NHK連続テレビ小説で、牧野富太郎をモデルとしたドラマ「らんまん」がスタートした。
牧野富太郎といえば、小学校を自主退学したのち、植物への情熱だけを頼りに、独学を続け、後に「植物分類学の父」と呼ばれるまでになった人物として知られる。
その研究生活は、まさに波乱万丈。度重なる資金難にもめげず、日本全国に赴いては植物採集に明け暮れ、果ては台湾や満州にも渡り植物を採取。その植物への愛情は、94年の歳月を通じて、一貫して変わることはなかった。
3月に刊行された別冊太陽「牧野富太郎」特集では、その波乱に満ちた生涯を、多くの資料、写真、植物画などで紹介する、ビジュアル版「牧野富太郎」の決定版。
ドラマの副読本として、また、人生をかけて一大事を成し遂げた人物伝として、ぜひ多くの読者に読んでほしい一冊となっている。
右/彩色された牧野の植物画。牧野は精緻な植物画も多く残している。
その植物への鬼気迫る情熱が伝わってくるのが、牧野78歳の代表作『牧野日本植物図鑑』への赤字訂正。晩年まで訂正と追加を書き込み続けたと言われる牧野だが、植物学に間違いがあってはならず、なおかつ最新の学説を盛り込みたいという思いから、毎回大量の赤字が書き込まれ、修正を担当する印刷所は困り果てたという。
植物採集の際には、いつも正装で趣き、蝶ネクタイとハットを身に付けるなど、オシャレな側面も牧野の魅力。毎年の年賀状もユニークなキャラクターや文章が添えられ、お茶目な一面も、牧野が万人に愛され、物心ともに多くの援助者が現れた理由だろう。
NHKのドラマはまだ始まったばかり。今後、植物の新発見や、東大への就職と挫折、妻との出会い、資金難や植物図鑑の刊行など、ハラハラドキドキする生涯が展開されるはずだ。ドラマとともに、別冊太陽でも牧野博士の生涯を楽しんでもらいたい。
【目次】
◎巻頭エッセイ
幼き魂を抱いたもの 朝井まかて
◎牧野富太郎の庭
高知県立牧野植物園
練馬区立牧野記念庭園
◎総天然色マキノ植物画博覧会
◎わたしは草木の精である──植物博士の人生図鑑 解説=田中純子
少年期 天然の教場に学ぶ
青年期 大志を抱いて上京
壮年期 波乱万丈の研究生活
晩年期 わたしは草木の精である
◎博士の意思を継いで百余年 牧野植物同好会
◎東京都立大学 牧野標本館 わたしのハァバリウム
◎牧野が認めた江戸の植物画家 関根雲停
◎富太郎写真館
◎標本作りの苦労(牧野鶴代)
◎インタビュー
「草を褥に木の根を枕……」 牧野一浡
◎エッセイ
科学的精神に支えられ 大場秀章
粋人伝説「蝶タイ姿の生涯草木少年」 坂崎重盛
牧野をめぐる旅から 竹内一