いつもの散歩コースにあるアンティークショップを訪ね、ウィンドーショッピングを楽しむ。書店で新刊をチェックする。若い友人とあれこれ語り合う。ドライブに出かける。気になる企画展や展覧会を観に、ギャラリーや美術館に足を運ぶ。
そこでは自分がいいなと思うもの、好きだなと思うものを見つける楽しみがある。
「本質に触れて、知る。それをキャッチする。自分が主体になれば、いろんなものが見えてきますよ」と柚木さんは言う。
この日訪れたのは、東京・上野にある東京都美術館の「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」展。東勝吉、増山たづ子、シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田、ズビニェク・セカル、ジョナス・メカスという、5人の作家の作品が紹介されていた。自らを取巻く「壁」を、展望を可能にする「橋」へと変え、「よりよく生きる」ために必要な行為として表現された、絵画、彫刻、写真、映像。「記憶」というキーワードで構成されたユニークな展示のなかで、いちばん時間をかけて鑑賞したのは、チェコ・スロヴァキア(現・チェコ)出身の彫刻家・ズビニェク・セカルの作品だった。ひとつひとつの作品の前に立ち止まり、じっと見つめる。少しの緊張感が漂う静かな時間。
「セカルの作品と最初に出合ったのは、20年近く前のことです。ちょうどその頃、僕は型染めという仕事に対していろいろ思うことがあって、これ以上続けても自分の模倣でしかなくなるんじゃないかと迷っていた。そういうときに、偶然、セカルのブロンズの作品を見た。一瞬で圧倒されましたよ。余分なものがすべてそぎ落とされていて、でも必要なものは十分にそなわっている。鮮烈な造形に驚いた。セカルと出合った、その瞬間から僕は生まれ変わったんだね。
それまでずっととらわれていたことから解放されたというのかな。長年蓄積されたものはそのままに、新しい切り口で自分の可能性を探ってみようと思った。民藝というルーツを自覚しながら、主体的に意欲をもって取り組む。成功するかどうかなんていうのはわからないからね。でも、やってみようってね。
なんだってそうだけど、やらされるっていうのはつまらないでしょ。自分からおもしろがってやってみないと。本でも音楽でも、展覧会でもなんでも、自分でいいなと思うことを見つける楽しみ。そういうことが自分にとってもいい刺激になってくるんだね。
今日は初めて観るセカルの作品がたくさんあったけど、僕がもっているセカルの作品はやっぱりいいね(笑)」
PLAY! MUSEUM
企画展示「柚木沙弥郎 life・LIFE」
2021年11月20日(土)-2022年1月30日(日)
詳細はこちら