Noism0『Silentium』撮影:篠山紀信

この夏のコンテンポラリー・ダンスを振り返る Noism/伝統と創造シリーズ

カルチャー|2023.9.25
文=小野寺悦子(編集・ライター)

2023年夏、数多のステージが夜ごと上演を繰り広げ、
東京のダンス・シーンを賑わせた。
なかでもとりわけ印象に残った
コンテンポラリー・ダンス二作品を振り返ってみたい。

圧倒的なデュオに計り知れない時を思う Noism0/Noism1「領域」

Noism0『Silentium』井関佐和子、金森穣 撮影:篠山紀信

  Noism0/Noism1「領域」は、りゅーとぴあ専属舞踊団 Noism Company Niigata芸術総監督の金森穣演出振付作『Silentium』と、La Danse Compagnie Kaleidoscope率いる二見一幸演出振付作『Floating Field』のダブルビル。金森は自作『Silentium』に舞踊家として出演し、井関佐和子とデュオを踊っている。
  ドラマティックな楽曲と相反し、舞台から伝わるのは圧倒的な静寂だ。対になり踊る二人の磁力は強く、どれだけ距離を置こうとも、分身のように引き戻される。公私共にパートナーの二人だが、実は両者が舞台でデュオを踊り続けるのは本作が初めてのこと。天から降り注ぐ米粒は砂時計のように床に降り積もり、二人が歩んできた時間の重みを思わせる。
 金森は2004年に29歳の若さでNoismの芸術監督に就き、井関もまた昨年からNoism Company Niigata 国際活動部門芸術監督となり彼を支えてきた。本作は今の二人が到達した領域なのだろう。日本初の公共劇場専属舞踊団として誕生し、来年20thシーズンを迎えるNoism。この大きな節目を経て彼らはこの先何を目指すのか、その行方に注目したい。

Noism0『Silentium』 撮影:篠山紀信
Noism0『Silentium』 撮影:篠山紀信
二見一幸演出振付作Noism1『Floating Field』 撮影:篠山紀信

能楽堂を舞台にコンテンポラリー・ダンスで幽玄の世界を魅せる
セルリアンタワー能楽堂 伝統と創造シリーズ vol.13 創作舞『雨ニモマケズ』

森山開次、津村禮次郎、大前光市 撮影:瀬戸秀美

 能楽堂という様式美息づく伝統の空間を舞台にコンテンポラリー・ダンス作品を上演し、好評を博している「セルリアンタワー能楽堂 伝統と創造シリーズ」。第一弾は2008年で、森優貴、小野寺修二、遠藤康行、黒田育代、アレッシオ・シルヴェストリン、島地保武ら、コンテンポラリー・ダンスシーンで活躍する気鋭の振付家たちが作品を発表してきた。
 第13弾となる今回は、森山開次演出振付の創作舞『雨ニモマケズ』を披露。本作の初演は2019年の小金井薪能で、大阪大槻能楽堂での再演等を経て、このたびセルリアンタワー能楽堂で再々演を迎えた。
  キャストは森山のほか、能楽師の津村禮次郎、ダンサーの大前光市に、テノールの福井敬、箏奏者の澤村祐司とジャンルを超えたアーティストが集結。ダンスに箏、和太鼓と、森山は和と洋の領域を縦横無尽に行き交い、宮沢賢治の世界を色鮮やかに描き出す。本シリーズの要となるのが能楽師の津村禮次郎だ。津村が謡う『雨ニモマケズ』は重厚な奥行きをもって朗々と響き、しみじみと胸に染み入る。能楽堂に蠢く男たちの気配は怪しくも濃く、その幽玄の世界に本シリーズの醍醐味を感じた。

森山開次 撮影:瀬戸秀美
津村禮次郎 撮影:瀬戸秀美
撮影:瀬戸秀美

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