アメリカの名門バレエ団、ヒューストン・バレエがこの夏来日。2022年10月の初来日に続く3年ぶり2度目の来日で、今回は『ジゼル』全幕と「オープニング・ガラ」の上演を行う。来日を前に開かれた記者会見に、ヒューストン・バレエ プリンシパルの加治屋百合子と、ヒューストン・バレエ来日公演のアンバサダーを務める宇宙飛行士の野口聡一が登壇し、公演への想いを語った。

Houston Ballet Principals Yuriko Kajiya as Giselle and Connor Walsh as Albrecht with former First Soloist Christopher Coomer as Hilarion in Stanton Welch’s Giselle. Photo by Amitava Sarkar (2019), Courtesy of Houston Ballet.
2003年にスタントン・ウェルチが芸術監督に就任し、以来古典の全幕に創作作品と幅広いレパートリーを展開してきたヒューストン・バレエ。加治屋百合子は2014年にABT(アメリカン・バレエ・シアター)から移籍入団し、プリンシパルとして活躍してきた。バレエ団の魅力をこう語る。
「ヒューストン・バレエの一番の魅力は、ダンサーたちの技術の高さ。スタントン監督はコール・ド・バレエに対してもプリンシパルのような高い技術を求めます。また全幕作品はドラマ性の高い演出が多く、技術だけではなく、表現力も求められます。それがカンパニーのレベルを引き上げているのだと思います」


「オープニング・ガラ」では、スタントン監督振付の5演目『クリア』『シルヴィア』『蝶々夫人』『魂の音』『ヴェロシティ』を上演。加治屋は『蝶々夫人』と『クリア』を踊る。
「『蝶々夫人』は私自身すごく大好きな作品で、ぜひ日本で一度踊りたいと思っていた作品でもありました。私がABTのスタジオカンパニーに入団した17歳のとき、スタントンがABTに振付に来ていて、それが彼との出会いでした。当時、スタントンがスタジオカンパニーの監督に、「ユリコに蝶々夫人を踊らせたい」と言っていたそうです。まさかその後、ヒューストン・バレエで実際に『蝶々夫人』を踊ることになるとは思ってもみませんでした。今回踊るのは、1幕最後の蝶々夫人とピンカートンとの幸せいっぱいのシーン。スタントン作品ならではの高度でアクロバティックなリフトが入っている、とても難しいパ・ド・ドゥです。音楽の使い方や演出がすてきで、素晴らしいパ・ド・ドゥになっています」

Houston Ballet Principals Yuriko Kajiya as Cio-Cio San and Connor Walsh as Pinkerton in Stanton Welch’s Madame Butterfly. Photo by Amitava Sarkar (2016), Courtesy of Houston Ballet.
『クリア』は私がABTに入団した1年目にスタントンがABTに作った作品でした。そのとき私も舞台を観ていますが、それぞれのダンサーの良さを生かした作品で、舞台から大きなエネルギーを感じ、鳥肌が立ったのを今でも覚えてます。スタントンの代表作の1つでもあり、今回日本で踊ることができるのを楽しみにしています」(加治屋)

Houston Ballet Principal Yuriko Kajiya and Artists of Houston Ballet in Stanton Welch’s Clear. Photo by Lawrence Elizabeth Knox (2023), Courtesy of Houston Ballet.
スタントン芸術監督が加治屋にインスピレーションを受け作り上げたというのが、スタントン版『ジゼル』。2016年に世界初演し、このたび日本初演を迎える。
「スタントン版は独特で、みなさんがご存じの『ジゼル』と比べ音楽が長くなっています。一般に知られている『ジゼル』は本来の音楽がいくつかカットされているのですが、スタントン版はそれを元に戻しているので、聴いたことがないような場面もあると思います。なかでも一番の特徴はジゼルが混乱するシーン。通常より3倍くらい長く、1幕が終わった時点で気持ちを出しきってしまい、2幕に入るのがすごく大変です。ただそれによりジゼルがどう葛藤し、どういう心情に至るか、お客さまも感情が入りやすくなっているのではないかと思います」(加治屋)

Houston Ballet Principals Yuriko Kajiya as Giselle and Artists of Houston Ballet in Stanton Welch’s Giselle. Photo by Amitava Sarkar (2019), Courtesy of Houston Ballet.
宇宙飛行士の野口聡一は、長年ヒューストンで暮らし、ヒューストン・バレエの公演にもたびたび足を運んでいたという。
「足掛け26年ヒューストンに住んでいましたが、ヒューストン・バレエは市民にとても愛されていて、私も12月になると家族で『くるみ割り人形』を観に行くのが毎年の恒例になっていました。百合子さんと初めてお会いしたのは2017年のバレエ団のガラ・イベントだったと思います。その後ヒューストンの日本人会のみなさんと一緒にメジャーリーグを観戦したり、食事に行ったり、親しくさせていただいてきました。ヒューストン・バレエは百合子さんはじめ日本人のダンサーが非常に多いバレエ団でもあり、日本のみなさんにも彼らが活躍する姿をぜひ見ていただきたいと思います」(野口)


今回は60名のダンサーにスタッフを加えた総勢80名で来日。東京と愛知の2カ所をツアーで巡る。来日への想いを加治屋がこう話す。
「スタントン版『ジゼル』の全幕とスタントンの代表作を日本のみなさんにお見せできる、特別な公演になると思っています。ヒューストン・バレエのダンサーたちも前回の日本公演を経て、日本という国の素晴らしさを知り、みんな来日をとても楽しみにしています。東京公演だけではなく名古屋公演もあり、よりたくさんの方にヒューストン・バレエの魅力を伝えられたらと思っています」

Houston Ballet Principals Yuriko Kajiya as Giselle, Connor Walsh as Albrecht, and Soo Youn Cho as Myrtha with Artists of Houston Ballet as Wilis in Stanton Welch’s Giselle. Photo by Amitava Sarkar (2019), Courtesy of Houston Ballet.
加治屋百合子
Kajiya Yuriko
ヒューストン・バレエ プリンシパル
愛知県生まれ。8歳でバレエを始める。10歳より中国国立の上海舞踊学校で学び、奨学金を得て首席で卒業。2000年ローザンヌ国際バレエ・コンクールでローザンヌ賞受賞後、カナダ国立バレエ学校で学ぶ。2002年よりABT(アメリカン・バレエ・シアター)でソリストとして活躍し、2014年ファースト・ソリストとしてヒューストン・バレエに入団後間もなくプリンシパルに昇格。Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100人」、TIME誌「次世代リーダー」などでも紹介された。2019年にはジゼル役で米ポイント誌「傑出したパフォーマンス」に選出。2020年、コロナ禍の影響を受けている日本のアーティストのための支援プロジェクト「Hearts for Artists」を起ち上げるなど舞台以外でも活動をしている。国際的なキャリアが評価され、2020年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

ヒューストン・バレエ
1969年設立。テキサス州最大都市のヒューストンにある、ヒューストン・バレエには、世界各国から集まった60名のダンサーが所属している。アメリカ最大級のダンス専門施設Center for Danceを本拠地とし、同バレエ・カンパニーのために建設された、最新鋭の劇場ウォーサム・シアターで公演を行っている。2003年からは、オーストラリアの振付家スタントン・ウェルチが芸術監督を務め、古典作品の新制作に意欲的に取り組むと同時に、現代振付家の作品を数多く取り入れ、アメリカ国内でも豊富なレパートリーを抱えるバレエ・カンパニーとして評価されている。また、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場、パリのシャンゼリゼ劇場、ワシントンのケネディ芸術センターなど、国内外の名門劇場での好演を重ね、国際的に注目されている。2023年からジュリー・ケントが芸術監督に加わり共同監督となっている。

Houston Ballet Principal Connor Walsh and Artists of Houston Ballet in Stanton Welch’s Clear. Photo by Lawrence Elizabeth Knox (2023), Courtesy of Houston Ballet.

Artists of Houston Ballet as Wilis in Stanton Welch’s Giselle. Photo by Amitava Sarkar (2019), Courtesy of Houston Ballet.

Houston Ballet Soloists Danbi Kim and Naazir Muhammad in Stanton Welch’s Velocity. Photo by Amitava Sarkar (2024). Courtesy of Houston Ballet.
ヒューストン・バレエ
「オープニング・ガラ」『ジゼル』
〈東京公演〉
東京文化会館 大ホール
「オープニング・ガラ」7月3日19:00、『ジゼル』5日14:00・19:00、6日
13:00
〈愛知公演〉
愛知県芸術劇場 大ホール
「オープニング・ガラ」7月10日19:00、『ジゼル』12日13:00
詳細はこちら

おすすめの本
『SWAN―白鳥―愛蔵版』第16巻
有吉京子 著(平凡社刊)
定価=1870円(10%税込)
詳細はこちら
『SWAN―白鳥―』の続編として2014年から描かれた『SWAN ドイツ編』後半を収録。尊敬する天才振付家ジョン・ノイマイヤーの「オテロ」のオーディションを経て、デズデモーナ役を射止めた真澄。レオンと喜び合うも束の間、体調に異変を感じて訪れた病院で告げられたのは――? 1976年にスタートしたバレエ漫画の金字塔『SWAN―白鳥―』、遂に感動のフィナーレへ!!
●SWAN全16巻完結記念企画:描きおろし番外編「引退公演を迎えた日」23P収録! 真の最終回ともいえる有吉先生のメッセージのこもった力作です。他にも、新規着色ページ、イラストも収録の贅沢な一冊。ぜひ、ご覧ください!

おすすめの本
『SWAN―白鳥―愛蔵版』 特装BOXセット5
『SWAN愛蔵版』⑬⑭⑮⑯巻が入った美装函セット
定価=7920円(10%税込)
有吉京子 著(平凡社)
*初版限定、豪華特典あり
複製原画2点封入済み(真澄&レオン、リリアナ&セルゲイエフ先生が登場!)
詳細はこちら