森山大道のルーツの地・島根で、写真人生を集結した最大級の展覧会を開催中
森山大道の写真人生60年を振り返るという、凝縮した内容の展覧会がいま、島根県立美術館で開催中だ。
森山は生まれて間もなく病弱だったため、父方の実家である島根県の仁摩町宅野(現・大田市)の祖父母の家に預けられた。その後、父親の転勤や戦争のために土地を転々とした後、小学校2年生から3年生のときも宅野で暮らしていた。この場所は記憶の旅の出発点でもあり、森山自身も「ぼくのすべてがここにあります」と述懐している。
展覧会初日の記者会見で森山は、
「(宅野は)ぼくが海に入る初体験をし、大きな自然にはじめて触れた記憶として、その後の何十年に全部関わっている、そういう場所なんです。ぼくの写真に関わることもすべて宅野にルーツがあるんです」と語った。
本展は、写真作品が493点、関連資料は169点、総計662点が一堂に集結したもので、企画した主任学芸員の蔦谷典子氏は「多くの方々が惜しげなく大切な作品を貸与くださったおかげで、この展覧会が成り立ちました。この機会を逃したらこれほどまとめてみることは出来ないと思われる展示となりました」と感情をこめて語った。
展示構成は大きく3つのパートに分かれ、「PART1 写真よさようなら 1964-1973」は、「写真とは何か」という問いを鮮烈につきつけ、「写真」という存在に躰ごとぶつかっていった時期の作品。この時代はプリントが雑誌に掲載されたら役割が終わりとされていたため、かろうじて残った貴重なものばかりだ。森山の芸術に大きな影響を与えた寺山修司、中平卓馬と出会ったのがこの時期である。
「PART2 光の化石 1974-1990」は、「写真は光と時間の化石である」という森山の言葉に象徴される、写真の原点に立ち戻っていく時代の作品群。フランスの科学者ニセフォール・ニエプスが撮影した最古の写真への衝撃から、自らの内面をみつめた切実な作品を生み出していく。そして写真家の安井仲治に対するリスペクトから、写真をシンプルに自由にとらえなおした成熟期でもあった。
「PART3 街 1991-2023」のテーマは、「解き放たれたように世界中の街を闊歩していく」というもので、海外での撮影を展開していった時期であり、森山は写真集で新作の作品を発表し、若者たちから広く支持されていく。新宿、ハワイ、ブエノスアイレスと、どこまでも路上をコンパクトカメラ一つで闊歩していく。その圧倒的で過剰なエネルギーは果てがない。
本展について、会場を訪れる人たちへのメッセージとして森山は次のように語った。
「世界中のあらゆる場所で展覧会をしてきましたが、とにかくその場所で見ていただきたい、感じていただきたい。それは別にぼくの写真が存在する理由とかそんなのはどうでもいいんです。とにかく写真を見てふっと感得してもらえるといい。それが写真展で一番うれしいことなんです。写真をご覧になった方が記憶をふっと甦らしてもらえるといいんです。写真というのはそういうものだとぼくは思っていますので」
美術館の一角で、胸の中にうずくまった記憶の片鱗が呼び覚まされ、かつての自身と遭遇する瞬間がおとずれるだろう。
本展では、企画展示室のほか、展示室5「DAIDO ALBUM」として誕生から現在までの足跡をたどる資料の展示があり、展示室4「写真史のなかのDAIDO」として近代写真の流れを代表する作品群とともに森山作品を位置づけた展示もされている。
「森山大道 光の記憶」 島根県立美術館
会期:2023年4月12日(水)~6月26日(月) 火曜休館(ただし5月2日は開館)
会場:島根県立美術館 企画展示室、コレクション展示室5
開館時間:10:00~日没後30分(展示室への入場は日没時間まで)
観覧料:一般1,300円、大学生1,000円、小中高生400円
身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保険福祉手帳、被爆者健康手帳をお持ちの方、及びその付き添いの方は無料。
展覧会ホームページ
https//www.e-tix.jp/shimane-art-museum-moriyama/