井澤駿とプリンシパルに昇格した柴山紗帆

新国立劇場『ドン・キホーテ』 2023/2024バレエシーズン、熱狂と歓声に包まれ開幕!

カルチャー|2023.10.31
文=渡辺真弓(オン・ステージ新聞編集長、舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師) 撮影=鹿摩隆司

20年以上愛されているファジェーチェフ版ならではの完成度

 新国立劇場は、10月1日開幕のオペラ公演に続いて、10月20日〜29日の『ドン・キホーテ』でバレエシーズンの幕を開けた。
 吉田都舞踊芸術監督が就任して4年目になる今シーズンは、「歴代の舞踊芸術監督たちへのオマージュ」として、古典の名作を再演していくことに重点が置かれ、その第一弾にレオン・ミンクス作曲の『ドン・キホーテ』が選ばれた。1999年、島田廣初代舞踊芸術監督の時代にレパートリーに入ったもので、改訂を手がけたアレクセイ・ファジェーチェフ自ら仕上げに当たっている。その効果は抜群で、演技面から舞踊シーンに至るまで入念な指導の成果が発揮され、主役から群舞に至るまでダイナミックで躍動感溢れる舞台が、連日盛況の客席を賑わせた。

ドン・キホーテ(中島駿野)とサンチョ・パンサ(宇賀大将)。初日は米沢唯とプリンシパルに昇格した速水渉悟が大活躍

 ファジェーチェフ版は、プロローグ:ドン・キホーテの旅立ちから第1幕のバルセロナの町へと移り、第2幕は、1場:居酒屋、2場:ジプシーたちの野営地、3場:ドン・キホーテの夢の順に進行、第3幕:公爵の館でのキトリとバジルの結婚式で締めくくるもの。指揮のマシュー・ロウはオランダ国立バレエの音楽監督で、スピーディーな場面転換に応じて、このバレエ独特の南国の香りや躍動感を引き出すことに成功した。演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。

バルセロナの街の賑わいが楽しい。サンチョ・パンサ(小野寺雄)、闘牛士エスパーダは木下嘉人が粋に

5組の日替わりキャスト。初日の米沢×速水組で弾ける舞台!

 主役のキトリとバジルは5組の日替わり。経験豊かなプリンシパル勢に加え、今シーズンからプリンシパルに昇格した速水渉悟と柴山紗帆のお披露目、木村優里の全幕復帰、ファースト・ソリストに昇格した中家正博らの活躍が話題を集めた。  
 初日は、本公演の看板ペア、米沢唯と速水渉悟。新国立劇場がこれほど熱狂に包まれたことがあっただろうか。若い速水をいなすような米沢と、弾け飛ぶ勢いの米沢をがっしり受け止める速水。歯切れ良いテンポで、ウルトラC級の超絶技巧の数々を惜しげもなく連発していく様は痛快そのもの。そしていよいよ第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ。コーダで、米沢が、グラン・フェッテで扇子片手にトリプル回転の離れ技を入れれば、速水は、超高速回転で追い上げ、客席は最後まで興奮状態に包まれた。

絶好調の米沢唯と速水渉悟は超絶技巧を披露

ソリストも惜しみない人材投入で目が離せない!

 傍役もベストメンバーが配され、見応えが十分。ドン・キホーテの趙載範とサンチョ・パンサの福田圭吾、ガマーシュの奥村康祐は、真に迫る役作りで芸達者。キトリの友人、ジュアニッタの廣川みくりとピッキリアの飯野萌子は溌剌と、エスパーダの木下嘉人と街の踊り子の奥田花純は美技を競い、メルセデスの渡辺与布とカスタネットの踊りの朝枝尚子は、エスパーダをめぐって大人の恋の駆け引きを繰り広げる。

ガマーシュをプリンシパルの奥村康祐が務める贅沢さ。街の踊り子(奥田花純)、エスパーダ(木下嘉人)、メルセデス(渡辺与布)、カスタネットの踊りは朝枝尚子

 森の女王の吉田朱里とキューピッドの五月女遥は、パステルカラーの森の場面に華やいだ彩りを添えた。第3幕では、ボレロの益田裕子と渡邊拓朗、ヴァリエーションを踊った池田理沙子と直塚美穂が目を引いた。終演後は客席総立ちで熱演を称えた。

森の女王(吉田朱里)、キューピッド(五月女遥)、ボレロは益田裕子と渡邊拓朗

 公演2日目(21日昼)は、柴山紗帆と井澤駿の主演で、バレエスタジオDUOの同門ということもあり、息の合ったパートナーシップが展開され、爽快な気分に。初日組への対抗意識が働いたのか、柴山は、グラン・フェッテで、1回転の後にダブル回転を2度も入れるなど、終盤を盛り上げ、新プリンシパルのお披露目を立派に果たした。
 当日は、キトリの友人の赤井綾乃と五月女遥、森の女王の中島春菜、ヴァリエーションの山本涼杏と金城帆香などがロール・デビューを飾った。

キトリの友人(五月女遥と赤井綾乃)、夢の場面

丁々発止の呼吸も見事な小野×中家組

 3日目(22日夜)は小野絢子と中家正博が登場。共に音楽性抜群で、高度なテクニックをこなしても、音楽に自然に溶け込んでいるので、踊り全体が流れるように美しい。最大の魅力は、二人のやりとりが丁々発止の呼吸で、常に会話が聞こえてきそうだったこと。改めてこのバレエで芝居が果たす役割の重要さに気づかされた。第1幕では、エスパーダの中島瑞生と街の踊り子の直塚美穂の存在感が強烈で、広場のシーンがより生彩に富んだものとなったことを付け加えておきたい。
 それにしても、主役陣の技術力の高さは、感嘆に値する。3キャスト鑑賞した時点で、例えば、3人のキトリがグラン・フェッテにダブルまたはトリプルを入れられるのは驚異的。なかでも小野のダブルを交えたフェッテは、非常にまろやかで、優美な軌跡を描いていた点でも別格だった。
 次回公演は、年末年始の『くるみ割り人形』。ここでもバレエ団の総力が発揮されることだろう。

小野絢子と中家正博。森の場面ではドゥルシネア姫を可憐に演じる小野

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