アートで世界をつなげた絵本作家レオ・レオーニ
世界中で人気の名作絵本『あおくんときいろちゃん』で知られる絵本作家レオ・レオーニ(Leo Lionni 1910-1999)。
レオーニはオランダで生まれ、幼少期から親戚の著名な美術コレクターのコレクションを通してシャガールやモディリアーニやピカソなどの作品に触れて育ち、青年期にはイタリアで未来派の若き芸術家たちと活動をともにして、抽象画の制作、広告デザインを始めた。この頃、ブルーノ・ムナーリやソール・スタインバーグなどと親交があったようだ。
板橋区立美術館の館長である松岡希代子氏は、生前のレオ・レオーニと交流を持ち、本展のために未来派時代の作品を調査する中で、長らく所在不明だったレオの油彩画《上昇運動》を北イタリアのアルビソーラで発見した。それが「参考作品」(写真パネル)として本展で展示されている。詳細は同展のカタログを参照いただきたい。
アルビソーラにはムナーリが陶芸制作のために通っていたこともあり、この地でレオーニと出会っていた可能性も指摘されている。
*展示品は写真パネル
ニューヨークに渡り、アートディレクターとして活躍
ムッソリーニ政権による差別的な人権法が公布されたことをきっかけに、1939年に渡米したレオーニは、ビジネス雑誌『フォーチュン』やオリヴェッティ社などの仕事でアートディレクターとしてアメリカで成功をおさめた。
展示会場には、さまざまなクライアントとの仕事が展示されており、レオーニのグラフィックの才能と軽快な遊び心が見てとれる。
このニューヨーク時代に、画家のベン・シャーン、彫刻家のアレクサンダー・カルダーと親しく交流し、イタリアから来たブルーノ・ムナーリのニューヨークでの活動に協力するなど、レオーニが芸術家たちをつなぐような役割を果たしていたといえよう。
偶然に誕生した絵本『あおくんときいろちゃん』
そして1959年、レオーニは初の絵本となる『あおくんときいろちゃん』を刊行する。
ある日、レオーニが孫の2人と列車で自宅へ戻るところ、車内でじっとしていられない孫たちのために、持っていた雑誌の青いページと黄色いページを切り取り、ちぎった紙片で物語を始めると、孫たちは話に夢中になって聞き入った。このできごととアイディアに感激した編集者が絵本として出版したというのが誕生のエピソードである。
とっさのことながら、グラフィックデザイナーとしての視点とユーモアのセンスが絵本という新たな世界の扉を開いたのだった。それからアメリカでのキャリアに区切りをつけて、レオーニは1961年にイタリアに戻り、絵画や彫刻の制作をしながらほぼ1年に1冊のペースで絵本づくりをするようになった。
人生を物語る「黒いテーブル」シリーズ
レオ・レオーニの人生をたどる本展のポスターや図録を飾る絵は、晩年の「黒いテーブル」シリーズの一つ《植物学》(1991)。レオーニは9歳の誕生日プレゼントとして、母方の建築家のピーテル叔父さんから黒いテーブルを贈られた。母親が「なぜ黒なのか」と質問すると、叔父さんは「黒い色の上ではどんなものでも映えるからだ」と答えたという。この幼少期の思い出から、80代になったレオーニは同じ形の黒いテーブルに自身の人生を彩った思い出の品々を配置した作品を制作した。
レオ・レオーニ研究の拠点、板橋区立美術館
レオーニが生涯探求し続けた「アーティスト」としての使命や理想は、絵本のみでなく様々な創作活動の中に宿っている。その軌跡はヨーロッパとアメリカを行き来し、世界の国々に発信され、そして日本においても連帯する仲間たちが生まれた。
展覧会にあわせてレオーニの孫のアニー・レオーニさんが来日し、板橋区立美術館で開催の挨拶に立った。アニーさんは祖父の残した資料や作品を扱う役目を担い、共に資料の調査を継続してきた板橋区立美術館をレオ・レオーニの研究センターとして中心的な拠点とすると述べた。
それに対して、松岡希代子館長と本展企画者の森泉文美氏は、「レオの仕事が人類にとっていかに大切か知ることになりました。アートと社会と人間がよりよいものになるようにというメッセージを発信し続けた存在です」と語った。
板橋区立美術館でのレオ・レオーニ展は今回で3回目となるが、これまでの研究を総括した内容になっている。ぜひこの機会にレオーニの魅力を再発見し、20世紀のアートシーンの躍動感を存分に味わってもらいたい。レオ・レオーニの想像力と表現力に心が躍り、そして世界のあらゆる国々と仲間になれる「希望」がもたらされるといえよう。
(本欄に掲載した写真は内覧会で特別に許可を得て撮影したものです)
レオーニの遺族から板橋区立美術館に寄贈された作品。
展覧会概要
「レオ・レオーニと仲間たち」
Leo Lionni and his Circle of Friends
東京・板橋区立美術館
会期:2024年11月9日(土)〜2025年1月13日(月・祝)
開館時間:9:30-17:00(入館は16時30分まで)
休館日:毎週月曜日(ただし1月13日は開館)、12月29日〜1月3日
観覧料:一般650円、高校・大学生450円、小・中学生200円
*土曜日は小中高校生は無料、65歳以上・障がい者割引あり(要証明書)
問合せ:電話03-3979-3251
公式ホームページ:https://www.city.itabashi.tokyo.jp/artmuseum/