#0 プロローグ│〈特濃日帰り〉ひとり土木探訪記。

カルチャー|2022.11.30
写真・文=牧村あきこ

 ひとり旅は自由だ。風の吹くまま、気の向くまま。いつ、どこに行くのか、何をするのか、全部自分で決めることができる。

 気の置けない人たちと旅する楽しみも知っている。ただ高齢の家族を抱える身としては、長時間家を留守にしたくない。でも、近場だけでなくいろいろな場所に行ってみたい。運転免許がないので、基本公共交通機関で行く旅程になる。そうなると 、日程や旅の工程に工夫が必要で、時には「そんな移動あり?」みたいなスケジュールになる。とはいえ、自分都合で他者を連れまわすのは、親しい仲でも気が引ける。ひとり旅が定番になってしまったのは、おそらく、気兼ねなくマイプランを実現するためだったのだと思う。

一面の菜の花畑を走る小湊鉄道の列車

 旅に出る時には、事前に綿密な計画を練ることがとても大事だと思う。あーでもないこーでもないと悩みながら、計画をブラッシュアップしていく。面倒なこともあるけれど、実はこういう時間が旅の大きな楽しみの一つ。なんにしても、要所要所で分単位の計画を立てる。
 分単位なんて息苦しいって思われるかもしれないけれど、最初にきっちり計画して、時間配分が厳しそうなところは、「行かない」という選択肢も含めたプランB、Cを立てる。ここだけは外せない!ってポイントを決めておくのである。
 そうすれば日帰りでも、濃密な時間をすごすことができるし、驚くほど遠くまで行くこともできる。それだけやったら、あとは自由。旅に出たら、好きなように動けばいい。もう頭の中にたくさんの選択肢が練りこまれているはずだから。

奥多摩にある白丸ダム魚道に続くらせん階段

 私の旅する場所は、普通の観光地とは少し違う。いや、かなり違うかもしれない。なにしろ訪ね歩くのは「土木」だ。目的地にはお土産屋さんなどないし、下手をするとトイレだってない。土木探訪をするようになったきっかけは、歴史を感じさせる古い土木構造物を目の前にして素晴らしいなとココロに響いた……そんな、ささいなことだったと思う。
 明治から大正、昭和初期にかけては、近代日本のインフラを支える、鉄道、道路、橋、灯台などなど、多くの土木構造物が作られていて、とにかく土木的には大変勢いのある時代だった。過去にさかのぼってそういう土木を追っていくと、宝探しをするようなわくわく感があり、見事に土木という沼にはまってしまったのである。

明治期に建設された横浜東水堤灯台。引退後は山下公園に移設

 そんな私の旅の様子を、日本全国の土木を訪ね歩く「〈特濃日帰り〉ひとり土木探訪記。」として連載をweb太陽にて始めることになりました。
 旅の中で紹介する土木の魅力を写真とともに楽しんでいただき、また現地を訪れる際の参考にしていただけたら、と思います。

JR磐越西線の一ノ戸川橋梁。明治41年に架設され今も現役だ

牧村あきこ

高度経済成長期のさなか、東京都大田区に生まれる。フォトライター。千葉大学薬学部卒。ソフト開発を経てIT系ライターとして活動し、日経BP社IT系雑誌の連載ほか書籍執筆多数。2008年より新たなステージへ舵を切り、現在は古いインフラ系の土木撮影を中心に情報発信をしている。ビジネス系webメディアのJBpressに不定期で寄稿するほか、webサイト「Discover Doboku日本の土木再発見」に土木ウォッチャーとして第2・4土曜日に記事を配信。ひとり旅にフォーカスしたサイト「探検ウォークしてみない?」を運営中。https://soloppo.com/

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