ヤスミン・ナグディ、マシュー・ボール© Andrej Uspenski

英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』を映画館で! 主演ヤスミン・ナグディにインタビュー

カルチャー|2024.6.10
文=上野房子(舞踊評論家、明治大学非常勤講師)

 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2023/24で、英国ロイヤル・バレエ団の最新映像が公開される。4月24日に収録され、6月14日から全国11都市の映画館で上映される『白鳥の湖』である。
 ヒロインのオデット/オディールを演じるのは、若手が次々と台頭する今日のロイヤル・バレエの中核をにない、これまでのシネマシーズンでも『眠れる森の美女』や『ロミオとジュリエット』に主演してきたヤスミン・ナグディだ。

ヤスミン・ナグディ:熱心なロイヤル・バレエファンの間では、第二のマリアネラ・ヌニェスとも目される大注目のプリンシパル。練習熱心でも有名で、バレエにかける熱い情熱が伝わってくる舞台は必見。マシュー・ボールとのパートナーシップでますます輝きを増している  ©Andrej Uspenski

「シネマ公演ならではの高揚感と緊張感があります」。ヤスミンの熱い思いとは?

 この作品にかける彼女の思いの熱さとバレエ団の万全の支援体制には驚かされてしまう。
「ロイヤル・バレエ学校の生徒だった時に子役に選ばれて以来、数え切れないほど何度も踊ってきた作品ですが、シネマ公演ならではの高揚感と緊張感があります。舞台の隅々までを撮影した映像が残されるわけですから、失敗は許されません。友人と過ごす時間すらとらずにリハーサルに専念し、バレエ団のスタッフでもある栄養学やパフォーマンス心理学のスペシャリストのアドバイスを受けて、公演に臨みました。カーテンコールでは盛大な拍手を浴び、胸がいっぱいになりました」

ヤスミン・ナグディ、マシュー・ボール
©Andrej Uspenski

「リアムはとても音楽的な振付家でした」。スカーレット版初演シーズンにプリンシパルに

 ロイヤル・バレエが、今回、公開されるこのバージョンを初演したのは、ナグディがプリンシパルに昇進した2017/2018年シーズンの最中のことだった。改訂振付を手がけたのは、振付家として前途を嘱望されるも、3年後の2021年に35歳の若さで他界したリアム・スカーレット。
「リアムはとても音楽的な振付家でした。伝統的な振付を尊重しつつ、音楽を精密にステップに反映させています。第3幕のオディールのソロは標準的な振付よりずっと難しく、第2幕の湖畔の情景にもオリジナリティがあります。上半身の細やかな動きに細心の注意をはらっていたことが印象的でした。リアムならではの美しい改訂振付なのです」

©2022 ROH. Photographed by Tristram Kenton

「マシューという素晴らしいパートナーに出会えたのは、幸運でした」。 至高のパートナーシップも見逃せない!

 シネマ映像でのナグディはオデットを繊細に、オディールを妖艶に踊りあげた。相手役のジークフリート王子を演じた、ナグディとの名コンビで知られるマシュー・ボールと共に作り上げた舞台でもある。
「マシューという素晴らしいパートナーに出会えたのは、幸運でした。初めて組んだ時からピンとくるものがあり、互いに経験を積み、成長するのを感じ合いながら、パートナーシップを育ててきました。彼は優れた演技者でもあるんですよ。マシューの目を見れば、演じているキャラクターになりきっていることが伝わり、私の演技を引き出してくれます」

ヤスミン・ナグディ、マシュー・ボール
©Andrej Uspenski

 バレエ団の多彩なレパートリーのなかから特に好きな作品をたずねると、ナグディはドラマティックな作品を次々と挙げた。
「物語作品を踊ることによって、自分ではない誰かの人生を生き、アーティストである自分の魂に糧をもたらすことができます。今年初めにはケネス・マクミラン振付『マノン』を踊り、来シーズンはジョン・クランコ振付『オネーギン』、マクミランの『ロミオとジュリエット』など、踊るのが楽しみでならない作品が目白押しです」

©2022 ROH. Photographed by Tristram Kenton

「日本は私の第二の故郷になりました」。今夏、来日するヤスミンを一足早く映画館でチェック!

 ロイヤル・バレエは6月末から夏季休暇に入る。しかし日本の観客は9月の新シーズン開幕に先がけ、ナグディの舞台を見ることができる。7月末に東京で開幕する3年に一度の一大祭典〈世界バレエフェスティバル〉に初出演するのだ。
「このフェスティバルにいつか参加したいという願いがついに叶い、ワクワクしています。コロナ禍によるロックダウンが一段落した後、日本でのガラ公演などに出演する機会が増え、日本は私の第二の故郷になりました。日本の観客の方達はバレエに対する情熱があり、いつもあたたかく迎えてくれます。日本と東京への愛をこめて踊ります」

[上演情報]

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24
英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』
6/14(金)~6/20(木) TOHOシネマズ 日本橋ほかで1週間限定公開 
《白鳥の湖》
振付:マリウス・プティパ / レフ・イワノフ 
追加振付:リアム・スカーレット / フレデリック・アシュトン
演出:リアム・スカーレット
美術・衣装:ジョン・マクファーレン
作曲:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
指揮:マーティン・ゲオルギエフ
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団

【主要キャスト】
オデット/オディール:ヤスミン・ナグディ
ジークフリート王子:マシュー・ボール
女王:クリスティーナ・アレスティス
ロットバルト:トーマス・ホワイトヘッド
ベンノ:ジョンヒュク・ジュン
ジークフリートの妹たち:レティシア・ディアス、アネット・ブヴォリ

■公式サイト:https://tohotowa.co.jp/roh/  

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