染色家・柚木沙弥郎は、日本における型染の第一人者であり、国際的な評価を得るアーティストだ。戦後まもなく「民藝」と出合い、染色家として歩み始めて70年以上。民藝という枠を超え、型染、版画、ガラス絵、人形、絵本と新しい分野への挑戦を続けてきた。
別冊太陽『柚木沙弥郎――つくること、生きること』では、初期作品から近作まで多数の作品を収録。「自由になったのは80歳になってから」と語る柚木の、伸びやかに広がる作品世界をひもとく。
型染は日本の伝統的な染法。過剰な技巧を排除し、絵画から離れて模様を描き、型を彫る手仕事だ。終戦後に復員した岡山の大原美術館で職を得た柚木は、館長の武内潔真から雑誌『工藝』を借り受け、柳宗悦の民藝思想を知る。芹沢銈介の型染カレンダーにとりわけ関心をもった柚木は、昭和22(1947)年、25歳で染色の道へ足を踏み入れた。着物やのれんといった用途の定まった作品のほか、巾広の一枚布など自由に加工、展示できる作品を多く生み出している。
染色家として円熟した柚木は、61歳にして版画に開眼。版の工房である「アトリエMMG」を主催した益田祐作との出会いから、400点を超える作品を制作した。昭和58(1983)年からアトリエMMGが終業する平成19(2007)年まで、リトグラフィやモノタイプ、カーボランダム、ゴーフラジュなど、あらゆる版画の技法に挑戦していった。
柚木が絵本へ挑戦したのも70歳を過ぎてからのこと。エスキモーと呼ばれる北米大陸の北方民族に伝わる口承詩に絵をつけた初めての絵本『魔法のことば』は、見返しから奥付まで生命の鼓動を打つ絵が並ぶ。これまでに手がけた絵本は15作品。どれもユニークで、見る者の心を温めてくれる。
80代に近づき、柚木の作品制作はさらなる広がりをみせる。透明なガラスに絵の具で描いたガラス絵や心に残った情景を描いた水彩画、額の形や造形と絵を組み合わせた板絵、古布や粘土、紙を使って立体的に表現した人形や立体造形。素材や道具、手法も自由に羽ばたく柚木のみずみずしい感性が溢れんばかりに迫ってくる。
時代の変化をおもしろがり、常に自分の可能性を探り続ける柚木沙弥郎。近年は企業から求められ、インテリアブランドやホテル、カフェのアートワークも手がけている。
尽きることのない好奇心と情熱で、2021年10月に99歳を迎えた現在も、旺盛に作品を制作する柚木沙弥郎。「幸せの手ごたえを感じ、仕事を楽しみながら、今を生きる」。
そう語る、柚木の作品はどこまでも自由闊達で幸せに満ちている。
PLAY! MUSEUM
企画展示「柚木沙弥郎 life・LIFE」
2021年11月20日(土)-2022年1月30日(日)
別冊太陽スペシャル
柚木沙弥郎 つくること、生きること。
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