新国立劇場『リゴレット』、10年ぶりの新演出。息を呑む音光景を展開!

カルチャー|2023.6.2
文=岸 純信 (オペラ研究家・大阪大学外国語学部非常勤講師)| 撮影=堀田力丸 提供:新国立劇場

 「歌手をやる気にさせる」プロダクション。ドラマは殺伐とするも、演出家エミリオ・サージが小さな役ひとつにも目を惹くポージングや衣裳を用意。ヘアメイクも抜群の効果を発揮するので、どのキャラクターにも「美しさ」が備わった。
 例えば第3幕の〈嵐の三重唱〉。ならず者兄妹が睨みあい縺れ合う。これは楽譜には無いサージ独自の設定で、彼らは近親のタブーを冒している。しかし、ヴェルディの音の流れに即した形でバスの妻屋秀和(スパラフチーレ)の動きは引き締まり、メゾソプラノの清水華澄(マッダレーナ)は妖艶なドレス捌きを示すので情景のおぞましさが倍増。その一方で、二人が一瞬の立ち姿にも瞬時の美を呈し、キャラクターの心情を滲ませるので、目が吸い寄せられたのである。

“人物の殆どが歪んでいる”ヴェルディの代表作

 ヴェルディの『リゴレット』(1851、ヴェネツィア)は「人物の殆どが歪んでいる」オペラ。妃が居ても放蕩を繰り返すマントヴァ公爵、道化の宿命で人を皮肉り恨みを買うリゴレット、その娘ながら父親の束縛から逃れるべく突飛な行動に出るジルダが中心になり、廷臣たちも宮仕えの苦しさで日和見主義に。まっとうに生きるのは、娘を公爵の慰み者にされて怒る老モンテローネ伯爵(バリトンの須藤慎吾が快演)ぐらいだろう。このような状況では誰しも心が乾き、荒む。開幕冒頭の舞台が照明の巧さで砂漠に見えたのも、むべなるかなと思われた。

指揮者ベニーニ、大ヴェテラン・フロンターリ……“歌う芝居”の醍醐味

 演奏面では、まずはマウリツィオ・ベニーニの俊敏な指揮を賞賛。第1幕終盤の男声合唱を猛スピードで始めたのも、彼が新国立劇場合唱団の力量を見抜いてのことだろう。東京フィルハーモニー交響楽団の集中力も高く、『リゴレット』を何十回と観た評者も、息を呑むほどに迅速な音光景が展開した。ベニーニはまた、歌手の調子に気を配り、ジルダ役のソプラノ、ハスミック・トロシャン(第2幕の〈復讐の二重唱〉が精彩に富む)が超高音域を上手く操れるようテンポを細かく配分。リゴレット役のバリトン、ロベルト・フロンターリも、大ヴェテランながら、一貫して好調で、ジルダとのデュエットを締め括る高いA♭音の充実ぶりに、衰えぬ喉の力が象徴された。

期待の新星、リヴァスの美声と風格

 そして最後に、期待の新星、公爵役のテノール、イヴァン・アヨン・リヴァスについて。数日前に彼の音源(メルカダンテの歌劇《追放された男》全曲録音)を批評したばかりで、粘性のある濃密な声音を頼もしく思ったが、この実演でも彼の美声は色合いが濃く、愛の二重唱の最後に放つハイD♭の輝きも著しい。また、演技もことに雄弁で、第2幕のアリアの最後でマントをたなびかせて退場する際の風格など忘れ難いものに。先述のCDのブックレットに載る彼のポートレートは「のび太君」みたいに素朴な風情だが、板の上では全くの別人と化す。それがオペラ。それでこそオペラなのである。
(5月25日 新国立劇場オペラパレス)

[新国立劇場オペラパレス 今後の公演]

●『リゴレット』新制作 6月3日まで上演中!
●『サロメ』 6月4日まで上演中!
●開場25周年記念公演 『ラ・ボエーム』 ジャコモ・プッチーニ
2023年6月28日~7月8日
オペラ部門25周年記念公演の第3弾は『ラ・ボエーム』。海外から伸び盛りのソプラノ歌手や国内実力派歌手が集結、指揮にはこのオペラを愛する大野和士芸術監督。また、新国立劇場オペラ初の有料ライブ配信も決定! 7月2日公演をライブ/オンデマンド配信(有料)。劇場に行けない方やお試しでオペラを観てみたい方はこの機会にぜひ!

配信日程:
①ライブ配信日:2023年7月2日14:00 ※終演後7月4日23:59まで見逃し配信あり
②オンデマンド配信期間:2023年7月16日10:00~8月12日22:00
配信チケットご購入サイト・料金 :
チケットぴあPIA LIVE STREAM https://w.pia.jp/t/laboheme-pls/
① ライブ配信チケット:3,300円(税込)(日本語字幕)
② オンデマンド配信チケット:1,980円(税込)(日本語/英語字幕付)

新国立劇場HP  https://www.nntt.jac.go.jp/
新国立劇場ボックスオフィス ☎03-5352-9999

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