第35回「高松宮殿下記念世界文化賞」 授賞式典リポート!

カルチャー|2024.12.11
文=小野寺悦子(編集・ライター)©The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

今年は坂茂氏ら計5名が受賞

世界の優れた芸術家に贈られる第35回高松宮殿下記念世界文化賞(公益財団法人 日本美術協会主催)受賞者が決定。オークラ東京を会場に、授賞式が開催された。

授賞式典

 日本美術協会によって1988年に創設され、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の各分野で世界的に顕著な業績をあげた芸術家に授与される高松宮殿下記念世界文化賞。

 受賞者の選考は、国際顧問のランベルト・ディーニ(元伊首相)、クリストファー・パッテン(英・前オックスフォード大学名誉総長)、クラウス=ディーター・レーマン(独・前ゲーテ・インスティトゥート総裁)、ジャン=ピエール・ラファラン(元仏首相)、ヒラリー・ロダム・クリントン(元米国務長官)の各氏が中が中心となり、候補者を推薦。その推薦リストに基づき日本の選考委員会が受賞候補者を選び、日本美術協会理事会で最終決定される。

(左から)アン・リー、マリア・ジョアン・ピレシュ、坂茂、ドリス・サルセド、ソフィ・カル

 今年の受賞者は、ソフィ・カル(絵画部門/フランス)、ドリス・サルセド(彫刻部門/コロンビア)、坂茂(建築部門/日本)、マリア・ジョアン・ピレシュ(音楽部門/ポルトガル・スイス)、アン・リー(演劇・映像部門/台湾)の5名。
 授賞式では、国際顧問の各氏と常陸宮妃殿下が臨席。受賞者に感謝状とメダルの授与が行われた。

常陸宮妃殿下よりメダルを授与

各分野で優れた業績をあげた芸術家を表彰

ソフィ・カル 絵画部門

 フランスを代表するコンセプチュアル・アーティスト。見知らぬ人々を自宅へ招き、自身のベッドで眠る様子を撮影、インタビューを加えて作品にするなど、写真と言葉による作品で知られる。人生や日常の空間をアートに昇華させる斬新な作風は世界中で注目され、2012年にフランス芸術文化勲章コマンドールを受章。

《眺めのいい部屋》2003年、 ギャラリー小柳での展示風景、2003年 ©Sophie Calle / Courtesy of Gallery Koyanagi
《どうしてあの子だけ?》2018年 ©Sophie Calle / Courtesy of Gallery Koyanagi Photo: Keizo Kioku

ドリス・サルセド 彫刻部門

 南米コロンビア・ボゴタを拠点に活動している彫刻家、インスタレーション・アーティスト。椅子やテーブルなど日常的な素材を用い、政治的暴力から生じる喪失、悲哀、記憶、痛みなどの感情を表現。ヒロシマ賞、ナッシャー彫刻賞(米国)、野村アートアワード大賞など受賞多数。コロンビアからの世界文化賞受賞は初となる。

《ノビエンブレ6&7(11月6日と7日)》2002年 ボゴタの最高裁判所の壁 Photo: Oscar Monsalve Courtesy of Doris Salcedo Studio
《ア・フロール・デ・ピエル》2012年 バラの花びらと糸、バーゼル・バイエラー財団美術館の展示風景2023年 Photo: Mark Niedermann Courtesy of Doris Salcedo Studio

坂茂 建築部門

 独創的な素材、紙管の選択と革新的デザインで建築に新たな地平を切り拓き、災害支援において建築家としての新たな役割を実践。2014年にプリツカー賞を、また人道支援活動により、2017年マザー・テレサ社会正義賞、2022年アストゥリアス皇太子賞平和部門を受賞した。

『スウォッチ・オメガ』2019年 Photo: Nicolas Grosmond Courtesy of Shigeru Ban Architects
『ラ・セーヌ・ミュジカル』2017年 Photo: Shun Kambe ©The Japan Art Association

マリア・ジョアン・ピレシュ 音楽部門

 現代を代表するピアニストの一人。3歳のとき独学でピアノを始め、4歳で初舞台。1986年にロンドンのクイーン・エリザベス・ホール、1989年にニューヨークのカーネギー・ホールでリサイタル・デビューを果たし、国際的なキャリアをスタート。音楽教育にも取り組み、演奏活動の合間に世界各地で若手ピアニストを指導している。

フランス・ボルドーでのワークショップ 2024年6月 ©Alain Benoit
ポルトガル・ポルトでの演奏会 2024年5月 ©Miguel Ângelo Pereira - Fundação Casa da Música

アン・リー 演劇・映像部門

 米国を中心に活動する台湾生まれの映画監督。台湾・米国合作映画『推手』(1991年)で長編映画デビュー。『グリーン・デスティニー』(2000年)でアカデミー賞外国語映画賞を、『ブロークバック・マウンテン』(2005年)でアカデミー賞監督賞を初受賞。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)で、2度目のアカデミー賞監督賞を受賞した。

『グリーン・デスティニー』(2000年)のミシェル・ヨー Photo: Peter Pau Courtesy of Sony Pictures Classics
『ブロークバック・マウンテン』2005年 Photo: Kimberly French/Focus Features Courtesy of River Road Entertainment Courtesy of Universal Studios Licensing, LLC

 受賞者を代表し、最後に坂茂氏(建築部門)がスピーチを行った。

 「私は建築家として作品をつくるかたわら、30年以上被災地で被災者の住環境の改善をするボランティアを続けてきました。我々建築家は普段特権階級の仕事をしています。財力のある人、政治力のある人たちです。財力も政治力も目に見えませんから、我々建築家を雇い、モニュメントをつくり、その力を社会に示す。そういうお手伝いをしています。そんなときに地震を体験した。人々は地震自体で亡くなっているわけではなく、建築が崩れて亡くなっている。つまり我々の責任です。ところが街が復興するとき我々にまた新しい仕事がやってくる。しかし街が復興する前に多くの人々が避難所や仮設住宅で大変な苦労をしている。そういう住環境を改善するのも我々の仕事ではないかと考え、活動をしてきました。今回ここにいる4名のアーティストは単に美しいものを追求しているわけではないと考えています。常に社会的なテーマ・問題を批判したり、解決策を提案したり、そういったことを踏まえ活動していると思います。私がその一員に選ばれたことに大変感動しています。この賞を励みにこれからも世界中で社会貢献活動をしていきたいと考えています」

平凡社のおすすめ本

●坂茂 関連書籍
『動都 移動し続ける首都』→詳細
『坂茂の建築現場』→詳細
『坂茂の家の作り方』→詳細

●ソフィ・カル 関連書籍
『限局性激痛』→詳細

RELATED ARTICLE