第2幕より。青山季可(オデット)、清瀧千晴(王子)

古典の魅力を今に伝える
牧阿佐美バレヱ団『白鳥の湖』

カルチャー|2023.5.22
文=小野寺悦子(編集・ライター) 舞台写真 撮影=山廣康夫

 牧阿佐美バレヱ団が、この春5年ぶりに『白鳥の湖』を全幕上演。今年は『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』とチャイコフスキー三大バレエがラインナップに並び、その第一弾としての開幕となった。
 同団の『白鳥の湖』はテリー・ウェストモーランド版で、1980年に初演。三谷恭三芸術監督が演出・改訂振付を手がけ、プティパ/イワーノフの原振付を大切に、古典の魅力を今に伝えている。

第4幕より。白鳥たちのコール・ド・バレエ

卓越した演技で物語を生きる青山のオデット&オディール

 今回主演を務めたのは青山季可&清瀧千晴、阿部裕恵&水井駿介の2組。初日にオデット・オディールを踊った青山は同団の看板ダンサーで、この春、第53回舞踊批評家協会賞と第1回牧阿佐美賞を受賞している。
 青山の主演デビューはやはり『白鳥の湖』で、2006年のバレエ団50周年記念公演でオデット・オディールを踊り、以降全幕作品から創作作品まで数々のレパートリーで主演を務めてきた。入団20年あまりのキャリアを持つ大ベテランだが、楚々とした佇まいと透明感、可憐な魅力は驚くほど。第2幕のアダジオでは繊細かつしなやかなラインで白鳥の化身となり、第3幕では堂々たるフェッテをみせつけ舞台をさらう。思わず手を差し伸べたくなる儚げなオデットに、目線ひとつで王子の心を掴む魅惑のオディールと、両者の演じ分けもあくまで自然で物語に説得力を与えていく。

第3幕より。青山(オディール)、清瀧(王子)

 パートナーの清瀧は、柔らかな物腰をもってナイーブな王子を表現。豊かな音楽性と気品を湛え、舞台に豊かな彩りを与えていた。ロットバルトを踊った菊地研も際立つ。現在はアシスタントバレエ・マスターを務め、バレエ団を支える立場でもあるが、やはり舞台での存在感には目を奪われずにいられない。さらにこの日はパ・ド・カトルに阿部裕恵、水井駿介、上中穂香、大川航矢と豪華キャストが集結。いずれも全幕主演を務める実力派で、安定感と華やぎある演技を披露し、ひときわ大きな拍手が送られた。

第3幕より。青山(オディール)、清瀧(王子)、菊地研(ロットバルト)
第3幕より。阿部裕恵、大川航矢、上中穂香、水井駿介(パ・ド・カトル)

コール・ド・バレエに息づく伝統と美

 瞠目はコール・ド・バレエの美しさ。『白鳥の湖』といえば群舞が真髄であり作品の出来を左右するが、一糸乱れぬ一体感は実に見事で完成度が高い。かつて故・牧阿佐美に取材した際、「音楽をしっかり聴くことで息を合わせている」と聞いたことがある。牧の生前最後の現場も『白鳥の湖』で、コール・ド・バレエのリハーサルを指導していたという。牧が旅立ち2年。白鳥たちの研ぎ澄まされた世界に、今なお強く息づく師の志を感じた。(4月29日 文京シビックホール)

第4幕より。白鳥たちの群舞で魅了

[牧阿佐美バレヱ団 今後の公演]

●三銃士(全幕)
2023年7月1日・2日
会場:新国立劇場 中劇場

●眠れる森の美女(全幕)
2023年12月2日・3日
会場:東京文化会館 大ホール

●くるみ割り人形(全幕)
2023年12月16日・17日
会場:文京シビックホール 大ホール

●ダンス・ヴァンドゥⅡ
2024年2月3日・4日
会場:文京シビックホール 大ホール

牧阿佐美バレエ団HP https://www.ambt.jp/
牧阿佐美バレエ団 ☎03-3360-8251

おすすめの本

●『愛蔵版 SWAN ―白鳥―』第1~第12巻
有吉京子著(平凡社)
各巻定価=1320円(10%税込)

累計2000万部を超えるバレエ漫画の金字塔、有吉京子の『SWAN―白鳥—』の愛蔵版。北海道出身の主人公・聖真澄はプリマを目指し、東京、モスクワ、ロンドン、ニューヨーク……、様々な人々との出逢いと別れを糧に成長していく。本作の第4巻~第5巻にキエフ・バレエの代表作『森の詩』が、日本初の国立バレエ学校公演の演目として取り上げられる。主役キャストをめぐって競い合い、成長する真澄たちが熱く描かれる。

おすすめの本

●『まいあ Maia-SWAN actⅡ-』
有吉京子 著(平凡社)
最新刊 第7巻 絶賛発売中
定価=770円(10%税込)
詳細はこちら

●『まいあ Maia-SWAN actⅡ-』
全7巻セット[特製ポストカード4枚入り]
定価=4906円(10%税込)
詳細はこちら

バレエ漫画の金字塔、有吉京子の『SWAN―白鳥―』の主人公・真澄の愛娘まいあが活躍する次世代編ストーリー。舞台はパリ・オペラ座。世界最高峰のバレエ団のエトワールを目指すまいあは、パリ・オペラ座バレエ学校でライバルたちと切磋琢磨しながら、自分と向き合い夢に向かって成長していく――。






RELATED ARTICLE