金森穣 Noism Company Niigata
『Der Wanderer―さすらい人』

カルチャー|2023.3.13
文=渡辺真弓(オン・ステージ新聞編集長、舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師) 舞台写真 撮影=篠山紀信

2004年、日本初の公共劇場専属カンパニーを新潟に創設

 金森穣率いる「Noism Company Niigata」の名をご存知だろうか。2020年、BSN新潟放送などで放送されたドキュメンタリー「芸術の価値―舞踊家 金森穣 16年の闘い」(2019制作)をご覧になったり、金森の近刊『闘う舞踊団』(夕書房)を読まれた方もいるかもしれない。
 このカンパニーが生まれたのは2004年。演出振付家の金森を芸術監督に迎え、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動してきた。公共劇場専属の舞踊団は日本ではNoismが初めての試みで、金森が研鑽を積んだヨーロッパでは考えられないような諸問題に直面しつつも、19年の長きにわたって、ダンス界を牽引してきた。
 一時、新潟市の財政事情から存続問題に揺れたが、昨年9月から、市が定めた、りゅーとぴあレジデンシャル制度に基づき、国際活動部門(芸術監督:井関佐和子)、地域活動部門(芸術監督:山田勇気)の2部門を新設し、全体を金森(芸術総監督)が統率するという新体制がスタートしたばかりだ。

金森穣(芸術総監督)撮影:篠山紀信
水と緑に囲まれたりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
『闘う舞踊団』金森穣著(夕書房刊) 定価=2200円(10%税込)
井関佐和子(国際活動部門 芸術監督)撮影:松崎典樹
山田勇気(地域活動部門 芸術監督)撮影:松崎典樹

苦節19年、新生カンパニーの境地

 その新生カンパニー注目の新作第1弾『Der Wanderer―さすらい人』が、1月、本拠地新潟での初演に続いて、2月、東京の世田谷パブリックシアターで上演された(合わせて全14公演を実施)。
 ここ数年、金森は、歌曲に触発されて『夏の名残のバラ』『Near Far Here』『お菊の結婚』などを創作してきた。とりわけシューベルトに惹かれたそうで、その700を超える歌曲から「愛と死」をテーマに21曲を選び創作されたのが今回の新作である。いずれもヘルマン・プライ、マティアス・ゲルネ、ナタリー・シュトゥッツマンら、錚々たる歌手陣による録音音源を使用。
 ステージを縁取るように植えられた無数の真紅のバラの花や天井に向かって曲線を描きながら伸びる樹木のオブジェ(美術:近藤正樹)は、生命力が宿り、作品のテーマを象徴するようで効果的だった。

「さすらい人」に金森の恩師ベジャールを想起

 今回は、群舞よりむしろソロやデュエット、トリオなどを通して個人にスポットが当てられた印象で、ここ数年の間に入団した若いメンバーが青春を謳歌するように縦横無尽に舞台を駆け巡る様が清々しかった。一方、死を暗示するシーンが散見されたのも見逃せない。
 冒頭の「さすらい人」で、トランクを手にした「さすらい人」山田が登場。舞台を見守りながら、自らも踊りに加わるのがユニークだ。若い9名のメンバーが交互に舞台で踊る様子を見つめる姿は、あたかも自分の青春を思い出しているかのようである。そう言えば、金森の恩師モーリス・ベジャール(1927〜2007)の作品にもこのような旅人の姿があったとふと懐かしく思った。

シューベルトの歌曲に導かれ心の旅へ

 「蝶々」の軽やかな男性ソロ、「野ばら」や「愛の歌」等のほのかな感傷、「さすらい人」の分身を思わせる男性陣の「セレナーデ」……。「彼女の肖像」では、井関がしなやかに踊った後、地面に溶けるように消えていくのが儚くも美しい。続く「鴉」で山田が張り詰めたソロを見せるのが好対照。
 15曲目の「魔王」では、魔王に怯える子を守る父親の三者の関係が明瞭に描かれ、恐怖のイメージを高めた。山田の「さすらい人の夜の歌」、井関の「影法師」を経て、最後は「夜と夢」で、一度倒れたダンサーたちも蘇り、全員が揃う。カーテンコールはなかったが、代わりに舞台に点在したバラの花のイメージが心に残る。
 美しくも哀愁漂うこの新作は、パンデミックや戦争で先が見えない今だからこそなお共感を抱かせるものとなった。カンパニーがさらにどう変容していくか、まさに「分岐点」にふさわしい作品が生まれたと言えるだろう。(2月24日 世田谷パブリックシアター)

今後の公演

●Noism2定期公演vol.14+Noism1メンバー振付公演2023
研修生カンパニーNoism2が金森穣振付のNoism作品から構成するレパートリー上演に挑む。同時に、Noism1メンバーの振付による新作4本も上演。
・Noismレパートリー 出演:Noism2
・Noism1メンバーによる新作4本(予定) 出演:Noism1、Noism2
2023年4月22日(土)→4月23日(日)*全2回
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉


●Noism0 / Noism1「領域」
ダンスカンパニーカレイドスコープを率い、独創的な動きと構成で注目される二見一幸がNoism1に振付。Noism芸術総監督・金森穣によるNoism0最新作とのダブルビルを、新潟・東京で上演。
・『Floating Field』 演出振付:二見一幸 出演:Noism1
・『Silentium』 演出振付:金森穣 出演:Noism0

新潟公演
2023年6月30日(金)→7月2日(日)*全3回
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
東京公演
2023年7月14日(金)→7月16日(日)*全3回
会場:めぐろパーシモンホール〈大ホール〉

おすすめの本

『Noism 井関佐和子――未知なる道』
井関佐和子 著  篠山紀信 写真 (平凡社刊)
定価=2310円(10%税込)

Noism創立10周年を記念し2014年に刊行された本書は、現在、国際活動部門の芸術監督を務める井関佐和子の半生をカンパニー結成当初から追い続ける篠山紀信の写真とともに振り返るフォトエッセイ。欧州へのバレエ留学や金森との出逢い、葛藤など一人の女性として共感できるエッセイをはじめ、金森とのロング対談、Noism公演履歴一覧なども収録。

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