『ジャポニスム — 世界を魅了した浮世絵』
千葉市美術館

アート|2022.2.17
坂本裕子(アートライター)

西洋美術から逆照射される浮世絵の魅力

19世紀末から20世紀初頭、江戸から明治へと遅ればせながらの近代化に乗り出した日本から輸出された美術工芸品は、その美意識と手わざが新鮮な衝撃を与え、欧米における収集熱とともに彼らの視覚表現にも大きな影響を与えた。
 こうした動向は「ジャポニスム」と呼ばれ、美術史上でも重要な出来事ととらえられるが、なかでも特にインパクトを与えたのが「浮世絵版画」だ。
 日本では庶民の消費物として当時ほとんど重視されていなかった浮世絵は、フランスを中心にヨーロッパ全域、そして北米やロシアの芸術にも波及し、いっとき熱狂的なブームを巻き起こす。最初の浮世絵の研究書が刊行されたのもフランスだった。

日本が世界に認められたひとつの成果としてジャポニスムの展覧会はいくつも開催されてきたが、いま千葉市美術館では、これまでにない「ジャポニスム」をテーマにした展覧会が開催されている。

西洋の表現におけるその影響を浮世絵に求めるのではなく、ジャポニスムといわれる画家やその表現が浮世絵から取り入れた「視点」をきっかけに、改めて浮世絵の持つ魅力と特徴を考えるというもの。
 日本人にはあたりまえと思われていたその表現のどこに、何に、新しさや感動を覚えたのか、そしてどのように自身の芸術に採り入れたのか、そこから「浮世絵」を見直す。
 西洋の芸術家たちの眼を通して浮世絵を逆照射する試みである。

描かれる情景や、色や構図といった絵画を構成する要素、そして表現の手法などの切り口から、8つの「視点」に、プロローグとエピローグを含む10章で構成される。
 良質な浮世絵コレクションで知られる同館の所蔵品はもちろん、有数の世界的なコレクションを誇るメトロポリタン美術館から名品が来日。
 ジャポニスムの作品はアメリカのジマーリ美術館やロシア・プーシキン美術館の所蔵品が集った。

鈴木春信から鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重ら浮世絵を代表する絵師をはじめ、ゴッホ、ホイッスラー、ロートレックといった浮世絵との関わりの深い画家まで総勢70名の作家の作品が並ぶ。
 特にロシアからは、これまであまりみる機会のなかった作家やその作品が紹介され、フランスに劣らぬロシアにおけるジャポニスムの受容が感じられる興味深いラインナップになっている。
 

プロローグ「ジャポニスムとは何か?」では、ヨーロッパで刊行された日本美術に関する雑誌や書籍、著名な浮世絵コレクターの記録とともに作品が紹介され、当時の熱狂を伝える。そこには、彼らのガイドとなり、その熱狂を支えた日本人・林忠正の存在も浮かび上がる。

プロローグ:ジャポニスムとは何か? 展示風景から
日本の美術を紹介する雑誌や書籍とともに、日本に先駆けてヨーロッパで浮世絵に関する研究書が刊行された。歌麿を筆頭に、写楽、北斎などについての著作は現在でも貴重な資料となっている。 左の壁に見えるポスターは、パリ国立美術学校で開催された「日本の巨匠たち」と名づけられた展覧会の告知。版画家でポスターデザイナーとして人気だったジュール・シェレによるもの。
ルイーズ・アベマ《日本庭園のサラ・ベルナール》1885年頃 ジマーリ美術館蔵
フランス・エタンプに生まれ、社交界の肖像画家として活動したという画家が、親しく交流した女優を日本庭園と衣装を舞台にした設定で描いたもの。扇面風にしているところにもジャポニスムが現れている。
アンリ・ソム《ジャポニスム》1881年 ジマーリ美術館蔵
1860年代からパリで雑誌の挿絵やイラストレーションの仕事に関わったアンリ・ソム(ペン・ネーム)の版画作品は、扇と提灯を持つ丁髷の日本人の姿(人形?)が手前に、背景にも笠をつけた人物が描かれて、女性の夢見るような表情とともに幻想的な世界が描かれる。女性の衣装からも、こうしたブルジョアジーが熱狂的に日本美術を享受していたことが察せられる。
プロローグ:ジャポニスムとは何か? 展示風景から
顔の大きい猪首の美人画は渓斎英泉による《雲龍打掛の花魁》の錦絵。『パリ・イリュストレ 日本』の表紙を飾り、この表紙からゴッホが油彩で模写したことで知られている。会場ではその雑誌とともにみることができる。

第1章、第2章は「水」の表現からアプローチする。
 北斎を代表する《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》の「大浪のインパクト」が与えた影響と、ヴェネツィアにも匹敵する「水の都・江戸」の風景の表現をみていく。
 風景の一部として描かれてきた「波」をここまで動きのある迫力で画面のメインに持ってきた画家は北斎の前にはいなかった。その衝撃は、西洋人のみならず、その後の日本の絵師たちにも大きな影響を与えたことがみえてくる。
 また、隅田川からの水路を活用した江戸は、多くの橋を持ち、物資の運搬だけではなく人も舟で移動した。それは単なる移動手段にとどまらず、江戸人たちの四季を楽しむ遊興にもつながっていく。
 浮世絵師たちはそんな江戸の姿を創意と工夫で描き出し、洒落や粋を好む江戸っ子たちを喜ばせたのだ。
 そうした趣向やユニークな視点が、ホイッスラーをはじめとする画家たちに都市の風景を描き出す新たな可能性を拓いていった。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2-4年(1831-33)頃 個人蔵
世界に「Great Wave」として知られる北斎の代表作は、当時新しく輸入されたベロ藍(プルシャン・ブルー)を使った藍摺で、ブームだった富士山信仰にあやかった彼の意欲作のひとつ。怒涛の音まで聞こえそうな勢いのある波の表現は、西洋の芸術家たちに大きな影響を与え、さまざまに引用、転用される。「ジャポニスム」を象徴する一作。
第1章:大浪のインパクト 展示風景から
北斎、広重から歌川国芳や月岡芳年ら幕末の浮世絵師たちの迫力ある波や滝の表現と、その影響を感じさせるヨーロッパの作家たちの作品が並ぶ。
左:イワン・ビリービン《アレクサンダー・プーシキン著『サルタン王物語』挿絵》1905年初版 国立国会図書館国際子ども図書館蔵(1/12-2/6展示) 右:展示風景から
ビリービンは、帝政ロシアの首都サンクトペテルブルクに生まれ、画家、グラフィックデザイナーとして活躍した人物。この絵本は、帝室文書印刷局(現ロシア造幣局)が刊行した「プーシキンのおとぎばなし」シリーズのひとつとのこと。明らかに《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》の影響が見られる波の表現の1ページは、「王妃と赤子は樽に入れられ海に投げ込まれた」シーン。美しい彩色は、12色刷り(!)という豪華な絵本。
鳥居清長《吾妻橋下の涼船》天明(1781-89)後期 メトロポリタン美術館蔵
八頭身のスラリとした美人画で人気を博した清長の大判3枚続の錦絵は、当時は破格の贅沢な造りだったとか。吾妻橋の橋脚の大胆な背景に、橋のたもとで納涼船に遊ぶ男女が描かれる。この橋は公的資金ではなく民間の力で架けられたもので、当時の江戸庶民の誇りでもあった。自慢の橋の下で楽しむ美男美女は、さぞかし江戸っ子を喜ばせたことだろう。3枚のそれぞれに描かれる美女の立ち姿は、薄物の着物の様子や文様、豪華な帯などで、印象的に船上の人々へとみる者を誘う。初鰹をさばく料理人、そして橋組の間を飛ぶ蝙蝠が、初夏の夕方という季節・時刻を知らせてくれる。
第2章:水の都・江戸―橋と船 展示風景から
左:ポール・エリュー《白い婦人》1890年代初期(プーシキン美術館蔵)
右:喜多川歌麿《両国橋納涼》 寛政7-8年(1795–96)頃(メトロポリタン美術館蔵)
印象派の明るい画面に橋の下から見上げるように描かれたパラソルを差す女性の姿は、モネの代表作《散歩、日傘をさす女》を彷彿とさせる。歌麿の両国橋の上と下を同時に描いた錦絵と並び、その類似点に注目。
歌麿の作品は、上下に3枚ずつを繋げた6枚の大画面に橋の一部を切りとったように納涼の情景が描かれる。構図、面の使い方ともに大胆な発想がにくい。美人画でありながら、両国橋で涼む人々のざわめきが聞こえてきそうな臨場感もすばらしい。実は、6枚がそれぞれ1枚になっても構図として破綻しないその配置もみごと。
第2章:水の都・江戸―橋と船 展示風景から

第3章では、もうひとりの風景画の名手、広重の代表作《名所江戸百景 深川洲崎十万坪》を手がかりに、日本美術における俯瞰の視点に注目する。題して「空飛ぶ浮世絵師」。
 平安時代の絵巻の表現にもみられるように、そもそも日本の美意識には見えるとおりに描くという写実の感覚が薄い。
 浮世絵師たちは、己が到達しえない高い位置からのまなざしを想像し、あたかも鳥の眼からみた江戸の、東海道の風景を描き出した。
 ルネサンス以降、透視図法による写実を旨としてきた西洋の画家たちにとって、それはとても新鮮なものであり、新しい表現として用いられていくことになる。

歌川広重《名所江戸百景 深川洲崎十万坪》安政4年(1857)個人蔵
「東海道五十三次」で知られる広重のもうひとつの代表作が江戸の町を大胆な視点から描き出した「名所江戸百景」だろう。なかでも空高く舞う鷲の視点から描かれたこの作品は、まさに「空飛ぶ浮世絵師」の章タイトルにふさわしい一作。気球も飛行機もないこの時代、ここまでの俯瞰図は当然絵師の想像力の賜物だ。人間の目に見える世界を見えるように描くことに腐心してきた西洋の画家たちにとって、このまなざしは大きな衝撃として迎えられたことだろう。
第3章:空飛ぶ浮世絵師―俯瞰の構図 展示風景から
左:アンリ・リヴィエール《オートゥイュ高架橋より―『エッフェル塔三十六景』のための習作》(ジマーリ美術館蔵)と渓斎英泉《江戸八景 隅田川の落雁》(ホノルル美術館蔵)
右:カミーユ・ピサロ《夜のモンマルトル通り》(参考パネル)と歌川広重《名所江戸百景 猿わか町 夜の景》(個人蔵)

第4章、第5章では、「形・色・主題の抽象化」と「黒という色彩」をテーマに、絵画の要素から考える。

写実ではない日本美術の特徴のひとつに「抽象化」が挙げられる。
 これも平安絵巻の人物描写の「引き目、かぎ鼻」に代表されるように、元来日本では平面的でシンプルな造形が多い。単純な線描、陰影などの立体感のない絵画表現は、西洋画の概念から見ると、限りなく抽象化されているといえる。
 また、人物や木々など、対象をきちんと画面内に収める西洋画に対して、日本では、主要なはずのものが影であったり、隠されていたり、画面の端で切れていたりと、必ずしも「主題」として明示されていない。
 墨線で囲まれた形の中に限られた色彩を効果的に配し、ときに敢えて主たる対象をその中心からずらして描く浮世絵版画は、その中でも特に抽象化された表現と彼らには映っただろう。

さらに油絵ではその強さゆえにあまり使われてこなかった「黒」という色を最大に活かしてきたのも、日本美術の魅力である。
 墨を基調とし、平面性をよしとしてきた日本では、黒は輪郭を作ると同時に効果的な差し色にもなる。
 浮世絵版画でもこうした黒を実にみごとに使った作品が多く生み出されてきた。
 これらがロートレックやビアズリーらによって「黒」の色彩としての使用へと結びついていく。

第4章:形・色・主題の抽象化 展示風景から
左:渓斎英泉《仮宅の遊女》と《当世すがたのうつし画(が) 茂門佳和(ももんがわ)》(ともに千葉市美術館蔵)
江戸人は、ときに錦絵の「錦」を敢えて否定して一色の濃淡で表したものを愛でる粋な感性を持っていた(「紅嫌い」ともいう)。こちらは英泉がベロ藍一色で摺ったもの。かつて制作した錦絵を流用して藍一色、または数か所に紅を差し色にしてアクセントをつけた。一説によれば、いちはやく藍摺を試みた英泉に触発されて北斎は「冨嶽三十六景」を思い立ったとも。摺師の腕の見せどころというべきか、実に美しい作品で、おススメの2作。
右:色彩の抽象化の展示風景から
第5章:黒という色彩―影と余韻 展示風景から
左:歌川国芳《七代目片岡仁左衛門の伊予の太郎》と春梅斎北英《二代目嵐璃寛の団七九郎兵衛》(ともに千葉市美術館蔵)
いずれも役者絵。闇の中にある役者の姿が墨のグラデーションの中で効果的に浮かび上がる。実際の舞台では役者の動きが見えるよう、明るいところでお約束ごとの「闇」を想像して観るものを、錦絵では墨を効果的に使用して夜の臨場感を出しているのが興味深い。
右:鳥居清長《当世遊里美人合 叉江涼(なかすのすずみ)》と鈴木春信《雪中相合傘》(ともにメトロポリタン美術館蔵)
どちらも着物の黒を効果的に使用した作品。清長は歌麿とともにこの黒色をうまく使う絵師といえる。キセルを持つ若い男の粋な黒の絣と芸者の前に畳まれた黒羽織が画面を引き締める。そして黒白の対比を美しく使用して情感あふれる男女の恋模様を描いた春信の代表作も嬉しい来日。思わず物語を紡ぎたくなる情景は、きめ出しで地面や傘の雪が立体的に摺り出され、女性の白い着物には空摺で文様が表されている。高度な摺りも確認して!
鈴木春信《夜の梅》明和3年(1766)頃 メトロポリタン美術館蔵
錦絵の創始者のひとりとされる春信の傑作といえるこちらは、世界に2点しか確認されていない。このたび貴重な来日で、必見の一作。漆黒の背景に手燭をかざす若い娘と白梅が、たおやかに美しく浮かび上がる。ここまでの黒を出すためには何度か墨版を重ねなければならないという。アイデアのすばらしさに、凝った摺りの技術が、上品で幻想的な夜景美人を生み出した。着物からのぞく白い襦袢の空摺りも見逃さないで!
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ディヴァン・ジャポネ》1893年 ジマーリ美術館蔵
こちらもロートレックの代表的なポスター。「日本の長椅子」を意味する店名にちなんだタイトルとともにジャポニスムを象徴する一枚として有名である。「カフェ・コンセール」の開店公演の広告には、大胆な構図で中央に人気踊り子のジャンヌ・アヴリルが、左奥にはやはり人気歌手で、黒い長手袋がトレード・マークだったイヴェット・ギルベールが描かれて、黒色がリズミカルに呼応している。

第6章では構図としての「木と花越しの景色」をみていく。
 平面的な日本の表現とはいいながら、そこには西洋とは異なる日本独特の遠近の表現が存在する。
 北斎や広重の浮世絵には、手前に大きく切り取った木や枝葉を置き、その間から向こう側の風景をのぞくような構図のものが多くある。
 これらは視点の面白さとともに、画面に目の前の木々とその先に拡がる風景との奥行きをもたらしている。
 版画という紙の大きさも限られた制約の中での工夫であり、その制約を逆手に取って上下に紙をつなげた極端に縦長の画面を効果的に使った作品もある。
 対象を大胆に断ち切って、あるいは極端にアップにして手前に配するなど、それまでの西洋の絵画観にはなかったものだ。
 これらはモネやドガなどの印象派の画家をはじめとした近代の画家たちが積極的に導入していくことになる。

第6章:木と花越しの景色 展示風景から
左:歌川豊国《豊広豊国両画十二候 五月》(千葉市美術館蔵)とアンリ・リヴィエール《ロギヴィの森の洗濯場―ブルターニュ風景の連作より》(ジマーリ美術館蔵)
右:歌川広重《二拾六 木曽街道六拾九次之内 望月》(ホノルル美術館蔵)とアンリ・リヴィエール《イル・デ・シーニュ(白鳥の島)》(ジマーリ美術館蔵)
第6章:木と花越しの景色 展示風景から

第7章、第8章では、日常の情景へのまなざしに注目する。
 四季豊かな日本では古来季節の移り変わりを描き出してきた。
 気候、草花、動物、そして年中行事や人びとの姿を描いた作品には季節を盛り込んでいないものはないと言ってもいい。
 特に庶民のメディアであった浮世絵では、四季折々の市井の人びとの姿がその生活の情景とともに活き活きと描かれる。
 「四季に寄り添う」「母と子の日常」で、そのまなざしを追う。

西洋画では四季をテーマにしても、そこには神話や象徴、寓意などが含まれるか、単にシリーズという扱いで、季節そのものを情趣として描き出したものは少ない。
 母子像といえば、キリストと聖母マリアや、基本は注文による特定の裕福な家庭のものが多く、無名でありながら人びとにとっては普遍的な母子像は描かれてこなかった。
 浮世絵に表された雨や雪の豊かな表現や、愛情あふれる母子像の主題は、フェリックス・ヴァロットン、モーリス・ドニらナビ派や、メアリー・カサットなどの印象派の画家によってそのまなざしの在り方とともに踏襲されていく。

第7章:四季に寄り添う―雨と雪 展示風景から
第7章:四季に寄り添う―雨と雪 展示風景から
左:フェリックス・エドゥアール・ヴァロットン《にわか雨―『強烈なパリ』より》(ジマーリ美術館蔵)と渓斎英泉《初夏の雨》(千葉市美術館蔵)
西洋では雨の表現は濡れた地面や霧のように煙る空気で表されてきた。降る雨を斜線や点々で描く日本の表現に出会った彼らは衝撃を受けたという。ナビ派の画家として知られるヴァロットンもまた、浮世絵の表現に大きな影響を受けたひとりだ。黒白を効果的に使用した版画で、急な雨に慌てふためく町の人々の姿を摺り出している。
右:歌川広重《富士川上流雪中》(千葉市美術館蔵)とアンナ・ペトロヴナ・オストロウモヴァ=レベデヴァ《夏の庭園》(プーシキン美術館蔵)
大判の紙を縦につなげ、縦長の画面を活かして深い山間の厳しく深々とした雪景色を描き出した広重の名品といわれる一作は、サンクトペテルブルクの雪景色(夏の庭園はピョートル大帝が建てた庭園の名とのこと)を、抑さえた色彩で時が止まったように表したアンナ・ペトロヴナの木版画と呼応する。
第8章:母と子の日常 展示風景から
左:喜多川歌麿《行水》(メトロポリタン美術館蔵)と歌川国貞《江戸自慢 洲崎廿六夜》(千葉市美術館蔵)
右:メアリー・カサット《子を抱くデニス》(個人蔵)とモーリス・ドニ《海の前の母性》(ジマーリ美術館蔵)
美人画で知られる歌麿には母子を描いた作品も多い。国貞は歌麿に倣いつつ、幕末の市井の女性に変奏したのだろう。歌麿の作品は、アメリカ人で印象派の画家として活躍したカサットが参照したことでも知られている。カサットは自身で浮世絵をコレクションしていた。
ナビ派のドニは、家族の肖像を多く描いた。彼もまた70点以上の浮世絵を所蔵していたそうで、平面的な色と形の表現にはその影響も感じられる。こちらの版画作品は母子を手前に低く切り取る形で配置し、その奥の窓からの遠景を大きく取っている構図にも浮世絵との関わりを読みとることができるだろう。

エピローグは、「江戸の面影」として、浮世絵が残したものが何だったのかを、浮世絵の技術とその表現世界を残すべく、大正期に活発化した木版画の作品で問いかける。

エピローグ:江戸の面影―ジャポニスム・リターンズ 展示風景から

それまで「美術」という言葉も「絵画」というジャンルもなかった時代に、庶民の感性の中で生まれ、愛された浮世絵は、明治の近代化の中で「捨てるべきもの」として冷遇された。
 しかし、その魅力は海外により見出され、日本の「美術」として皮肉にも逆輸入される形で国内の再評価が高まった「絵画表現」である。

いまや世界中で認められた「芸術」である浮世絵は、美術館で、額の中、あるいはガラスケースの向こうでみるものになっているが、世界を魅了したその力を感じるとともに、「庶民の文化」であった、そのたくましく身近な「エネルギー」にも改めて想いをはせてみてほしい。

展覧会概要

『ジャポニスム — 世界を魅了した浮世絵』 千葉市美術館


新型コロナウイルス感染症の状況により会期、開館時間等が
変更になる場合がありますので、必ず事前に展覧会ホームページでご確認ください。

会  期:2022年1月12日(水)~2022年3月6日(日)
開館時間:10:00‐18:00 金・土曜日は20:00まで
     (入場は閉館の30分前まで)
休 館 日:会期中無休
入 館 料:一般1,500円、大学生800円、小中学生、高校生無料
     障害者手帳持参者と介護者1名無料
     ※ナイトミュージアム割引 金・土曜日の18:00以降入場者は半額
     ※本展チケットで5階常設展示室「千葉市美術館コレクション選」も観覧可能
問 合 せ:043-221-2311

展覧会サイト https://www.ccma-net.jp

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