「3つのF」のキーワードでめぐる斬新な展覧会
〈絵とことばのミュージアム〉PLAY! MUSEUMで、1月22日から4月6日まで、WEB太陽でもおなじみの堀内誠一さんの展覧会が開催されている。
堀内さんといえば雑誌のアートディレクター、デザイナー、絵本作家、エッセイストとして多彩な活躍をしたことで知られるが、本展は「3つのF」としてFASHION・FANTASY・FUTUREのセクションで、その創作活動の広がりを斬新な空間デザインで紹介している。
開催に際し、オープニングレセプションでは、本展のキュレーションをした林綾野さんが企画の趣旨を次のように語った。
「堀内誠一さんは、おもしろくて楽しいもの、みんながワクワクするものを作り出そうとしていました。(本展は)堀内さんがやったことを懐古的に見るのではなくて、今の私たちにどう響いていくか、この時代にどう続いているのかを見ていただき、これから生きていくうえで糧になるものになればと、参加したクリエイターみんなで力を合わせてつくりました」
続いて、3つのセクションの空間デザインを担当したクリエイターたちによる、それぞれの堀内さんへの想いが語られた。では、展覧会の雰囲気とともに紹介していこう。
PLAY! MUSEUM「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」会場写真(撮影:植本一子) ©Seiichi Horiuchi
「FASHION」——雑誌作りで新時代を切り拓き
日本初の大判ヴィジュアル女性誌『anan』は、万博が開かれた1970年に創刊された。堀内さんは創刊号から49号までアートディレクターを手がけ、雑誌のコンセプト作りや編集にもかかわり、かつてない新しい雑誌作りに挑んでいった。
展覧会では堀内さんが手がけた49冊を「身にまとう」「脱ぐ」「リズムをとる」「踊る」「住む」など8つのキーワードに解体して、ビビッドな誌面を展開している。さらに創刊1周年記念号(26号)の全ページを連続して展示。壁面いっぱいに70年代に吹いた新しい風を受けて躍動する女性モデルの姿や、当時珍しかった海外ロケでの外国の風景が大胆なレイアウトで展開され、時代の熱気が伝わってくる。
この展示デザインを担当した有山達也さんは次のように語る。
「堀内さんが手がけた49冊には、今の時代にない自由な空気、おおらかさがたくさん内包されています。堀内さんは誌面で実験的なことにどんどんトライしていました。今で言うところのファッション雑誌というより、〈人間礼賛〉が詰まった雑誌が『anan』だったんじゃないかと思います」
繰り広げられたビジュアルは、ファッションの装いを見せるのではなくて、まるで映画のワンシーンのよう。広い世界に飛び出していく女性たちを後押しするメッセージが宿っていて、今見ても刺激を受ける革新的な誌面。そのほか『ロッコール』など、堀内さんがアートディレクションを手がけた雑誌も紹介され、時代を拓いた光芒を放っている。
PLAY! MUSEUM「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」会場写真(撮影:植本一子) ©Seiichi Horiuchi
「FANTASY」——夢いっぱいの絵本を生み
堀内さんは70冊を超える絵本を出していて、長く愛されている名作も多い。その中でも堀内さんが大事にしていたファンタジーの世界を描いた9つの絵本作品を本展では大空間で展示している。
展覧会の中で100点ぐらいの原画を並べており、大きく伸ばしたページや壁で仕切られた迷路のような空間が楽しい。
展示デザインを担当した設計事務所imaの小林恭さんとマナさんが制作で感じたことを語ってくださった。
「制作して驚いたことは、堀内さんの絵は巨大にしても見劣りしなくて、この大きさでも自然に見えること。それだけ緻密で密度の高いものだと再発見しました。拡大するとマチエールもよくわかって、ぐるんぱの頭に産毛があるように見えたりします。ぜひ、ここで絵本を体感していただきたい」
この「FANTASY」のセクションは、本展の中でも広いスペースをとっており、カーテンで仕切られた進路は、絵本の名場面が描かれたアトラクションのような装置になっていて、中央は『ぐるんぱ』の大きな像がある広場となり、自由に絵本を手に取って読めるコーナーが設けられている。親子連れで楽しめるPLAY! MUSEUMならではの空間だ。
PLAY! MUSEUM「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」会場写真(撮影:植本一子) ©Seiichi Horiuchi
「FUTURE」——多彩な仕事は未来へ続く
あらゆる仕事を手がけ、幅広い作品を残した堀内さんの多彩な活躍を見渡せるセクションが「FUTURE」。ここには堀内さんと交流のあった方々100人が推薦する堀内作品とコメントが年代順にずらりと並んでいる。
「このセクションのコンセプトは〈生きるよろこび〉。この世界を生きていることはなんて幸せなのだろう、という気持ちを共有する場です。堀内さんの仕事が今を生きる私たちを勇気づけながら未来に向かわせてくれることを、堀内さんの作品を選んでくださった100人の方々のことばで紹介しています」と林綾野さん。
展示デザインを手がけた三宅瑠人さんと岡崎由佳さんは、「FUTURE」(未来)のイメージとして黄色をテーマカラーにした。そしてキューブの模型に谷川俊太郎さんや坂東玉三郎さんなど、各界の文化人が堀内さんに贈ったことばのセンテンスが記されている。
たくさん集まったコメントの中には、WEB太陽の連載「堀内誠一のポケット」で毎回写真を撮影されている小暮徹さんのことばも見える。27歳のときにパリで堀内さんの家に居候させてもらったときの思い出が語られている。
また、堀内花子さんは、フランスの名だたるブランドのファッション写真を手がけ、『ELLE』のアートディレクターを務めていたピーター・クナップ氏(Peter Knapp)が今回フランス語でコメントを寄せてくれたことに感謝を述べた。堀内誠一さんがクナップ氏に憧れ、影響を受けていたことが『anan』の雑誌作りにつながっているという。展示作品の中に堀内さんがクナップ氏の編集室を訪ねたときの絵入りの取材記録も飾られている。
これだけ多方面の世界で活躍する人々に、ジャンルを超えて喜びと影響を与えた堀内さんのような時代の申し子は、これからもなかなか出てこないかもしれない。ただ、その作品と生き方にふれて心が躍り、新しい道を目指す人はつながっていく。それこそが堀内さんが何より望んでいることなのだろう。
PLAY! MUSEUM「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」会場写真(撮影:植本一子) ©Seiichi Horiuchi
展覧会概要
「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」
東京・立川 PLAY! MUSEUM
会期:2025年1月22日(水)〜4月6日(日)
開館時間:10:00-17:00(土日祝は18:00まで/入館は閉館の30分前まで)
休館日:2月16日(日)
入場料:一般1,800円、大学生1,200円、高校生1,000円、小・中学生600円、未就学児は無料
*[立川割][障害者割引][PLAY! PARKとの相互割引]あり(併用不可)
問合せ: 042-518-9625
公式ホームページ:play2020.jp
公式アートブック
『世界はこんなに 堀内誠一』
文・絵=堀内誠一
構成・解説=林綾野
発行=ブルーシープ
定価:2,530円(本体2,300円+税)
B5変型判 上製 216ページ
関連書籍
『堀内誠一 絵の絵本』
監修=堀内事務所
編集=アートキッチン
発行=平凡社
定価:2,750円(本体2,500円+税)
B5変型判 並製 240ページ