、カーテンコールではコロナ禍を乗り越えた観客の熱気に包まれたい。

[上映情報]

マシュー・ボーン・シネマ 『くるみ割り人形』
公開日:2023年3月10日(金)
公開劇場:TOHOシネマズ 日本橋/大阪ステーションシティシネマ/TOHOシネマズ ららぽーと福岡
鑑賞料:一般3,000円/学生・障害者2,500円
【イベント情報URL】 https://www.culture-ville.jp/nutcracker

【作品情報】
上映時間:1時間28分(休憩なし)
振付・演出:マシュー・ボーン
映像監督:ロス・マクギボン
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
指揮者:ブレット・モリス
舞台・衣装美術:アンソニー・ワード

キャスト:
クララ:コーデリア・ブレイスウェイト
くるみ割り人形:ハリソン・ドウゼル
シュガー/プリンセス・シュガー:アシュリー・ショー
フリッツ/プリンス・ボンボン:ドミニク・ノース
ドクター・ドロス/キング・シャーベット:ダニー・ルーベンス
ミセス・ドロス/クイーン・キャンディ:デイジー・メイ・ケンプ
キューピッド:キーナン・フレッチャー、カトリーナ・リンドン

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