注目の展覧会を、あの人ならどう鑑賞する? そんな視点でお送りするエッセイ企画「あの人と展覧会」。
第2回はしりあがり寿さんに、永青文庫で開催されている「仙厓ワールド ―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―」を鑑賞していただきました。
仙厓さんにインスピレーションを受けた、しりあがりさん描き下ろしのコラボイラストも登場!
しりあがり寿
1958年静岡市生まれ。1981年多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後キリンビール株式会社に入社し、パッケージデザイン、広告宣伝等を担当。1985年単行本『エレキな春』でマンガ家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグマンガ家として注目を浴びる。1994年に独立後は、幻想的あるいは文学的な作品など次々に発表、新聞の風刺4コママンガから長編ストーリーマンガ、アンダーグラウンドマンガなど様々なジャンルで独自な活動を続ける一方、近年では映像、アートなどマンガ以外の多方面に創作の幅を広げている。
「ヘタウマ」の元祖?
仙厓さんとの出会い
この春、縁あって京都東福寺光明院で作品を展示させていただいた。※1
光明院は重森三玲の枯山水で有名な臨済宗の名刹だ。展示の間ご住職とお話しする機会があり、その中で「しりあがりさんの絵は禅に通じるものがある」というような?ことを言われた。無茶苦茶うれしかった! 「マジすか? そしたら仙厓とか白隠とか?」「似てるようなところがある気がします」100倍無茶苦茶うれしかった!
※1
心頭滅却すれば火もまたCOOL‼展
思えば自分がデビューした1980年くらいは日本のマンガやイラストの世界で「ヘタウマ」が流行ってた。自分もその流れから生まれた一人で、その流行が周囲から一過性のゲテモノみたいに見られる中、でもなんかこれって何か大切なものがある気もするんだよなー、などと日々「ヘタウマ」にせいを出していた。
そんな時に知ったのが仙厓さんだった。シンプルでおおらかでユーモラスでデッサンの狂いなんて何も気にしてない。これぞ「ヘタウマ」?
永青文庫蔵
生意気かもしれないけど、大先輩じゃん!そんなキモチだった。その絵には少なくとも人を荘厳な気持ちにさせたり偉い人のお部屋を飾ったりするための技術はなかった。※2
またそこには「有名になろう」とか「上手いと思われよう」とか「高く売れたい」とか「自分を表現しよう」という「自分」はなかった。
ただ皆に頼まれるままに描いた仏の教えやユーモラスな日常の光景の中に「自分」も「技術」もそぎ落とした「美」があった。
※2(自分は一度きゃふんきゃふんの犬を模写したけど筆がうまく返せなくて足の先に墨が溜まってしまった。仙厓さんホントは上手だと思う)
永青文庫蔵
人々によって持ち寄られた紙の上で、筆は使い手の道具であることを超え自ら墨と戯れる、まるで書き手の仙厓さんなんか知らんよ、と自由に走りまわる。そんな一本の線からひょうきんな虎や布袋さんが現れるたびに喝さいを送った人々の笑い声が聞こえるようだ。
あー、いいな。そんな風に絵を描きたいな、しかしどうにも自分は雑念が多い。
修行して悟りでも開いたら仙厓さんみたいな絵が描けるかな、と思ってご住職に相談したら臨済宗の修行は朝3時起きでそれが3年続くと聞き速攻であきらめた。
他に手はあるだろうか? 仙厓さんの源は禅であり仏教だけど、お酒を飲んで詩を詠んだという李白や、仙厓さんも憧れていたといわれる竹林の七賢人なんてのも近いのかもしれない。
よし、お酒を飲んで絵を描こう!修行より簡単だろう!と、実際酔っぱらって絵を描いたこともある。その時は起きてみたらちょっといい絵が描けてて、それを覚えてなくてうれしかった。
しかし毎回忘れるほどお酒飲んでたら体がもたない。
う~む、仙厓さんへの道は遠い……。
永青文庫蔵
この6月そんな憧れの仙厓さんを久しぶりに永青文庫で見た。
名作『野雪隠図』に会うのは10年ぶりくらいだろうか?
こちらに尻を向けて用を足す人物の傍らに「人ハこんそふな」と書き添えてある。
「ちゃんと見てますよ」と、そっとトイレットぺーパーを描き添えたくなった。
(了)
コラボレーション!
『仙厓さんが白雪姫に扮して竹林の七小人の元を訪れるノ図』
(右)仙厓さん×しりあがり寿 『仙厓さんが白雪姫に扮して竹林の七小人の元を訪れるノ図』※永青文庫での展示はございません。
仙厓義梵 『竹林七賢図』(左)にインスピレーションを受けたしりあがり寿さんが、『竹林七賢図』の写真にご自身のキャラクターを描き込んだ特別なイラストをWEB太陽に寄せてくださいました。
題して『仙厓さんが白雪姫に扮して竹林の七小人の元を訪れるノ図』(右)。
『竹林七賢図』に白雪姫(実は仙厓さん)が登場する、仙厓さんとしりあがりさんの時を超えたコラボレーション。なんとも愉快なハイホーの歌声が聞こえてくるようです。
※永青文庫での展示はございません。
「仙厓ワールド ―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―」は7月18日(月・祝)まで。お見逃しなく!
展覧会概要
「仙厓ワールド ―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―」
永青文庫
会 期:2022年5月21日(土)~7月18日(月・祝)
開館時間:10:00~16:30 (入館は16:00まで)
休 館 日:月曜日(ただし7/18 は開館)
入 館 料:一般 1,000円、シニア(70歳以上)800円
大学・高校生500円
※中学生以下、障害者手帳をご提示の方及びその介助者(1名)は無料
WEBサイト https://www.eiseibunko.com/exhibition.html#2022shoka