「谷川俊太郎 絵本★百貨展」
PLAY! MUSEUM

アート|2023.6.9
編集|別冊太陽編集部

好奇心を刺激する立体的な展示空間

ユニークで斬新な絵本を世に送り出してきた、詩人の谷川俊太郎。そのバラエティ豊かな絵本から約20冊を取り上げ、多彩なクリエイターたちによる映像やインスタレーション作品などが繰り広げられている展覧会が、現在公開中の「谷川俊太郎 絵本★百貨展」。
会場の展示も立体的で、絵本の世界観が音や映像で体感できる。絵本がアニメーションになったり、おならの音がするドームがあったり、壁に描かれたヒヨコの絵に誘導されたり、谷川本人がノリノリで朗読する声が響いたりと、「PLAY! MUSEUM」らしい遊び心が満載!

『おならうた』(原詩・谷川俊太郎、絵・飯野和好、絵本館 2006)の展示ブース。オレンジ色のドームの中に入ると、「ブ~、ピ~」と、おなら音が鳴る。グッズ売り場では谷川本人が朗読する声も流れている。 「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ)

キュレーター・林綾野さんのギャラリートーク

5月31日、本展のキュレーションをした林綾野さんのギャラリートークが開かれた。
「谷川さんの絵本のバラエティの豊富さは〝言葉と表現のデパート〟のようではないかと思いまして、こんな展覧会のタイトルとなりました。みなさんも想像力をたくましくして、ふだん考えていなかったことも意識しながら展示作品を見ていただけたらと思います」

会場の入口でキュレーターの林綾野さんが、展覧会の中にある〝仕掛け〟を説明。さあ、中に入って楽しもう!

はじめの1冊の絵本

1冊目は、1956年に谷川が自費出版した『絵本』と題した写真詩集。
「写真と詩を組み合わせることで生まれた実験的な絵本です。谷川さんは、1950年代よりカメラを持ち歩いて写真を撮っていたそうです。ここでは、谷川さんの詩と、いろいろな手をモチーフにした写真が掲載されています。この詩集をきっかけに、言葉と映像を組み合わせることへの興味が始まったそうで、その後の絵本づくりにつながっていきました。谷川さん自身『ぼくの絵本の原点って、これなんだよ』とおっしゃっていました(林さん)」

『絵本』(作・写真、谷川俊太郎) 的場書房 1956(2010 復刊 澪標)

「認識絵本」という新しいスタイル

1972年に福音館書店から発売された『こっぷ』。これも写真で構成した絵本で、子ども向けの絵本としては画期的だった。
「谷川さんは子どもの頃は図鑑や百科事典を見ることが好きで、昔話や物語の絵本になじめなかったそうです。当時、福音館書店で創刊された「かがくのとも」という雑誌を舞台に、谷川さんは新しい絵本のスタイルをつくっていきます。この絵本では、〈こっぷ〉をその用途だけでなく、素材についてなど、あらゆる角度から見ます。〈こっぷ〉を通じて新しい認識と出会う、そのことをきっかけに、子どもたちがものの見方自体を広げてくれればと考えたそうです。(林さん)」
この挑戦から、認識絵本の名作の数々が生まれていった。

『こっぷ』(文・谷川俊太郎、写真・今村昌昭) 福音館書店 1972

「死」を考える絵本について

誰もが避けて通れない「死」をテーマにした絵本も紹介されている。
『かないくん』は、谷川が文を書き、漫画家の松本大洋が2年の歳月をかけて描いた、同級生の突然の死を主題にした絵本。そしてもう一つの『ぼく』は、子どもの自死を語った絵本。
「谷川さんは絵本の中で、死が悲しいことだとは書いていません。この2冊も死をどう受け止めるか、読者である私たちが自分で考えるきっかけを与える絵本ではないでしょうか。谷川さんは死はけしてネガティブなことではないとおっしゃっています。『ぼく』でも、子どもの自死、その原因は単純ではなく、『わからないことでもある』ということが率直に描かれています(林さん)」

『ぼく』のテキストの「いきていて」の詩がアルミ材の壁面につづられ、その一隅が静謐さをたたえていた。

〈すきのあいうえお〉にトライしてみよう

本展のための新作「すきのあいうえお」という展示は、まさに現代アートのよう。
「あいうえお順、五十音を頭文字とする好きなものを谷川さんに挙げてもらいました。その言葉を映像で見てもらおうと、写真家の田附勝さんに日本各地を巡って撮影いただきました。(林さん)」
 会場のスクリーンに映像が流れ、「あ」は「あられ」、「い」では海で泳ぐイルカの画像というように、躍動するイメージが連続で展開しておもしろい。
「谷川さんの一番好きな言葉は『すき』。その「すき」をテーマに、展覧会のために新作を作ってもらおうということになってできたのがこの作品です。「すき」という言葉はただただ肯定的で前向きな言葉で、生きることに即しています。好きをテーマにしながらも、この作品は「ことば」をいかに「イメージ」にするかということを突き詰めた作品でもあります。1つの言葉から広がるイメージは、人によっても違うし、まさしく無限です。言葉とイメージの関係という、谷川さんが絵本の世界で向き合ってきたものをここで今一度、みなさんにも感じていただければと思います。ご自分で「すきのあいうえお」の書き出しもやってみてもらいたいですね。(林さん)」
 ここは、言葉が生み出すイマジネーションが詰まった百貨展。バラエティ豊かな絵本の世界をめぐって、自分が「すき」なものに出会ってみませんか。

中央の柱に「つな」の文字が。そして柱には巨大な綱がぐるりとかけられていて、びっくり。 「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ)

「谷川俊太郎 絵本★百貨展」 PLAY! MUSEUM
会場:PLAY! MUSEUM 東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟 2F・3F
会期:2023年4月12日(水)~7月9日(日) 会期中無休
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
入場料(税込):一般1,800円 大学生1,200円 高校生1,000円 中・小学生600円 未就学児無料
※割引制度あり(立川市在住・在学者。障害者など)
※当日券で入場できます。土日祝及び混雑が予想される日は事前決済の日付指定券(オンラインチケット)も販売しています。詳細は
https://play2020.jp/まで。

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