新国立劇場25周年を祝う
2022/2023シーズン華やかに開幕!

カルチャー|2022.11.11
文=渡辺真弓(オン・ステージ新聞編集長、舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師)

オペラ『ジュリオ・チェーザレ』&バレエ『ジゼル』 新制作を披露、圧巻の舞台

 芸術の秋。日本の舞台芸術をリードする新国立劇場が、開場25周年を迎え、意欲的な新制作で新シーズンの幕を開けた。同劇場は、1997年秋、オペラ、舞踊(バレエ、ダンス)、演劇の3部門で開場。オペラパレス(1,806席)、中劇場(約1,000席)、小劇場(最大468席。公演により異なる)の3つの劇場で多彩な活動を展開中。

新国立劇場オペラパレス

 芸術監督は、オペラが世界的指揮者の大野和士、舞踊が英国ロイヤルバレエで活躍した名花、吉田都、演劇が気鋭の演出家、小川絵梨子。『ジュリオ・チェーザレ』『ジゼル』『レオポルトシュタット』の3つの新制作のうち、オペラとバレエ公演の模様をご紹介しよう。

上:大野和士オペラ芸術監督
2枚目:国際プロジェクト〈オペラ夏の祭典2019-20〉『トゥーランドット』のリハーサルより、大野監督と世界的演出家アレックス・オリエ。世界を見据えた新制作に次々に取り組む大野監督 (撮影:堀田力丸)

コロナ禍を乗り越え、バロック・オペラ大作を上演 ヘンデル『ジュリオ・ チェーザレ』

 オペラ『ジュリオ・チェーザレ』は、ヘンデルの名作で、バロック・オペラ・シリーズ第1弾として企画されながら、コロナ禍で中止となり、ようやく上演の運びとなったもの。英雄ジュリアス・シーザーと絶世の美女クレオパトラを巡る物語で、2011年、パリ・オペラ座で初演された鬼才ロラン・ペリーの演出。舞台をエジプトの博物館の倉庫に設定したのが斬新で、スタッフが忙しく仕事をする中、古代の物語の登場人物たちが忽然と現れて、クレオパトラが巨大なファラオ像の上で歌ったり、チェーザレが自身とクレオパトラが描かれた名画の前で歌うといったユーモア溢れる仕掛けが次々に登場。洒落たセンスはパリ・オペラ座にいるかのような錯覚を覚えさせる。

『ジュリオ・チェーザレ』
クレオパトラ(森谷真理)とトロメーオ(藤木大地)
(写真全て 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)
『ジュリオ・チェーザレ』
展示ケースの中で歌うジュリオ・チェーザレ(マリアンネ・ベアーテ・キーランド)とトロメーオ(右)
『ジュリオ・チェーザレ』
上:名画の前で歌うリディア(実はクレオパトラ)
2枚目:忙しく仕事をする博物館のスタッフ達とクレオパトラ

 指揮はバロック音楽の大家アレッサンドリーニ、歌手陣は、チェーザレに国際的メゾソプラノのマリアンネ・ベアーテ・キーランド、クレオパトラに森谷真理、弟トロメーオに藤木大地ら一級のソリストたちを揃え、声の競演を堪能させた。

吉田都監督初演出『ジゼル』
新プリンシパル5キャストの豪華競演

 一方、『ジゼル』は、19世紀にパリで初演されたロマンティック・バレエの名作だが、吉田監督自ら演出を手がけた舞台は、演劇色が強く英国風。こちらは、英国ロイヤルオペラハウスでバレエを鑑賞しているような気分に。新国立劇場のオペラ、バレエ共にまだ四半世紀の歴史だが、世界レベルに達していることに大きな前進を感じる。

『ジゼル』の制作発表会見より
上:英国ロイヤルバレエで長らく活躍したアラスター・マリオットを改訂振付に招いた吉田都舞踊芸術監督(撮影:阿部章仁)
2枚目:左より、池田理沙子、木村優里、吉田監督、マリオット、福岡雄大、速水渉悟

 バレエの物語は、村娘ジゼルが、恋人アルブレヒトに裏切られ、正気を失い、死後ウィリ(精霊)となっても、恋人を許すというもので、劇的な見どころたっぷり。吉田監督は、恐らく本物に近い村の風景を出現させたかったのだろう。その師である名匠ピーター・ライトによる演出も演劇性に定評があるが、吉田は、通常ステップを踏む箇所もマイムで見せ、細部まで演技を詰め、登場人物たちが「舞台の上で生きている」という状況を生み出すことに成功。ライト版をさらに緻密に深化させた感があった。

 ディック・バードの美術(衣装も)は、名画のように美しく、第1幕では、林に囲まれた閉ざされたドイツの集落の空間を生み出し、第2幕の森は、大木の根元からウィリたちを出没させるなど、神秘的ムードたっぷり。それだけではない。吉田は、ロイヤルバレエから盟友アラスター・マリオットを振付に招き、踊りの随所に新鮮な息吹を与えたのである。例えば、第1幕のペザント・パ・ド・ドゥ。通常、男女ペアは、手を取り合って並んで踊るところ、向き合い、交差することで立体感を出し、高度なテクニックを盛り込んだステップは、現代の観客の鑑賞眼を満足させることに。総じて上体を大きく使い、ステップの歩幅を広げることで踊りのスケールが増した印象を受けた。

『ジゼル』
第1幕より、バチルド(益田裕子)の豪奢な衣裳に触れるジゼル(小野絢子)
(写真全て 撮影:鹿摩隆司)

 主役ペアは、小野絢子&奥村康祐、米沢唯&渡邊峻郁、木村優里&福岡雄大、柴山紗帆&井澤駿、池田理沙子&速水渉悟の5組交替。

『ジゼル』
新国立劇場バレエ団を代表するジゼル(小野絢子)、アルブレヒト(奥村康祐)

 鑑賞した3組のうち、初日の小野&奥村組は、会話が聞こえてきそうな相性の良さで傑出。小野のジゼルは、神がかっていて、奥村は、ジゼルのお墓に倒れこむラストまで誠実さを印象づけた。

 米沢のジゼルは空気のように軽やかで存在感を発揮。渡邊のアルブレヒトは溌剌とし、共に生彩ある踊りで魅了。プリンシパル昇進のお披露目が注目された木村は、第1幕から儚げで精霊そのもの。第2幕は幽玄の世界を想起させた。福岡は隙のない演技でジゼルを支え、成熟した理想のダンスール・ノーブルの規範を見るようであった。

『ジゼル』
ジゼル(米沢唯)、アルブレヒト(渡邊峻郁)
『ジゼル』
ジゼル(木村優里)、アルブレヒト(福岡雄大)。木村は今シーズンよりプリンシパルに昇進

 ペザントの池田理沙子&速水渉悟、飯野萌子&山田悠貴、五月女遥&佐野和輝は、安定感。ミルタは寺田亜沙子、根岸祐衣、吉田朱里、ヒラリオンは福田圭吾、中島駿野、木下嘉人。いずれも明瞭な役作りでドラマの展開に貢献。ドゥ・ウィリは双子のように揃い、ウィリの群舞は凛とした統一感でしばしば拍手が鳴り止まなかった。バクラン指揮東京フィルハーモニー交響楽団の情感豊かな演奏を讃えたい。

『ジゼル』
上:ペザント・パ・ド・ドゥの池田理沙子と速水渉悟は別日に主役も務め、大活躍
2枚目:第2幕より、群舞を率いるミルタ(根岸祐衣)。根岸はCAから転身した話題のダンサー

 世界的に、古典バレエ作品の見直しが進む中、新国立劇場の『ジゼル』の新制作もその潮流に乗っていると言えそうだ。
(所見=『ジュリオ・チェーザレ』10月5日、『ジゼル』10月21日、23日、28日 新国立劇場オペラパレス)

〈新国立劇場オペラパレス 次回公演情報〉

[オペラ]
●開場25周年記念公演 『ボリス・ゴドゥノフ』<新制作>
モデスト・ムソルグスキー
2022年11月15日[火]~11月26日[土]
●『ドン・ジョヴァンニ』ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
2022年12月6日[火]~12月13日[火]
写真:『ドン・ジョヴァンニ』撮影:寺司正彦

[バレエ]
●『くるみ割り人形』ウエイン・イーグリング版
2022年12月23日[金]~2023年1月3日[火]
写真:『くるみ割り人形』撮影:長谷川清徳

新国立劇場HP  https://www.nntt.jac.go.jp
新国立劇場ボックスオフィス ☎03-5352-9999

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