魔術師列伝

カルチャー|2022.1.28
澤井繁男

第6回 ジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ(4)

                 9

アリストテレスの観相学の理論面は「人相学」に記されている。まとめてみると、ある動物にはその固有の「形態(外)」と「気質(内)」がある。その動物に詳しいひとはその気質を外形から見抜くことが可能で、ここに「人相学」の誕生をみる。つまり、気質を外形(身体)の特徴から考察するのが、人相学ということになる。そこで身体が「霊魂」と共感関係にあるから、気質も霊魂の影響を受ける(下図参照)。

                 10

それではデッラ・ポルタにとっての観相術とは何であったか?
「観相術」について「定義」めいた文面を列挙してゆこう。
・「観相術とはつまり、身体に宿る特徴や偶発的な出来事によって知り得る知識のことで、霊魂の生来の特徴もこの偶然の仕儀で顔面に顕われて判明するのである」(第一巻30章)。―アリストテレスの説を踏襲している。
・「私たちはこれまでに、霊魂と肉体がその性情において相互にいかにして変容するのかを、その徴を通して霊魂の性向を知ることができることを明らかにしてきた」(同上)—極論すれば、霊魂の性向を知ることを観相術の主眼とみなしている。
・「これまで私たちは、いかなる方法で観相術が身体のなかにみられる徴から推測して霊魂の性向を認識してきたかを述べてきた」(第二巻序文)—ここで、身体のなかの徴を認識して霊魂の性向を知ることが観相術の方法である、と述べている。
・「すでに五巻までで、霊魂より深く隠れたところにある特性をいかにして身体の徴から調べられうるかを、充分に示してきた」(第六巻序文)―霊魂への傾斜の度合いが強まってきていて、アリストテレスと多少異なってきているのがわかる。アリストテレスの場合は、外から気質の特徴を見抜く、というものだったが、デッラ・ポルタの方は、身体の徴(内)から霊魂の性向を読み解くことが第一義であって、霊魂重視こそが彼の観相術なのである。
 その「霊魂」だが、人間の霊魂は「至高なる神が肉体に宿る折に特質を受ける」(第一巻19章)とある。星界からではないのである。霊魂は胚質から気質を受け、「完璧で霊的な神の手で創られた霊魂は肉体を活性化させる」(第一巻20章)。ともあれ「霊魂」第一主義に立っている。

                 11

ここまで「徴」について書いてきたが、「一定の徴を有している動物はみな一定の特性を有しており、徴のない動物は特性も持っていないのである。即ち、一定の徴こそが固有の徴なのである」(第一巻31章)。「徴」と「特性(気質)」との緊密な関連性が見受けられる。
 例えば、ライオンの裡に「強さ」を見出せば、ライオンとのアナロジーの表象としての徴を探せばよい。人間の男性のなかにも、ライオンのアナロジーとしてそれは見出せる(第一巻26章)。

男性前後図と獅子図(ヒトの各部と比較せよ)
女性前後図と女性の各部と似ているヒョウ

男女の各部をその特質を通して知ることによって、いかに多くの特質が推察できうるか
・「脚は丈夫で筋肉質。くすんだ黄金色の毛をしていて、縮れ毛でも直毛でもない。関節のしっかりした筋肉たくましい身体であって、柔ではなく文字通り堅固である。歩みはゆっくりで、歩幅は広く、一歩進むたびに優美に肩が上がり下がりする。度量の大きい性質であり、寛容にしてかつ勝利欲が強い。」

それでは「徴」そのものを、「心臓の気質の徴はいかなるものか」を例に挙げてみよう。

熱である心臓の徴は呼吸となって吐き出される息の量も多いし、脈も回数が頻繁である。大胆で、仕事との上では用心深く機敏でもある。必要以上に熱い場合、激昂したり怒気のこもった厳格な態度を取るものである。胸は毛深く、わけても腹のあたりは濃い。脳によって冷却されなければ、胸幅は広い。小さな顔、幅広い胸は心臓の熱の主たる徴である(第一巻7章)。

こうした「徴」を基にした考えは「徴表論」と言われており、スイスの錬金術師・内科医で「医化学派」の始祖パラケルスス(1493-1541年)が唱えた説である。この説にはアナロジーが根底にあるだろう。
 # 最後に一言、私ごとながら付言しておきたいことがある。私が第6回で取り挙げたデッラ・ポルタの翻訳刊行時、学的世界では「身体論」が盛んに論じられていたが、内部疾患のある身体障害者である私からすれば、その論が不十分に思えてならず、朝日新聞(1999年12月21日・夕刊)に以下の文章を寄せた。「身体を論ずる哲学者はみな健康で、それゆえ『肉体』をなおざりにしているのではないか(大意)」と。

〈第6回(4)、了〉次回は2月11日です。

参考文献
ジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ著 澤井繁男訳『自然魔術』青土社,1990年
ジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ著 澤井繁男訳『自然魔術 人体篇』青土社,1996年

澤井繁男
1954年、札幌市に生まれる。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。
作家・イタリアルネサンス文学・文化研究家。東京外国語大学論文博士(学術)。
元関西大学文学部教授。著者に、『ルネサンス文化と科学』(山川出版社)、『魔術と錬金術』(ちくま学芸文庫)、『自然魔術師たちの饗宴』(春秋社)、『カンパネッラの企て』(新曜社)など多数。訳書にカンパネッラ『哲学詩集』(水声社、日本翻訳家協会・特別賞受賞)などがある。

RELATED ARTICLE