プティの人形愛が美しくも哀しい名作。 無料配信で16.7万人が鑑賞
新国立劇場バレエ団は、『くるみ割り人形』(12月23日~1月3日)、「ニューイヤー・バレエ」(1月13日~15日)に続いて、2月に、ローラン・プティの『コッペリア』を上演した。
同公演は、本来2021年5月に上演される予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、無観客で全4キャストの舞台を無料ライブ配信するという思い切ったサービスを提供した結果、なんと16.7万人が視聴。この「観客動員」が成功し、今回(全6公演)の盛況に繋がったと思われる。年明け早々幸先の良いスタートとなった。
初日の開幕に当たり、吉田都舞踊監督が舞台に登場し、本公演が、小口寄附のおかげで実現できたことに対する感謝の意を表明。続いてフランツ役の交替(渡邊峻郁が都合により降板し、福岡雄大が代演)が告げられた。因みに寄附は、令和2、3年度に舞踊公演に使途を指定して寄せられたもので、10,643,950円が『コッペリア』公演に使用されたとのことである。
この作品がレパートリーに入ったのは2007年のことで、今回もプティの信頼厚かったルイジ・ボニーノのステージングの下、軽妙洒脱なプティ・バレエのエッセンスを存分に伝えた。
プティ自ら演じた難役「コッペリウス」を山本が好演
プティ版は、第3幕「鐘の祭り」をカットしたほかは、大筋は古典版に沿った流れをとっているので、初心者にも抵抗なく見られる良さがある。最大の特徴は、従来、脇役に過ぎなかった人形遣いの老人コッペリウスをスワニルダに恋するダンディーな紳士に設定し、主役と同格に位置付けたこと(1975年の初演以来、長年、プティ自身が演じた)。今回、所見の山本隆之(交互出演:中島駿野)が入魂の演技を披露したのがまず特筆される。「時の踊り」の音楽での人形とのワルツでの陶酔の表情から、最後に、夢破れて絶望するラストシーンに至るまで、悲哀に満ちた演技が忘れがたい。
5通りのキャストでプティ作品の真髄に迫る
主要3役には、5通りのキャストが組まれ、初日は、小野絢子のスワニルダ、福岡雄大のフランツ、山本のコッペリウスの組み合わせ。小野が愛らしくコケティッシュな魅力で、男性二人の心をときめかす様が、実に生き生きと描かれ、痛快この上ない。小野&福岡ペアは、渡邊の降板に伴う急な組み合わせだったが、第1幕の「麦の穂のバラード」に代表される恋のさや当てのシーンの阿吽の呼吸をはじめ、古典バレエと同レベルの超絶技巧を次々に繰り広げ、プティ版をさらに高い次元に引き上げた。なお福岡は、25日(土)も昼夜連投したのは賞賛に値する。
遊び心感じるフランツ初役の速水渉悟
千秋楽は、米沢唯と速水渉悟のペアに、山本=コッペリウスの組み合わせが新鮮だった。米沢=スワニルダは、第1幕では可憐と思いきや、第2幕の「ジーグ」などで、黒鳥オディールを彷彿とさせる妖艶な演技に独創性を発揮、速水=フランツは宙に浮き上がるようなスケールの大きい回転技に、遊び心が感じられる役作りが頼もしい。
街の娘たちや衛兵たちの踊りも、洒落ている。プティのバレエをここまで洗練された感覚で踊りこなせるようになるとは感嘆もの。
マルク・ルロワ=カラタユード指揮の東京交響楽団は絢爛たる響きで会場を満たし、終演後は、客席総立ちで熱狂的な拍手がいつ果てるともなく続いた。(新国立劇場オペラパレス 2月23日~26日)
[新国立劇場バレエ団 今後の公演]
●バレエ「シェイクスピア・ダブルビル」
『夏の夜の夢』新制作/『マクベス』世界初演
2023年4月29日~5月6日(オペラパレス)
シェイクスピアの戯曲から二作品を取り上げ新制作に挑む。英国の巨匠フレデリック・アシュトン振付の人気作『夏の夜の夢』と気鋭の振付家ウィル・タケットが新国立劇場バレエ団のために創作する世界初演の『マクベス』。前者には次世代スター候補、後者にはベテランプリンシパルが配役されているのも話題。
写真=『マクベス』Photo by Satoshi Yasuda
●ダンス「DANCE to the Future 2023」
2023年3月24日~3月26日(小劇場)
新国立劇場バレエ団から振付家を育てるプロジェクトで、優れた作品を上演する恒例の人気企画。小劇場での公演のため、チケット入手はお早めに!
新国立劇場HP https://www.nntt.jac.go.jp
新国立劇場ボックスオフィス ☎03-5352-9999