#2  越後トキめき鉄道の駅を訪ねて(後編)│〈特濃日帰り〉ひとり土木探訪記。

カルチャー|2023.1.4
写真・文=牧村あきこ

地下の秘密基地のような筒石駅へ

 前回に引き続き、日本海の交通の難所における克服の歴史跡を訪ねていく。
 後編では、およそ50年前に新規開通した長いトンネルの中に建設された、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインの筒石駅を訪ねるところから始めよう。

本日の旅程(後編)

12:58 市振駅を出発。目指すはトンネル内の筒石駅
13:44 筒石駅で下車。誰一人いない異空間へようこそ
13:46 待合室は秘密基地
13:47 ダンジョンのような連絡通路を抜けて
14:00 駅舎に到着!
14:49 筒石駅をあとにして帰途につく
15:15 糸魚川駅に到着。乗り継ぎ時間の合間に駅前の広場へ

12:58 市振駅を出発。目指すはトンネル内の筒石駅

 市振駅でランプ小屋をしっかり鑑賞した後は、本日の最後の目的地、筒石駅に向かう。大きなカニの絵がモチーフになっている列車に乗り込み、そのまま青海(おうみ)、糸魚川(いといがわ)を経由して、筒石駅まで一直線だ。

直江津(なおえつ)行きの上り列車が入線してくる

 筒石の一つ手前の駅、能生(のう)を出発すると全長1万1353mの頸城(くびき)トンネルに入る。頸城トンネルが完成した1969(昭和44)年当時では、国内で3番目の長さだった。

 ちなみに、その時の第2位は上越線の新清水トンネルの1万3500mで、もぐら駅として有名な土合(どあい)駅の下りホームはこの新清水トンネルの中にある。

13:44 筒石駅で下車。誰一人いない異空間へようこそ

 頚城トンネルに入った列車は、やがて静かに停車した。筒石駅に到着である(map⑦)。
※mapは記事の一番下にあります

 列車から降りたのは私のみ。以前は地上にいる駅員さんがホームまで降りてきて、ホームから客が退去するのを見届けていたらしいが、2019年から完全に無人になってしまったので誰もいない。列車が出発してしまえば、駅構内にいるのは私ただ一人である。

 筒石駅は2面2線構造なのだがトンネル断面を小さくするため、次の写真のように140mのホームが互い違いに配置されている。

筒石駅の下りホーム。前方右側に上りホームが見える

 筒石駅はトンネルの中にホームがあり、駅舎が地上にある。高低差はおよそ40mだ。駅舎はホームの真上にはなく、少し離れた位置にあるため事前に構内図を見ていても駅全体の構造がつかみにくい(筒石駅構内図)。

筒石駅構内図。ピンク色が待合室で長い階段を上って地上に出る

 ホームに長居は無用だ。列車から降りたらすみやかに待合室に入り、地上の駅舎を目指す。帰宅路に乗る泊・糸魚川方面へ向かう上り列車到着まで残り1時間だ。

出口灯の下に、待合室への扉がある

13:46 待合室は秘密基地

 待合室には壁に沿ってプラスチックの椅子が並んでいる。引き戸には扉をしっかり閉めるよう指示する張り紙があった。列車通過時に、トンネル内のホームは風穴のようになり強い風が吹く。このため乗車する列車が来るまでは、扉を閉めた待合室に退避しているのが筒石駅のルールである。

下りホームに隣接する待合室。正面引き戸の向こう側にホームがある

 待合室には温湿度計があった。湿度は約90%。ホームの壁も、配管もなにもかもじっとり濡れている。室内温度は約20度で、外気温とは10度ほどの差がある。

引き戸の取っ手は結露でびしょびしょだ

13:47 ダンジョンのような連絡通路を抜けて

 待合室から連絡通路へは60段ほどの階段を上る。駅は3層構造になっていて、一番深いところにホーム(トンネル)、そこから一段高い場所に連絡通路、さらに高い場所(地上)に駅舎がある。

待合室から連絡通路を見上げる。霧が出ていて蛍光灯の灯りがぼやけて見える

 連絡通路は、ある意味、筒石駅の一番の見どころかもしれない。円弧を描く天井には、高い湿度による苔の美しい模様が浮き出ている。連続して続く蛍光灯の灯りは、ミスト状の霧の中で拡散され、幻想的な光景を作り出す。この空間にたった一人なのだという恐れはなく、非日常的な光景にみとれてしまう。

正面奥に上りホームへ降りる階段がある

待合室にもあったが、連絡通路にも監視カメラが設置されている。

左手側に地上へつながる階段がある

 地上へつながる階段の前に立つ。この階段は、筒石斜坑と呼ばれる頸城トンネル建設時の斜坑を利用したものだ。地上に出るためには、斜坑階段を上るのが唯一のルートである。5分ほどかけて、ゆっくりと階段を上がっていく。ひんやりとした空気が、少しずつ変わっていくのを感じながら。

地上までの階段は224段
階段を上りきると地上駅舎への出入り口が目の前に

14:00 駅舎に到着!

 地上の駅舎に到着(map⑧)。さすがに息がきれる。駅舎は山の中腹にひっそりと建っていて、事前に知らなければこんな場所に駅があるとは気が付きにくい。

 えちごトキめき鉄道に経営移管されるずっと以前の1911(明治44)年、北陸本線は直江津(なおえつ)から名立(なだち)まで開通した。その翌年には西の糸魚川まで延伸し、筒石はこの時に開業した駅だ。開業時には現在よりも少し西の海寄りの場所にあった。

 筒石駅一帯を含むこの地域は糸魚川静岡構造線地帯であり、地滑りが多い場所だった。昭和30年代に入り路線の複線化・電化が進む中、ルート変更で筒石は廃駅となる可能性もあったが、最終的には新しいトンネル内に駅を作ることが決定した。

 1969(昭和44)年、筒石を途中に含む有間川から浦本までの区間が新線へ切り替わり、筒石駅は現在の頸城トンネル内に移転した。

筒石駅の駅舎。もう一度入ってホームまで行く場合には入場料が必要だ。

それではそろそろ地下空間に戻ることにしよう。先ほど上ってきた斜坑階段を再び降りていく。

駅舎側から斜坑階段を撮影。斜坑階段の横には幅1mほどの空間がある

14:49 筒石駅をあとにして帰途につく

 列車到着を知らせる案内を受け、ホームに出る。暗いトンネル内に列車が近づいてくる様子はなかなか美しい。ただし、待合室にも注意書きがあったが、くれぐれも列車に向けてカメラのフラッシュなど使わないように注意したい。

泊・糸魚川方面に向かう列車の到着だ

15:15 糸魚川駅に到着。乗り継ぎ時間の合間に駅前の広場へ

 糸魚川の駅前広場には、不思議な形のモニュメントがある。レンガ造りの三角屋根の構造物だが、奥行きはほとんどなく駅ビルに張り付くように建っている。

 糸魚川駅が開業した1912(大正元)年に造られたレンガ車庫が解体され、その一部がモニュメントとして残されたのだ。

 私にとっては大変懐かしいレンガ車庫だが、この話はまた別の機会に。
 帰りの新幹線の時刻が近づいてきた。そろそろ帰ることにいたしましょうか。

糸魚川駅アルプス口(南口)にあるレンガ車庫モニュメント

牧村あきこ

高度経済成長期のさなか、東京都大田区に生まれる。フォトライター。千葉大学薬学部卒。ソフト開発を経てIT系ライターとして活動し、日経BP社IT系雑誌の連載ほか書籍執筆多数。2008年より新たなステージへ舵を切り、現在は古いインフラ系の土木撮影を中心に情報発信をしている。ビジネス系webメディアのJBpressに不定期で寄稿するほか、webサイト「Discover Doboku日本の土木再発見」に土木ウォッチャーとして第2・4土曜日に記事を配信。ひとり旅にフォーカスしたサイト「探検ウォークしてみない?」を運営中。https://soloppo.com/

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