パンでも、ごはんでも「一汁一菜」の組み合わせは自由に。

ピックアップ|2022.3.14
別冊太陽編集部

土井善晴さんと考える〝料理をして食べること〟

みなさん、本書を料理の本と思って手に取ったならびっくりされるでしょう。料理研究家の本なのに、料理のレシピは出ていないし、何やら真面目で哲学的なことが語られたりしています。ここでは土井善晴さんが何を考え、どんなメッセージを伝えたいのかをあますところなく紹介しています。今こそ「食」について真剣に問いかけ、基本から学んでおくことが必然になった転換期であり、これからの未来を変える第一歩として読んでいただきたいと思います。

「おいしいもの研究所」アトリエでの土井善晴さん 撮影=岡本寿

「一汁一菜」というスタイル

「現代の私たちは何を信じて生きていくのか、と問われています。一汁一菜には未来があると信じます」(土井善晴 本書巻頭言より)
土井善晴さんが提案する食事のスタイルが「一汁一菜」。つまり、ご飯に汁(味噌汁)と菜(おかず)を一品ずつ組み合わせた基本形の食事。くらしの一部である料理に特別な負担をかけず、とはいえ家族の命を守る大事な営みとして、和食における座標軸となるのが「一汁一菜」。忙しい時も味噌汁を具だくさんにすれば、おかずの一品となり、栄養的にも健全な料理になるのです。一人暮らしでも料理することが大切で、暮らしや健康を整えることができます。

飯と汁と菜をあわせた食事の型が「一汁一菜」。これでしっかりバランスのとれた食事になる。撮影=岡本寿

「家庭料理は、民藝や」

プロの料理家として超一流を目指していた土井さんは、父の経営する料理学校の手伝いをすることになったものの、家庭料理を教える仕事が一生の仕事とは思えないでいました。そんなとき、京都の河井寛次郎記念館を訪れて「民藝」の世界に出会い、「そうか、家庭料理は民藝や」と気づかされました。家庭料理は名もなき工人が作る美しいものと同じ、ふつうの暮らしにこそおいしいものがあると。家庭料理の真理を民藝の作品に悟ったことで、はっきりと進むべき道が見えたのでした。

京都の河井寛次郎記念館を再訪し、寛次郎が実際に使っていた机の前で思いをはせる。撮影=堀内昭彦

思考の源泉となっているのは読書

土井善晴さんの料理哲学の源泉となっているのは読書の習慣です。その書斎には、美術、哲学、思想、科学など多彩なジャンルの書物が雑然と並んでいます。しかし、こうした「難しい本」を読むようになったのは、せいぜいこの十年ほどだそうです。土井さんは、この年になったから「自分にとって意味のある何かがある」という確信をもって本に導かれるといいます。一回読んでもわからず、二回も三回も読むたびにインクを変えながら余白に書き込みを入れたり線を引いたりするのが、土井さんの「読む」行為。読んだ本には付箋もびっしり。人間はいくつになっても成長できると、土井さんは自分の言葉を通して伝えていきたいといいます。

本にびっしりと貼られた付箋の量! 重要な事柄をすぐ引き出せるようになっている。撮影=岡本寿

別冊太陽『土井善晴』


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