年末年始の新国立劇場バレエ団に、待望の全幕新制作が登場した。ウィル・タケットに振付を委嘱した『くるみ割り人形』である。18回のロングラン公演(12月19日〜2026年1月4日)は、ソールドアウトという大盛況。
12月19日の初日公演には、天皇皇后両陛下と敬宮愛子内親王殿下が臨席され、客席も華やいだ空気に包まれた。

タケット版は、時代を1900年代初頭に設定、コリン・リッチモンドの美術と衣裳が洗練されていて、レースペーパーのプロジェクションマッピング(ダグラス・オコンネル)もお菓子の国にふさわしく、現実と夢の二つの世界を巧みにつなぐ。
第1幕は、演劇性が強く、クララやフリッツをはじめ登場人物一人一人が役を生きているかのよう。なかでも、ドロッセルマイヤーは、主役と言っていいほど存在感があり、奇術でぬいぐるみや花、旗などを次々に出現させ、あっと言わせる。

第2幕お菓子の国は、スイーツをモチーフにした美術や衣裳が甘さを演出。スペインは、イギリスの音楽に替えられ、パティシエたちが踊り、アラブからロシアなど各国の踊りは、わたあめやゼリー、キャンディ、ポップコーンに形を変えて、衣裳の奇抜さで驚かせた。
初日の印象では、全体に舞踊シーンの高揚感に乏しく、第1幕の雪の国や第2幕のお菓子の国の踊りに改訂の余地を感じたのも事実。しかし、これはダンサーたちの熱演の賜物だろうか、回を重ねるうちに、演技や踊りに生彩が加わり、エンターテインメントとしての楽しさを満喫させるに至った。


現実世界の登場人物がお菓子の国にも現れ、クララがドロッセルマイヤーの助手に寄せた想いが、夢の世界で叶うという設定に説得力がある。初日にクララ/金平糖の精を演じた米沢唯とドロッセルマイヤーの助手/くるみ割りの王子の渡邊峻郁は、プリンシパルの品格に溢れる踊りで魅了。渡邊は、テンポの速いヴァリエーションを颯爽とこなし、ドロッセルマイヤー役の福岡雄大は、紳士的なマジシャンぶりで、舞台を仕切る余裕さえ見せた。

お菓子の国では、わたあめ(アラブ=花形悠月)、ゼリー(中国=宇賀大将、菊岡優舞)、キャンディ(フランス=飯野萌子ほか)、ポップコーン(ロシア=上中佑樹、山田悠貴、樋口響)の衣裳の造形美を楽しませる。踊りの見せ場は、フォンダンの「花のワルツ」以降に用意され、パステルカラーのふんわりした衣裳をまとったフォンダンの群舞で、ようやく新国立劇場バレエ団の真価を見た思い。フォンダンローズのペアを務めた直塚美穂と木下嘉人のデュエットが流麗で、舞台に花を咲かせた。

技術的に難度の高い従来のイーグリング版では、ロングラン公演を乗り切ることは難しそうだが、主役の体力的負担が少ないタケット版は、新人にとってもそう抵抗がないようだ。今回、ベテランと新進を組み合わせたキャスティングが試みられ、ファースト・アーティストの東真帆とソリストの李明賢が、全幕初主演を成功させたのが収穫だった。

東は、奥村康祐の王子と福岡のドロッセルマイヤーというベテランに支えられ、伸び伸びとクララを演じ、金平糖の精では、エレガントに変身。李は、小野絢子と組み、まるで絵本の中の主人公のような瑞々しさがほほえましかった。
また小野の愛らしさは奇跡的と言え、第1幕で子役たちに混ざっても全く違和感がない。金平糖の精は、宝石の輝きにも似た煌めきを放ち、別格の踊りで満場の観客の心を掴んだ。ドロッセルマイヤーに扮した中家正博は、父親のような包容力を感じさせ、舞台を温かく包み込んでいた。
指揮はマーティン・イェーツ、管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団。
(2025年12月19日、27日昼、29日夜 新国立劇場オペラパレス)


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