新国立劇場バレエ団は、6月に、ピーター・ライト版『白鳥の湖』全4幕を上演した。4〜5月の『ライモンダ』から1ヵ月ほどで臨んだ古典バレエの代表作だが、全10公演ほぼ満席の大盛況。主役からコール・ド・バレエに至るまで上昇気流に乗っていて、文字通りバレエ団の総力を挙げた公演と言えた。
今回、主役のオデット/オディールとジークフリード王子のペアは、小野絢子&奥村康祐、木村優里&速水渉悟、米沢唯&福岡雄大、吉田朱里&井澤駿、柴山紗帆&李明賢、直塚美穂&渡邊峻郁の6組交替。プリンシパル陣が円熟の演技で感銘を与えたのに対し、吉田、李、直塚のソリスト3名のうち、李と直塚が瑞々しいロールデビューを果たした。準主役級にも新進の顔ぶれが多数起用され、新しい世代の台頭が著しかった。

小野&奥村の初日ペア、名演を刻む
まず初日に主演した小野が、体調不良のため第3幕終了後に降板するという波乱の滑り出しとなったが、それから5日後、見事に復調し、名演を刻みつけ、劇的な感動を呼び起こした。
初日の小野&奥村のペアは、全身に悲劇の運命を背負った孤高のオデットと悩める現代のハムレットのような王子の組み合わせが絶妙。第3幕まで順調に進んだかに見えたが、第4幕開始前に、吉田都舞踊芸術監督が幕前に現れ、小野の降板を告げると、客席に衝撃が走った。しかし、第4幕からは、代わって吉田&井澤のペアが登場、情感をこめてバレエを締めくくり事なきを得た。


小野&奥村ペアによる2日目(10日マチネ)。どうしてもこのペアで最後まで見たいという思いを募らせていたところ、幸い前日にチケットを入手することができ再び劇場へ。小野の復帰を待ち望む観客で、客席には開場前から熱気が漂う。この日の小野には、「最後まで完走する」という強い意志が感じられた。オデットは、ポーズをつなぐ間の動きまで美が宿り、オディールでは、妖艶な魅力を倍加させ、王子を翻弄、第4幕では、濃密なパートナーシップで、悲劇のクライマックスを築く。終演後は、万雷の拍手に応えて、何度もカーテンコールに姿を見せた。

米沢&福岡、堂々たる王道のパートナーシップ
次に新国立劇場で『白鳥の湖』が上演されるのはいつの日かと考えると、もう1組見逃せなかったのが、米沢&福岡のペア。『ライモンダ』に続いて、堂々たる王道のパートナーシップを深化させ、さすがと言えた。米沢のオデットは儚くも意志を貫く凛とした役作りが傑出。ゆったりとした動きから速い動きに移り変わる時の緩急の切り替えが鮮やかで、目が離せない。王子は、ダイナミックで包容力のある理想のノーブルとしての存在感は健在。視線の動きだけでも情景の変化やドラマの流れを感じさせるのは熟練の技だろう。


木村、初役の直塚……新世代を担う白鳥たち
木村、直塚のオデット/オディールは、長い手脚を生かした、伸び伸びとした踊りが際立ち、今後を担っていく新世代への期待を膨らませた。前者は、憂いを込めた表情が、オデットの運命に強く共感させ、オディールはあでやかさで魅了。後者は、しなやかかつ強靭な踊りが、日本人離れしていて、共にこれからどこまで伸びていくか楽しみでならない。速水と渡邊は、見るたびに、踊りのスケールや物腰に王子らしさが備わってきていて頼もしかった。



ライト版は、先王の葬儀のシーンから始まり、宮廷が喪に服しているという設定から、舞台全体が黒光りし、魔法にかけられたよう(美術・衣裳はフィリップ・プロウズ)。それが、白鳥たちの“白いバレエ” の整然とした美しさとコントラストをなしている。


王子の友人ベンノに物語のキーパーソンの役割を与えたのも特徴で、第1幕では、真っ先に登場し、パ・ド・トロワを踊る(ここでは、ベンノと二人のクルティザンヌの踊りに王子が合流)。第4幕は、オデットも王子も湖に身を投げて死んでしまう悲劇に終わるが、王子の亡骸を抱いてくるのはベンノである。初日の木下嘉人をはじめ、中島瑞生、水井駿介が、それぞれの個性を発揮して舞台を活気づけた。
クルティザンヌは、飯野萌子と五月女遥/花形悠月と山本涼杏/東真帆と小田那奈の3組で、ベテランと若手が日替わりで出演し、第1幕の見せ場を飾った。


第3幕の舞踏会では、各国の踊りは、ハンガリー、ポーランド、イタリアの各国の王女たちが使節団を引き連れてきた設定で、音楽の構成にも独特の色合いが見られる。王女たちは、飯野萌子、根岸祐衣、花形悠月/金城帆香、山本涼杏、五月女遥/榎本志結、堀之内咲希、赤井綾乃の3通りの組み合わせがあったが、いずれも達者な踊りで、ライバル同士の火花を散らした競演が見ものとなった。



白鳥たちの群舞の美しさも特筆に値する。とりわけ、第4幕では、白鳥たちが一丸となって、ロットバルトに立ち向かうラストシーンが壮絶で、深い感銘を与えた。
指揮は、ポール・マーフィーと冨田実里(6月6日昼、13日)、演奏は、東京フィルハーモニー交響楽団。

なお、このほど新国立劇場バレエ団は、第26回英国舞踊批評家協会賞(National Dance Awards)において、日本で初めて「Stef Stefanou Award for Outstanding Company(最優秀カンパニー賞)」を受賞。授賞式は英国ロンドンのコロネット・シアターで行われ、鈴木浩駐英国日本大使から、新国立劇場舞踊芸術監督の吉田都に賞が授与された。今回の受賞は、2025年7月に英国ロイヤルオペラハウスで上演した『ジゼル』ロンドン公演が高く評価されたもの。日本のバレエ界にとって、非常に誇らしい栄誉と言える。
(2026年6月5日、6日昼夜、10日、13日 新国立劇場オペラパレス)

「SWAN―白鳥―」初の舞台化決定!!
2026年9月4日~9日
今年、連載50周年を迎える『SWAN―白鳥―』が9月に新国立劇場で初の舞台化!
新国立劇場バレエ団からは、主人公・聖真澄役に木村優里、柴山紗帆、憧れの先輩京極小夜子役に米沢唯ほか、渡邊峻郁、中島瑞生も出演! セルゲイエフ先生役に元新国立劇場の厚地康雄が登場するのも注目です。そのほか大人気の飯島望未、塩谷綾菜、レジェンドの中村祥子、倉永美沙、佐久間奈緒など豪華バレエダンサーと朗読が交差する新感覚の舞台にご期待ください。
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おすすめの本
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有吉京子 著(平凡社刊)
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〈夢の舞台は、パリ・オペラ座――。〉
